夏の花(読み)ナツノハナ

デジタル大辞泉 「夏の花」の意味・読み・例文・類語

なつのはな【夏の花】

原民喜短編小説。昭和22年(1947)、雑誌三田文学」6月号に発表。翌昭和23年(1948)、第1回水上滝太郎賞を受賞自身広島での被爆体験に基づく作品。続く「廃墟から」「壊滅の序曲」とあわせ、三部作をなす。

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改訂新版 世界大百科事典 「夏の花」の意味・わかりやすい解説

夏の花 (なつのはな)

原民喜の短編小説。1947年《三田文学》に発表。1945年8月6日広島で原爆を被災した原民喜は,自分は〈原子爆弾一撃からこの地上に新しく墜落してきた人間〉であると規定し,〈新しい人間〉の眼で,言語に絶する悲惨のなか,〈水を,水を,水を下さい,……ああ……お母さん……姉さん……光ちゃん〉と苦悶の声を発しつつ死んでいった人たちのありのままの姿をえがいた。しかし現世の地獄をえがきながら,ひたすら死をみつめつづけた詩人の眼は,亡き妻と広島の死者への鎮魂の賦が重なって静謐に澄み透っており,深い感動を呼びおこさずにはおかない。《夏の花》《廃墟から》(1947),《壊滅序曲》(1949)で三部作をなす。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夏の花」の意味・わかりやすい解説

夏の花
なつのはな

原民喜(たみき)の短編小説。1947年(昭和22)6月『三田(みた)文学』に発表。49年能楽書林刊の『夏の花』所収。郷里広島で原爆にあった体験を、記録風な形で小説にまとめたもの。その冒頭は、亡き妻の墓参に、名もない夏の花を持って出かけるところから始まるが、それは2日後の原爆投下によって死んでいった多くの死者たちに対する献花となる趣(おもむき)もある。地獄図絵さながらの被曝(ひばく)状況を描きながら、本質的には詩人だった作者が、透明な抑制のきいた文体でつぶさにたどっているだけに、目を覆うような悲惨な状況が、逆に鬼気迫る感じで伝わってくる。

[中石 孝]

『『夏の花』(新潮文庫)』

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世界大百科事典(旧版)内の夏の花の言及

【原民喜】より

…左翼運動を断念してからデカダンな生活を送ったが,評論家佐々木基一の姉の貞恵と結婚後は身心ともに落ち着き,積極的な創作活動に入った。 1944年に妻を失い,45年8月6日広島で原爆に被災してからは,みずからを〈原子爆弾の一撃からこの地上に新しく墜落してきた人間〉と規定し,亡き妻をしのぶ《苦しく美しき夏》《死のなかの風景》など〈美しき死の岸に〉の連作,《夏の花》《廃墟から》(以上1947),《壊滅の序曲》(1949)の三部作から,《鎮魂歌》《心願の国》などにいたる作品を書いた。ひたすら死を見つめつづけた彼は,これらの作品を書き終えると同時に,静謐(せいひつ)な気持をいだいたまま鉄道自殺した。…

※「夏の花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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