夏衣(読み)ナツゴロモ

デジタル大辞泉 「夏衣」の意味・読み・例文・類語

なつ‐ごろも【夏衣】

[名]夏に着る衣服夏着なつぎ 夏》「着馴れても折目正しや―/来山
[枕]
夏衣は薄く、単衣ひとえであるところから、「うすし」「ひとへ」に掛かる。
「―うすくは更に思はぬを」〈続後拾遺・恋四〉
「―ひとへに西を思ふかな」〈新拾遺釈教
夏衣をつ意から、「立つ」などに掛かる。
「―立ち別るべき今夜こそ」〈拾遺・別〉

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精選版 日本国語大辞典 「夏衣」の意味・読み・例文・類語

なつ‐ごろも【夏衣】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 夏に着る着物。夏の衣装。《 季語・夏 》
      1. [初出の実例]「せみのはのひとへにうすき夏衣なればよりなん物にやはあらぬ〈凡河内躬恒〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑体・一〇三五)
      2. 「卯月の末、庵に旅のつかれをはらすほどに、夏衣いまだ虱をとりつくさず」(出典:俳諧・野ざらし紀行(1685‐86頃))
    2. 香木の名。分類は佐曾良(さそら)。明和年間(一七六四‐七二)、名古屋花井家の臼が香木の赤栴檀(しゃくせんだん)であると分かり、「花井臼」と呼ばれた。家元の蜂谷家を通じて冷泉為村に名を求めたところ、「臼(うす)=薄」に因んで「夏衣」と命名された。
    3. 薫物(たきもの)の名。
      1. [初出の実例]「薫物之方。〈略〉夏衣。一、沈 四両」(出典:五月雨日記(1479))
  2. [ 2 ]
    1. 夏の衣は薄いところから「薄し」、または「薄し」と同音を含む地名「うすゐ」にかかる。
      1. [初出の実例]「蝉の声聞けば悲しな夏衣うすくや人のならんと思へば〈紀友則〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋四・七一五)
    2. 夏の衣は単(ひとえ)であるところから、「ひとえ」と同音の「ひとへ」にかかる。
      1. [初出の実例]「我のみぞ急ぎたたれぬ夏衣ひとへに春を惜しむ身なれば〈源師賢〉」(出典:金葉和歌集(1124‐27)夏)
    3. 夏の衣を裁(た)つ意で、「裁つ」と同音の「立つ」、およびその複合語や、地名「龍田」にかかる。
      1. [初出の実例]「夏衣今日たつ旅のわびしきは惜む涙ももるるなりけり」(出典:宇津保物語(970‐999頃)吹上上)
      2. 「なつころもたつたの山のほととぎすいつしか鳴かむ声を聞かばや」(出典:金槐和歌集(1213)夏)
    4. 夏の衣の裾の意で、「裾野」にかかる。
      1. [初出の実例]「夏ころもすそ野の原を分け行けば折りたがへたる萩が花ずり〈顕昭〉」(出典:千載和歌集(1187)夏・二一九)
    5. 夏の衣を織る意で、「おりはへ」にかかる。
      1. [初出の実例]「夏衣おりはへてほす河波をみそぎにそふる瀬々の木綿幣(ゆふしで)」(出典拾遺愚草(1216‐33頃)中)
    6. 「縑(かとり)」の夏の衣の意で、「縑」と同音の地名「かとり」にかかる。
      1. [初出の実例]「夏衣かとりの浦のうたたねに浪のよるよるかよふ秋風」(出典:拾遺愚草(1216‐33頃)上)
    7. 夏の衣を張る意で、「張る」と同音の「春」にかかる。
      1. [初出の実例]「なつころも春の形見をたつた山秋は紅葉の色を染むとも〈藤原有家〉」(出典:千五百番歌合(1202‐03頃)三一一番)
    8. 夏の衣を着る意で、「着る」と同音の「来て」にかかる。
      1. [初出の実例]「なつころもきては見えねど我がためにうすき心のあらはなる哉」(出典:和泉式部集(11C中)上)
    9. 夏の衣を打つの意で、「打つ」と同音を含む地名「うたしめ山」にかかる。
      1. [初出の実例]「夏ころもうたしめ山のほととぎす鳴く声しげく成りまさるなり」(出典:古今和歌六帖(976‐987頃)二)
    10. 夏の衣の紐の意で、「紐」と同音の「日(ひ)も」にかかる。
      1. [初出の実例]「おのづから涼しくもあるか夏衣日も夕暮の雨のなごりに〈藤原清輔〉」(出典:新古今和歌集(1205)夏・二六四)

夏衣の語誌

( 1 )[ 一 ]の例は、ほとんど「古今集以後和歌に限られる。歌題としては「古今六帖‐五」の「服飾」にみえるのが古いが、八代集には用例がない。平安朝歌合でも、現在確認できるのは「長久二年権大納言師房歌合」(一〇四一)のみで、この他には「永久百首」の歌題となっているに過ぎない。
( 2 )夏季の冒頭題としては「更衣」が常套だったが、「夏衣」は平安後期に至ってその変形として登場したようである。題意[ 一 ]挙例の躬恒歌のように、夏衣の「うすき」ことを強調したり、[ 二 ]の挙例の源師賢歌のように、惜春の情を誘発したりするものとして詠まれた。
( 3 )連俳書では、[ 一 ]の挙例の芭蕉句のようにすべて初夏の季語とし、すがすがしい新鮮さが詠まれる点に主眼が移ってくる。
( 4 )[ 二 ]枕詞は平安時代以降に登場し、時代が下るに従って、多様なかかり方が現われる。


なつ‐ぎぬ【夏衣】

  1. 〘 名詞 〙 夏に着用する衣服。なつぎ。なつごろも。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「夏ぎぬのありしながらも冬の夜は妹とし寝なば寒からんやそ」(出典:曾丹集(11C初か))

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