多孔質ガラス(読み)タコウシツガラス(その他表記)porous glass

デジタル大辞泉 「多孔質ガラス」の意味・読み・例文・類語

たこうしつ‐ガラス【多孔質ガラス】

多孔質ガラス。均一なガラスを熱処理によって複数分離し、可溶性のガラス相のみを薬品で溶出することで多数細孔を形成する。ほか多孔質物質と同じく、気体液体などの分子イオンの吸着性が高い。ポーラスガラス

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改訂新版 世界大百科事典 「多孔質ガラス」の意味・わかりやすい解説

多孔質ガラス (たこうしつガラス)
porous glass

バイコール耐熱ガラス一種)製造の中間プロセスで得られるガラス。数百Åの連続細孔を含んでいる。まずNa2O-B2O3-SiO2系のガラスを溶融し成形する。次いでこれを600℃程度で熱処理をすると,分相現象が起こって2種類のガラス相に分離する。一つはSiO296%からなる高シリカ相であり,他はNa2O-B2O3成分を多く含む相である。後者は化学的安定性が低いので酸で処理をすることによって取り除くことができる。この分相現象はスピノダル分解によって起こるとされており,2相のガラスは数百Åという,きわめて短い周期で互いにからみ合った特殊な構造をもっているため,一方を除去することによって連続細孔を含んだガラスになる。多孔質ガラスは,酵素や触媒を固定するための担体として,あるいは核分裂生成物の固定化処理用などの用途が考えられている。
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化学辞典 第2版 「多孔質ガラス」の解説

多孔質ガラス
タコウシツガラス
porous glass

ガラスの分相現象を利用してつくられた無数の貫通細孔を有するガラス.一般には,75重量%SiO2,20重量%B2O3,5重量%Na2O近傍の組成のガラスを,600~700 ℃ の温度域で高温熱処理して分相組織をつくり,ほぼNa2O・5B2O3に近い組成の可溶性のガラス相だけを希塩酸などで溶出して高シリカ質の骨格を残し,これを乾燥させたもので,最小直径が2.0 nm 程度の細孔を有し,表面積は200 m2 g-1 程度である.細孔径は数百 nm 程度のものまでつくることができ,ウイルスの分別イオン交換などの目的で分子ふるいとして使用される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「多孔質ガラス」の意味・わかりやすい解説

多孔質ガラス
たこうしつがらす
porous glass

熱処理によって、均一なガラスが二つ以上の相に分かれる分相現象を利用してつくられるガラス。分相によって生成した第二相を、硫酸や塩酸などで溶かすと、その部分が空隙(くうげき)となり、数ナノメートル~数マイクロメートルの無数の連続した細孔をもつ多孔質ガラスを得ることができる。細孔表面積は最大数百平方メートル/グラムと大きく、熱処理条件を変えることによって、希望の細孔径や細孔表面積をもった多孔質ガラスを得ることが可能である。また、無機材料であるため、有機質材料と異なり、細菌に侵されることがない。これらの特長を利用し、細孔表面をイオン交換樹脂で修飾することで同位体の分離に利用したり、特定の酵素を担持することでバイオリアクター(生物反応器)として応用されている。

[伊藤節郎]

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