夜ごとに岩石が泣き声を発するという伝説。有名なものは、東海道の小夜ノ中山(さよのなかやま)の夜泣石(静岡県掛川市)で、山賊に殺された妊婦が石の下に埋められたのちに子を産み落として、その幽霊が夜ごとに食物をあさり歩き、その悲しみの声が旅人を悩ませたと伝えている。昔話「子育て幽霊」の素材でもあり、近世随筆にも記される。長野県更級(さらしな)郡上山田村(現千曲(ちくま)市)のそれは、姨捨(おばすて)山に捨てられた姥(うば)が石と化して夜泣きして鳴動し、西行(さいぎょう)法師に読経してもらうと、得度して二つに割れ、血を吹いたという。福井県丹生(にゅう)郡糸生(いとう)村(現越前町)のは、比丘尼(びくに)が谷の大岩の下に投げ落とされて死んだために、その大岩はいまでも夜中に泣き声をたてるという。同県今立(いまだて)郡河和田(かわだ)村(現鯖江(さばえ)市河和田町)のは、村の入口にあって、この石を動かしたり持ち帰ったりすると夜中に泣き、光ったこともあって、もとは朝倉氏のころ(戦国時代)の首切り石であったという。
これらの伝説は後世の付会がほとんどである。その原型は、赤子塚をはじめとする、非業の横死者の目印となる塚の伝承と同性質のもので、塚と同じ伝承が石にかわったのも多かったであろう。また、夜泣石についている苔(こけ)や石の破片を持ち帰って夜泣きの子の枕(まくら)の下に置くと幼児の夜泣きがやむという俗信伝承も、上述伝説とは別に存在している。そのほか長野県下伊那(しもいな)郡上郷(かみさと)町(現飯田市)では、山の崩壊で押しつぶされた子を祀(まつ)った子泣石の伝説もある。石の上には地蔵が祀られていて願掛けをすると幼児の夜泣きが止まるという。このような被祭祀(さいし)体としての夜泣石もある。
[渡辺昭五]
『『木思石語』(『定本柳田国男集5』所収・1963・筑摩書房)』
夜な夜な声を出して泣いたという伝承をもつ石。大別すると3型に分かれる。(1)村境の石を移動したところ夜泣きをするようになったので,元に戻すと夜泣きがやんだと伝え,聖石移動を夜泣きの要因とする。(2)女人が死後村境の石と化し夜泣きをするので,旅の宗教家が供養をすると夜泣きがやんだという話。境の神に手向けをする宗教家が,この伝説の生成・伝播に深くかかわっていたと考えられる。(3)妊婦の死後,埋めた石の下から毎夜赤子の泣声が聞こえたので夜泣石の名がついた。この場合は掘り起こされた赤子が成人して高僧となったと説き,〈赤子塚〉〈子育て幽霊〉の話と関連する。いずれにしても石が声をたてるところに伝説の核があり,石に精霊が宿り,霊魂が出入りすると信じられていた痕跡をとどめている。夜泣石の位置が村境に多いのは,境の神(塞の神)・道祖神と結びつきが深いからである。
執筆者:大島 広志
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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