姨捨(読み)オバステ

デジタル大辞泉 「姨捨」の意味・読み・例文・類語

おばすて〔をばすて〕【姨捨/伯母捨】

謡曲。三番目物観世宝生金剛喜多流。名月の夜、信濃の姨捨山に、昔この山に捨てられた老女が現れて舞をまう。「三老女」の一。

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精選版 日本国語大辞典 「姨捨」の意味・読み・例文・類語

おばすてをばすて【姨捨・伯母捨】

  1. [ 一 ]おばすてやま(姨捨山)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「こむといひし月日をすぐすをはすての山のはつらき物にぞ有ける〈よみ人しらず〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)恋一・五四二)
  2. [ 二 ] 謡曲。三番目物。各流。作者不詳。古名「姨捨山」。「大和物語」による。中秋の名月の夜、信濃国(長野県)の姨捨山に、昔この山に捨てられた老女が現われ、昔をしのんで舞を舞う。「関寺小町(せきでらこまち)」「檜垣(ひがき)」とともに「三老女」といわれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「姨捨」の意味・わかりやすい解説

姨捨
おばすて

能の曲目。三番目物。五流現行曲。ただし金春(こんぱる)流は昭和の復曲。金春、喜多流は「伯母捨」と表記する。世阿弥(ぜあみ)作。都の男(ワキ)が仲秋(ちゅうしゅう)の名月にあこがれて信濃(しなの)国(長野県)の姨捨山に登ると、寂しげな中年の女(前シテ。老女の扮装(ふんそう)にする場合もある)が現れ、昔捨てられた老女が「わが心なぐさめかねつ更科(さらしな)や姨捨山に照る月を見て」と詠んだ旧跡だと語り、自分がその本人であり、月の出とともにふたたびと告げて消える。月が澄み渡ると白衣の老女(後シテ)が現れ、月をめでつつ月にちなむ仏説を語り、静かに舞い興じる。夜が明け旅人が去ると、老女はまた寂しく山に残される。老女の霊が捨てられた悲しみも孤独な死のむごさもあらわには再現せず、むしろ月の精のような澄み切った美しい存在に昇華されているところに能の主張がある。棄老伝説の残酷さは間狂言(あいきょうげん)の里人の物語に集約されている(嫁のそそのかしで、男が親同様に養われた盲目の伯母を山に捨てた話)。『関寺小町(せきでらこまち)』『檜垣(ひがき)』に次ぐ最奥の能として、三老女とよばれている。年齢、芸劫(げいこう)に優れないと上演できない曲である。なお、同じ棄老をテーマとする深沢七郎作の『楢山節考(ならやまぶしこう)』を、新作狂言として野村万作ほかが上演したことがある。

増田正造

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改訂新版 世界大百科事典 「姨捨」の意味・わかりやすい解説

姨捨 (おばすて)

能の曲名。流派により〈伯母捨〉と書く。三番目物老女物。世阿弥時代からある能。作者不明。シテは老女の霊。旅人(ワキ)が信濃の姨捨山に赴くと,中年の女に声を掛けられる。女は,ここは昔老女が捨てられた所だと教え,自分は実はその老女の霊だと明かして消え失せる。夜になると,澄みわたる満月の光に照らされて,白髪の老女が姿を現す。老女は,月天子(がつてんし)は勢至菩薩と同体で阿弥陀如来の脇侍であると説き,極楽の有様を描き(〈クセ〉),昔を懐かしんで舞を舞うが(〈序ノ舞〉),旅人が帰ったあとも,昔のようにひとり取り残されて立ち尽くす。クセ・序ノ舞が中心。姨捨伝説よりも月の賛美に力が注がれている感じで,清澄閑寂な趣に終始する。
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百科事典マイペディア 「姨捨」の意味・わかりやすい解説

姨捨[駅]【おばすて】

長野県千曲市にある駅。1900年開業。篠ノ井線長野盆地を離れて冠着山を越える急勾配の途中にあり,列車を止める駅を平坦地に設置するため,珍しいスイッチバックと呼ばれる設備をもつ。駅は勾配途中から線路を引き込んだ場所にあるため,この駅に停車する際には必ず1度は後退運転を行わなければならない。運行上手間がかかることから全国的に勾配途上のスイッチバック施設は減少してきており,存在意義は高まっている。長野盆地を一望する好展望地でもあり,わざわざこの駅に停車して眺めを楽しむ観光列車も時折運転されている。
→関連項目大畑[駅]姨捨山

姨捨【おばすて】

能の曲目。伯母捨とも書く。鬘(かつら)物。老女物。五流現行。世阿弥作という。棄老伝説によるが,無惨な風習も,捨てられた恨みも浄化され,永遠の月への思慕と,絶対の孤独を描く。《関寺小町》《檜垣(ひがき)》とともに三老女と呼ばれ,至難至高の能。幽玄を止揚した無色無味の世界。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「姨捨」の意味・わかりやすい解説

姨捨
おばすて

能の曲名。三番目物。金春,喜多の2流では「伯母捨」と記す。作者は世阿弥説が有力。都の男 (ワキ) が同行者 (ワキツレ) とともに中秋の名月を眺めようと姨捨山へやって来る。そこに里の女 (前シテ) が現れ,この山に捨てられた老女のことなどを語って立去る。 (中入り) 。やがて月の光に照らされて白衣の老女 (後シテ) が現れ,昔をなつかしんで静かな舞 (序の舞) を舞う。明け方,男たちは山を去り,あとには老女がひとり残る。『大和物語』その他の棄老伝説に拠りながら,月光と一体化した老女の無色透明な美しさに主眼をおいた秘曲の一つで,『檜垣』『関寺小町』とともに「三老女」と呼ばれる。

姨捨
おばすて

長野県北部,長野盆地の南端をなす冠着山 (かむりきやま) 北麓一帯の通称。『大和物語』や『今昔物語集』に出てくる棄老の伝説の場所といわれる。 JR篠ノ井線の姨捨駅から下方が中心地で,急傾斜面の階段状水田が広がり,ここに映る田毎の月は近世以来名高く,名勝に指定されている。長楽寺には松尾芭蕉の「俤 (おもかげ) や姨ひとりなく月の友」をはじめ多くの句碑がある。眼下の千曲川の流れや長野盆地の大観,飯縄山,戸隠山など眺めがよい。

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事典・日本の観光資源 「姨捨」の解説

姨捨

(長野県千曲市)
日本の棚田百選」指定の観光名所。

姨捨

(長野県千曲市)
日本百景」指定の観光名所。

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世界大百科事典(旧版)内の姨捨の言及

【楢山節考】より

…各地の姨捨(うばすて)伝説に取材して,老人は70歳になると捨てられるという習慣のある信州の村の物語として書かれた深沢七郎(1914‐87)の小説(1956)。中央公論新人賞当選作のこの小説で深沢は文壇に登場,土俗の闇にひそむ人間感情をえぐりだす特異な作風で注目された。…

※「姨捨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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