大汶口文化(読み)ダイブンコウブンカ(英語表記)Dà wèn kǒu wén huà

デジタル大辞泉 「大汶口文化」の意味・読み・例文・類語

だいぶんこう‐ぶんか〔‐ブンクワ〕【大×汶口文化】

中国黄河下流域に栄えた新石器時代文化竜山文化に先行して興り、約2000年続いた。土器彩陶黒陶を含む。ターウェンコー文化。

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改訂新版 世界大百科事典 「大汶口文化」の意味・わかりやすい解説

大汶口文化 (だいぶんこうぶんか)
Dà wèn kǒu wén huà

中国,山東省南部から江蘇省北部,一部安徽省,河南省に広がる大汶口遺跡を標準遺跡とする新石器時代後半期の文化。典型的(山東)竜山文化の前段階に位置する。通常,早・中・晩の3期に区分され,代表的な遺跡として早期には山東省紫荆山下層,大汶口下層,兗州王因下層墓,江蘇省大墩子下層,中期には山東省大汶口早・中期墓,野店1・2期墓,西夏侯下層墓,江蘇省劉林墓,大墩子上層墓,晩期には山東省大汶口晩期墓,西夏侯上層墓,東海峪下層,野店3期墓などがある。その絶対年代は炭素14法によれば,早期の最も古い例で5785±105B.P.(大墩子木炭),晩期の最も新しいもので3560±105B.P.(山東三里河人骨)である。

 生業として農耕牧畜が行われ,当初より石鏟(せきさん),石斧が出土し,中期以後,骨・牙・貝の鎌,石庖丁などの収穫具が加わってくる。晩期の三里河では1m3アワを出土している。中期以後,大汶口,野店,西夏侯では墳墓に豚の頭骨副葬がみられ,成豚であることから,家畜飼養が行われていたとみられる。土器は早期では紅陶が主であるが,中期以後灰陶,黒陶が優勢となり,晩期には白陶が現れる。彩陶は初め黒彩であるが,中期以後,紅,白,赭彩が加わり,晩期には減少する。早・中期は手づくねであるが晩期にはろくろ製が増加する。器種は当初,煮沸用の釜形鼎(てい),鉢,壺(こ)の簡単な組合せであるが,中期以後らっぱ形杯,高柄杯,三足觚(こ),盤式豆(とう),実足鬹(き),背壺,鏤孔(透し彫のある)豆,盉(か)など器種が豊かになり,晩期には筒形豆,寛肩壺,袋足鬹,瓶が現れる。末期には,卵殻鏤孔高柄杯も出現する。石器は初め種類も少なく,粗末であるが,中期以後,種類・量が増加し,製作も精緻になる。晩期に出現する有段片刃石斧は分布の北限である。中期以降,象牙彫刻17歯櫛,鏤孔筒,松緑石象嵌筒形器(大汶口),白玉四連環(野店)などの優れた工芸品が現れる。

 埋葬は長方形土壙への単人直葬が基本であるが,中期以後,原木を井の字に組んだ木槨が現れ,ことに晩期に顕著になる。これは大型墓に多い。副葬品男性には農工具,女性には紡錘車が伴い,時期が新しくなるに従い両性間の生業の固定化が明確になるとともに,合葬墓などに顕著なように,両性間に副葬品の多寡が現れ,男性が主要な地位を占めるようになってきたことが推測される。また中期以後,墳墓間にも副葬品の多寡が現れ,貧富の差が出現してきたことをうかがわせる。このように,この文化は原始社会解体期の社会の解明の糸口となる重要な文化である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大汶口文化」の意味・わかりやすい解説

大汶口文化
だいぶんこうぶんか

紀元前四千年紀から前二千年紀の間、黄河下流域で栄えた中国新石器時代晩期の文化。山東省泰安(たいあん)市大汶口鎮と寧陽(ねいよう)県堡頭(ほとう)村にまたがる大汶口遺跡の墓葬を標式とする文化で、竜山(りゅうざん)文化に先だち仰韶(ぎょうしょう)文化より新しい。1950年代初期にすでにこの文化の遺跡は発見されていたが、竜山文化との類似性から、その位置づけが定まらず、60年代になって山東竜山文化とは別系統の文化とされ、続いて70年代後半に入って、山東竜山文化は大汶口文化を継承したものであることが確認された。この文化は山東省中部を中心に山東半島および江蘇(こうそ)省北部と河南省の一部にも分布し、山東竜山文化の分布と完全に重なっている。大汶口遺跡では、仰臥(ぎょうが)伸展葬を中心に成人男女合葬がみられ、また抜歯、頭骨の人工変形や墓にブタの頭骨の供献、手に獣牙(じゅうが)を持ち腰部に亀甲(きっこう)を置く埋葬が注目されている。

 この文化は早・中・晩期の三段階に区分されており、早期と晩期では社会的発展に顕著な差違がみられる。早期の墓葬は、小さな竪穴土壙(たてあなどこう)墓が中心で副葬品も少ない。土器は手作りを主とする紅陶(こうとう)が大多数を占める。中期の墓は、中型・大型の土壙墓と木槨(もっかく)墓が登場し、規模と構造上の差と副葬品の量的差違が顕著となる。晩期になると大型墓はたいてい木槨を使用し、大量の土器のほかに玉(ぎょく)・トルコ石製品、精巧な彫刻のある象牙(ぞうげ)製品の副葬やブタの頭骨の供献などが特定の墓葬に限られ、社会階層に不平等が発生して、貧富の差が生じたことを示している。また、土器も紅陶が少なくなり黒陶や灰陶が増加し、ろくろの使用が始まって、土器製作における専業化がかなり進行していることをうかがわせる。彩陶は早期から存在するが、全体からみると各段階の出土は少なく、晩期には特定の墓葬にのみ限られ、最後には消失してしまう。江蘇省北部に分布する青蓮岡(せいれんこう)文化の江北類型の文化内容は、大汶口文化のそれと基本的に一致するものが多く、大汶口文化に帰属させる見解が有力である。

[横田禎昭]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大汶口文化」の意味・わかりやすい解説

大汶口文化
だいぶんこうぶんか
Da-wen-kou culture

中国の大 汶口遺跡を標準とする新石器時代文化。陶器の多くは手製で,少数の轆轤 (ろくろ) 製のものもあり,灰陶が多く,紅陶がこれに次ぎ,黒陶,白陶,彩陶,彩画陶も少数ながら含まれる。器形には鼎,き,かなどがあり,高圏足鏤孔坏や鏤孔豆などがこの文化の特色を示している。この文化の墓には決った埋葬制度が認められ,新石器時代の墓としては他に例をみないほど多くの副葬品を有し,豚頭の副葬などが顕著な特色となっている。

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世界大百科事典(旧版)内の大汶口文化の言及

【山東[省]】より

…このように,地勢や気候からみて,山東は華北平原のなかで最も安定した自然条件をもつ地域であるといえよう。
【斉魯文化】

[大汶口文化と竜山文化]
 新石器時代,黄河中下流域には多様な文明が形成されたが,山東では約5000年前,大汶口(だいぶんこう)文化(泰安県大汶口遺跡を代表遺跡とする)と呼ばれる進んだ文化が,ほぼ山東全域に広がっていた。この文化は,同時期に西の中原地方にみられる仰韶文化とはやや性格を異にし,むしろ江南地方から淮河(わいが)下流域にみられる青蓮崗文化と共通するところが多く,山東より沿海に長江(揚子江)下流域まで続く,一連の文化が形成されていたと考えられる。…

【浙江[省]】より

…これらの文化でみられる稲作,養蚕,家畜飼育などは,河姆渡文化でみられたものをより充実し複雑な姿にしたもので,長江下流域を中心にひとつのまとまった文化圏が形成されていることを示す。ほぼ同時期に,江蘇北部より山東にかけて展開する青蓮崗文化,大汶口文化とは,共通する面も多いが,性格を異にするところも多く,一定の交流はありながらも,畑作を基盤とする文化と,稲作を基盤とする文化の基本的相違がより明確になりつつあることをうかがわせる。
[百越文化]
 中原で新石器文化より青銅器文化への移行がすすみ,夏・殷・周の統一王朝が成立した時期,その影響は南方にも及んだ。…

※「大汶口文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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