大腸癌(読み)ダイチョウガン

デジタル大辞泉 「大腸癌」の意味・読み・例文・類語

だいちょう‐がん〔ダイチヤウ‐〕【大腸×癌】

大腸に発生する便潜血検査内視鏡検査などで早期に発見できれば、治る可能性が高い。

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内科学 第10版 「大腸癌」の解説

大腸癌(大腸悪性腫瘍)

(1)大腸癌(colorectal carcinoma)
定義・概念
 大腸癌は大腸粘膜上皮から発生した悪性腫瘍である.大腸は,盲腸,結腸,直腸S状部,直腸から構成されているが,虫垂,肛門管を含めて扱う場合がある.大腸を二分して,盲腸,上行結腸,横行結腸を右側大腸,下行結腸,S状結腸,直腸S状部,直腸を左側大腸とよぶこともある.
分類
1)肉眼型分類:
大腸癌の肉眼型分類は,表在型(0型),隆起腫瘤型(1型),潰瘍限局型(2型),潰瘍浸潤型(3型),びまん浸潤型(4型),分類不能型(5型)に分類される.このうち2型が最も多い.表在型はさらに隆起型(Is /Isp/Ip型),表面型(ⅡaⅡb/Ⅱc型)に亜分類される(図8-5-25).
2)組織型分類:
腺癌,内分泌細胞癌,腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,その他の癌に分類される.腺癌は乳頭腺癌,管状腺癌(高分化/中分化),低分化腺癌(充実型/非充実型),粘液癌,印環細胞癌に亜分類される.大腸癌の多くは高分化ないしは中分化管状腺癌である.
3)進行度(ステージ):
壁深達度,リンパ節転移の程度,遠隔転移の有無によって分類する.わが国では大腸癌取扱い規約の進行度が用いられている(表8-5-14).ほかにTNM分類,Dukes分類などがある.
原因・病因
 大腸癌発生の機序から,次の3つに大別される.
1)散発性大腸癌:
大部分の大腸癌は非遺伝性であり,環境因子の暴露が主因とされる.大腸粘膜上皮細胞に遺伝子変異が蓄積して発生する.加齢とともに罹患率が上昇する.発癌機序としてadenoma-carcinoma sequence,de novo発癌,serrated neopla­sia pathwayが提唱されている.
 a)adenoma-carcinoma sequence:良性腫瘍である「腺腫」から発癌する経路である.粘膜上皮細胞のAPC遺伝子の変異により低異型度腺腫が発生し,K-ras遺伝子の変異で高異型度腺腫となり,p53遺伝子変異で癌となる.さらに,DCC遺伝子が変異して浸潤,転移する癌となるという段階的な発癌機転である.
 b)de novo発癌:前癌病変を介さず正常粘膜から直接癌が発生する発癌機序である.その根拠として,腺腫成分を伴わない小さな陥凹型癌の存在があげられる.
 c)serrated neoplasia pathway:過形成性ポリープやsessile serrated adenoma/polypなどの鋸歯状病変や鋸歯状腺腫を母地とする発癌機序である.
2)遺伝性大腸癌:
遺伝的要素が大腸癌発生に決定的影響を及ぼしている疾患を遺伝性大腸癌という.散発性大腸癌と比べ,若年発症の傾向があり,大腸癌の多発や他臓器の癌を高率に合併する特徴を有する.遺伝性大腸癌のなかで頻度が高い疾患として,Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌:hereditary non-polyposis colorectal cancer: HNPCC)と家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis: FAP)とがある.
 Lynch症候群は,ミスマッチ修復遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)の変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患である.なお,Lynch症候群とHNPCCは同一疾患である.その診断基準を表8-5-15に示す.
 FAPは,第5染色体長腕上(5q21-22)のAPC遺伝子変異を原因とする大腸の多発性腺腫を主徴とする症候群である.大腸癌の発生は10歳代での報告もあるが,40歳代で約50%,放置すれば60歳頃にはほぼ100%に達する.
3)colitic cancer:
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)の長期経過例で炎症性粘膜を背景に癌が発生する経路であり,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis: UC)に発生する大腸癌が典型例である.UCでは,①10年以上の経過例,②全大腸炎型に大腸癌が合併しやすい.前癌病変である異型腺管(ディスプラジア,dysplasia)は,low grade dysplasiaとhigh grade dysplasiaに分類され,high grade dys­plasiaが発見された場合には発癌の頻度が高いことから,手術適応となる.UCに合併する大腸癌の特徴は,若年発症で,多発傾向にあり,びまん浸潤型や低分化腺癌,粘液癌が比較的多い.周辺に異型腺管を伴う.
疫学
 わが国の大腸癌罹患率および死亡率は著しく増加している.2008年の人口動態統計によれば,女性では大腸癌による死亡は全悪性新生物のなかで最多であり,男性では肺癌,胃癌に次いで多く,過去30年間におよそ5倍となった.好発年齢は男女ともに60歳代が最も多く,次いで50歳代,70歳代が続き,女性より男性に多い.
臨床症状
1)自覚症状:
初期には無症状のことが多く,進行すると症状が出現する.症状は腫瘍の占居部位により異なる.直腸や左側結腸の癌は,血便,便通異常(便秘,下痢,細い便柱,テネスムス),腸閉塞症状,などが特徴である. さらに進行して直腸周囲の他臓器に浸潤すると血尿や頻尿,性器出血,仙骨部疼痛なども出現する.一方,右側結腸は腸内容が液状であり,腸管腔も広いため,狭窄症状は出現しにくい.主訴としては不定の腹部愁訴,軽度の腹痛,貧血や腫瘤触知が多い.
2)他覚症状:
腹部の視診や触診により腹部膨満や圧痛,腫瘤,また直腸指診にて腫瘤の性状や出血の状況を診る.また,Virchow転移(左鎖骨上窩リンパ節への転移)やSchnitzler転移(Douglas窩への転移)の有無も確認する.
検査成績
1)免疫学的便潜血反応:
ヒトヘモグロビンに特異的に反応にて便中の血液の有無を調べる.大腸癌検診のスクリーニングに用いられている.
2)腫瘍マーカー:
大腸癌で用いられる腫瘍マーカーには,血清CEA(carcinoembryonic antigen)とCA19-9(carbohydrate antigen 19-9)とがある.進行度の予測,再発や化学療法の治療効果のモニタリングとして用いられている.早期癌では陽性率が低く,スクリーニングには適していない.
3)注腸造影検査:
病変の存在部位,形態,狭窄の有無などを診断する.進行癌では特有のアップルコアサインがみられることもある.腫瘍の側面像で大腸壁の変形の程度から壁深達度を推定できる.直腸の側面像では仙骨との位置関係がよくわかり,占居部位が診断できる.
4)下部消化管内視鏡検査:
腫瘍の形態や存在部位を診断する.腫瘍と非腫瘍の鑑別,早期癌の深達度診断には,拡大内視鏡による表面微細構造(ピットパターン)の観察が有用である.内視鏡的摘除(ポリペクトミーや,内視鏡的粘膜切除(endoscopic mucosal resection:EMR),内視鏡的粘膜下層剥離(endoscopic submucosal dissection:ESD))による治療も可能である.
5)その他の検査:
CTやMRIでは遠隔転移の有無や他臓器への浸潤の有無,リンパ節の腫脹の有無がわかる.
鑑別診断
 大腸腺腫,カルチノイド腫瘍,悪性リンパ腫,大腸非上皮性腫瘍(平滑筋性腫瘍,神経原性腫瘍,消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST),脂肪腫など),粘膜脱症候群,放射線照射性大腸炎,子宮内膜症,腸間膜脂肪織炎などがある.
治療
1)ステージ0〜Ⅲ大腸癌の治療方針:
 a) 内視鏡治療:内視鏡治療の適応は粘膜(M)癌または粘膜下層(SM)軽度浸潤癌で,大きさが2 cm未満の病変である.内視鏡治療は摘除生検であり病理検査にて切除断端陰性,深達度がMであれば治療終了となる.病理検査で垂直断端陽性(癌が粘膜下層断端に露出しているもの), SM浸潤距離が1000 μm以上,脈管侵襲陽性,組織型が低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌,浸潤先進部の簇出(budding)高度の場合は追加治療としてリンパ節郭清を伴う腸切除が推奨される.
 b)手術治療:基本術式は腸管切除+リンパ節郭清である.リンパ節郭清の程度は壁深達度によって異なる.
2)ステージⅣ大腸癌の治療方針:
ステージ大腸癌の治療は原発巣と転移巣それぞれが切除可能か否かによって異なる.原発巣,転移巣とも切除可能であれば,いずれも切除する.原発巣が切除不能であれば,いずれも切除せず化学療法,または放射線療法を行う.転移巣が切除不能であれば,原発巣による症状,遠隔転移の状態,全身状態などに応じて原発巣の切除を検討する.
3)化学療法:
 a)補助化学療法:ステージⅢ大腸癌では術後補助化学療法の再発抑制効果と生存期間の延長が示されている. 推奨される療法には5-FU+ロイコボリン(LV) 療法,UFT+LV療法,カペシタビン療法,FOLFOX療法(オキサリプラチン,レボホリナートおよびフルオロウラシルの静脈内持続投与法)がある.投与期間は6カ月である.
 b)切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法:最近の化学療法の進歩により生存期間の中央値は約2年に延長してきている.また,切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法が奏効して根治切除可能となることがある.臨床試験により,生存期間の延長が検証されている治療法の中で,国内で使用可能な一次治療レジメン,二次治療以降のレジメンを図8-5-26に示す.抗EGFR抗体薬(セツキシマブ,パニツブマブ)はKRAS野生型において有効性が示されている.
4)放射線療法:
放射線療法には,直腸癌において術後の再発抑制や術前の腫瘍量減量,肛門温存を目的とした補助放射線療法と切除不能進行再発大腸癌の症状緩和や延命を目的とした緩和的放射線療法とがある.[松山貴俊・杉原健一]

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六訂版 家庭医学大全科 「大腸癌」の解説

大腸がん
だいちょうがん
Colon cancer
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 大腸は消化吸収が行われた食べ物の最終処理をする消化管で、主に水分を吸収します。長さは約1.8mで口側から肛門側に盲腸(もうちょう)、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸に分けられます。この部位に悪性腫瘍が発生した場合に大腸がんと呼びます。

 大腸がんは食事の欧米化、とくに動物性脂肪や蛋白質の過剰摂取などにより、日本でも近年急速に増えています。毎年約6万人が罹患(りかん)し、胃がんを追い抜くのは時間の問題といわれています。日本人では直腸とS状結腸に多く発生します。罹患の頻度は男性、女性ともに同じで、60代がいちばん多く、70代、50代と続きます。若年者の大腸がんでは遺伝的な素因もあるようです。

原因は何か

 大腸がんの発生原因はまだわかっていませんが、疫学を中心とした研究から、大腸がんの発生は欧米食の特徴である高脂肪、高蛋白かつ低繊維成分の食事と正の相関関係にあり、生活様式が強く関係していることが明らかになっています。また、大腸がんは腺腫(せんしゅ)(一般的な大腸ポリープ)からがんが発生するものと、腺腫を介さず直接粘膜からがんが発生するものが考えられています。

 遺伝子学的解析では、多くの遺伝子の異常の蓄積によりがんが発生することがわかっています。まずAPC遺伝子の変異により腺腫が形成され、ついでK­ras遺伝子の突然変異により腺腫が大きくなり異型度(細胞の悪性度)が増します。それにがん抑制遺伝子のp53遺伝子とDCC遺伝子の変異が加わって、がんへ進むとされています。

 また、遺伝的要因の明らかなものには家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)家族性大腸ポリポーシス)と遺伝性非ポリポーシス大腸がんがあります。

症状の現れ方

 早期の大腸がんではほとんど自覚症状はなく、大腸がん検診人間ドックなどの便潜血検査で見つかることがほとんどです。進行した大腸がんでは、腫瘍の大きさや存在部位で症状が違ってきます。

 右側大腸がんでは、管腔が広くかつ内容物が液状のために症状が出にくく、症状があっても軽い腹痛や腹部の違和感などです。かなり大きくなってから腹部のしこりとして触れたり、原因不明の貧血の検査で発見されることもあります。

 左側大腸がんでは、比較的早期から便に血が混ざっていたり、血の塊が出たりする症状がみられます。管腔が狭く内容物も固まっているため、通過障害による腹痛、便が細くなる、残便感、便秘と下痢を繰り返すなどの症状が現れ、放っておけば完全に管腔がふさがって便もガスも出なくなり、腸閉塞(ちょうへいそく)と呼ばれる状態になります。

 直腸がんでは左側大腸がんとほとんど同様の症状がみられますが、肛門に近いために痔と間違えられるような出血があり、痔と思われて放置されることもあります。また、直腸がんでは近接している膀胱や子宮に浸潤(しんじゅん)すると、排尿障害や血尿、腟から便が出たりするなどの症状がみられることもあります。

検査と診断

 大腸がんは、早期に発見できればほぼ100%近く完治できる病気ですが、早期の大腸がんでは症状がありません。無症状の時期にがんを発見するには、便の免疫学的な潜血反応を調べます。簡単に行えて体に負担のない検査ですが、陽性と出ても必ず大腸がんがあるわけではなく、逆に進行した大腸がんがあっても陰性になることもあります。

 排便時の出血や便通異常がある場合には、血液検査で貧血がないかどうか、また腹部のX線検査でガスの分布の状態を調べます。腹部の触診では腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)を触れることがあり、直腸がんでは肛門から指を入れて触るだけで診断できることもあります。

 確定診断をするためには、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れて空気で大腸をふくらましX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査が必要です(図25)。大腸内視鏡検査は挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

 内視鏡検査では、直接大腸の内側を観察し、異常があれば一部をつまみ取って顕微鏡で悪性かどうかを調べます(生検)。ポリープやごく早期のがんであれば内視鏡で簡単に治療が可能で、診断と治療を同時に行うことも可能です。最近では、内視鏡治療である粘膜下層剥離(はくり)術が発達し、従来の内視鏡での治療が困難な早期のがんにも行えるようになっています。

 また、がんの進行度によっては、周囲の臓器への広がりや肝臓やリンパ節への転移の有無を調べるために腹部の超音波やCT、MRI、超音波内視鏡検査を行うこともあります。

治療の方法

 大腸がんの治療の原則は、がんを切除することです。大腸の壁は内腔側より粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)となっています。がんが粘膜下層までにとどまっているものを早期がんといいますが、早期がんのなかでも粘膜下層の浅いところまでであれば転移の心配はなく、内視鏡での治療が可能です。また、肛門に近いところにできた早期の直腸がんでは経肛門的手術を行います。

 リンパ節転移の可能性があり内視鏡治療ができないのものや進行したがんでは、外科手術が必要です。手術では開腹し、腫瘍を含めた大腸の一部を切除してリンパ節の郭清(かくせい)(きれいに取り除く)を行い、残った腸を吻合(ふんごう)(つなぎ合わせる)します。

 また最近では、小さな傷で手術ができる腹腔鏡を用いた治療が急速に普及してきており、早期がんばかりではなく隣接臓器に浸潤していない進行がんに対しても行われるようになってきています。

 進行した直腸がんでは、肛門から離れている場合には肛門の筋肉が温存できる低位前方(ていいぜんぽう)切除術が行われ、最近ではさらに、術後の性機能や排尿機能を温存するように必要最低限の手術が行われています。それ以外では人工肛門が必要なマイルス法で手術が行われます。

 人工肛門もさまざまな装具が開発されており、普通に社会生活が送れるようになっています。

 がんが広がりすぎていて切除不能な場合には、抗がん薬を用いた化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われます。

病気に気づいたらどうする

 大腸がんは早期に発見できれば、そのほとんどが内視鏡的に、または外科的に根治可能な病気です。早期大腸がんの5年生存率は80%以上と極めてよく、進行がんでもがんの浸潤の程度とリンパ節転移の程度により予後が変わってきます。また、大腸がんは肝臓にいちばん転移しやすいのですが、肝臓転移が見つかっても、肝臓を手術したり抗がん薬を注入したりして長期に生存することも可能です。

 40歳を過ぎたら、症状がないうちに大腸がんの検診を受けるようにします。また、血便や便通異常などの症状がみられたら、すぐに専門医で検査を受けるようにします。

坂田 祐之, 藤本 一眞



大腸がん
だいちょうがん
Colorectal cancer
(お年寄りの病気)

高齢者の大腸がんの特徴

 大腸がんの発生頻度は加齢とともに増加する傾向があります。東京都老人医療センターの連続剖検の5082件の検索では、60代では5.6%、70代では4.9%、80代では6.4%、90歳以上では7.1%に大腸がんが認められたと報告されています(金沢暁太郎:老人の大腸癌、クリニカ1998、25)。また最近の10年ではその前の10年に比較して1.5倍程度の増加を示しています。

 高齢者の大腸がんの特徴として、近位側結腸つまり右側のがんの頻度が増加すること、および多発がんの頻度が増すことがあげられます。

手術適応について

 75歳以上の患者さんの大腸・直腸がんの術後の生存状況をみると、高齢者でも大腸がんを切除することによって死亡率の低下や長期生存が得られていることがわかります。90歳以上の進行大腸がん手術は、出血および腸閉塞により緊急手術となる頻度が高いのですが、切除率や手術死亡率は70代と同様であり、積極的に治癒切除をするべきとする報告もあります。したがって、高齢者の大腸がんは積極的に手術するべきと考えます。

根治性手術の考え方

 大腸がんではリンパ節郭清のレベルを上げても、胃がんのように手術そのものが大きく変わることはなく、手術時間、出血量、手術侵襲が大きく増すことはありません。また、術後の食事摂取に支障のないことが多いため、高齢者でも重篤な合併症がなく、根治性の期待できる進行がんの場合には2群以上の系統的リンパ節郭清(D2)を伴う根治手術を行うべきであるとする報告もあります。

 すなわち、高齢者に対する外科医としての実感やこれまでの報告からは、胃がんと違って高齢であるという理由によって根治性を落とした手術をする必要はないと思われます。根治性を落とすべきなのは、併存する合併症に対してであり、これは年齢に対してではない、ということです。

人工肛門の造設と管理

 高齢者では大腸がんの緊急手術の頻度が非高齢者に比較して有意に高いことや、合併症があったり全身状態が悪かったりすることが多いことなどから、下行結腸(かこうけっちょう)、S状結腸、上部直腸の腫瘍を切除しても、一次的に結腸の吻合(ふんごう)をしないで、肛側断端の結腸を閉鎖し口側断端の結腸を人工肛門造設に用いる、ハルトマン手術が行われる場合があります。また寝たきりの状態にある患者さんで大腸がん術後の排便の介護に多大な労力を要する時には、管理の容易な人工肛門(消化管ストーマ)を造設することになります。このような理由で高齢者は人工肛門増設の機会が増えます。

 高齢者では動作の緩慢(かんまん)化、視力・聴力などの各感覚機能の低下、記憶力、判断力、理解力の低下などがあるため、人工肛門の自己管理を進めていくうえで、数々の困難があります。患者さんに人工肛門を提示して、必要なことをポイントをしぼって繰り返し説明することが重要です。家族や介護者を含めた周囲の理解が必要です。


大腸がん
だいちょうがん
Colon cancer
(遺伝的要因による疾患)

遺伝性の大腸がんについて

 大腸がんは、家族性に発生することの比較的多い病気です。数%程度が遺伝性と考えられています。そのうち、遺伝的な原因が明らかになっている家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)遺伝性非(いでんせいひ)ポリポーシス(せい)大腸がんについて解説します。

小杉 眞司

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改訂新版 世界大百科事典 「大腸癌」の意味・わかりやすい解説

大腸癌 (だいちょうがん)
carcinoma of large intestine

大腸の癌腫。発生の部位によって直腸癌と結腸癌に大別される。原因は不明であるが,重視されているのは大腸ポリープのうちの大腸腺腫の癌化で,腺腫の性別頻度,年齢別頻度,部位別分布が大腸癌のそれに一致し,かつ腺腫の一部に癌が見つかることがあるからである。一部の癌は直接発生する。人口10万人に対する大腸癌の訂正死亡率は,男性29.6人,女性22.8人である(1996年度人口動態統計による)。この頻度は欧米に比べて低く,日本の胃癌の頻度に比べても,男で1/2,女で2/3である。性別比ではやや男性に多く(1.2~1.5対1),年齢別では60歳代が最も多く,次に50歳代と70歳代がこれに次いでいる。しかし日本でも近年増加しつつある。好発部位は,直腸が40~50%を占め,次いでS状結腸(25%前後),盲腸(4~12%),上行結腸(6%)などである。大腸癌は肉眼的,組織学的,あるいはその深達度と転移の有無などの基準で表のように分類される。大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎に合併することもある。大腸癌は腸壁を破ったのち隣接臓器に直接に浸潤し,さらに漿膜,腹膜への伝搬(癌性腹膜炎),リンパ節転移,さらに門脈を介して肝臓,肺,副腎,腎臓,膵臓,骨などへの血行転移がみられる。

早期大腸癌は無症状で,たまたま注腸X線検査,内視鏡検査,生検,ポリペクトミー(ポリープ切除術)などで発見される。しだいに大きくなると,新鮮血の排出,粘血便,便秘や下痢,ときに便秘と下痢が交代にみられる便通異常,腹痛などを呈してくる。癌の発生部位によって臨床症状は多少異なる。右側結腸癌は,病気が進行してから症状が出るため,大きい潰瘍を形成し腫瘤になり,貧血,腹痛,便通異常,体重減少,腹部腫瘤の触知などで診断される。左側結腸癌は,大腸閉塞症状,すなわち腹痛,便通異常,悪心嘔吐,体重減少,衰弱や肛門出血で,比較的に右側よりも早期に診断される。腹痛は痙攣(けいれん)様ないし疝痛様で,放屁やガスの通過で軽減する。直腸癌は,下血~血便,便通異常,腹痛などを呈する。末期には悪液質となり,種々の合併症を伴う。合併症としては,腸閉塞,腸穿孔(せんこう),膿瘍,癌性腹膜炎,閉鎖性結腸炎,ときに膀胱や腟へ直接浸潤し瘻孔(ろうこう)形成,排尿障害などがある。検査では,糞便潜血反応は高度に陽性になり,病気が進むと低色素性小球性貧血などの貧血,血中CEA(carcinoembryonic antigenの略で,胎児タンパク質の一種)値上昇などがみられる。

直腸指診,大腸X線(注腸)検査,大腸内視鏡,腸生検などによる。大腸X線像では陰影欠損やアップル・コアapple-core(リンゴの芯のような像)またはナプキン・リングnapkin-ring徴候(ナプキンの環のような像)として現れる。粘膜内癌は,内視鏡的粘膜切除術による完全生検により診断される。治療は,大腸早期癌で内視鏡的粘膜切除術により根治できるものを除けば,原発臓器と所属リンパ節の摘出を行う外科的根治手術か腹腔鏡下腸切除術が必要である。人工肛門造設,化学療法,放射線療法も併用される。治療後の5年生存率は,表在型で92.9%,腫瘤型63.6%,潰瘍限局型57.1%,潰瘍浸潤型40.0%である。デュークス分類による5年生存率は,デュークスAは89~96%,Bは70%,Cは30~56%である。

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四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「大腸癌」の解説

大腸がん

 人口の高齢化と食生活の欧米化の影響で、日本でも大腸がんが急激に増えています。同時に、診断技術の進歩、内視鏡による治療や外科手術の進歩によって治療成績も飛躍的に向上しています。大腸がんは、がんのできた部位によって、上行結腸がん、横行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、直腸がんに分けられますが、直腸がんとその他の大腸がんとでは、検査手順が少し異なります。

●おもな症状

 血便、腹部膨満ぼうまん感、腹痛、粘液便、がんこな便秘、また、下痢と便秘が交互に現れる、便が細くなるなど。ただし、これらすべてはがん特有の症状ではなく、とくに血便ではのケースが多いので、鑑別が重要です。

①便潜血反応(数回行う)/直腸指診/腫瘍マーカー

  ▼

②下部消化管X線造影

  ▼

③下部消化管内視鏡/生検(病理診断)

便潜血反応は繰り返し行うと効果的

 大腸がんを疑うような症状があった場合は、その後の検査・診断方法を選択するためにも、まず問診が重要になります。どのような症状がどのくらい続いたかをくわしくきいていきます。大腸ポリープの有無も重要な情報です。また、わずかですが、家族性に発生する大腸がんもあるため、家族歴にも注意が必要です。

 検診では、1990年代から便潜血反応(→参照)が行われていて、第一次のスクリーニング(ふるい分け)として効果を発揮しています。ただし、便潜血反応は何回か繰り返して行わないと確かなことはわかりません。

 腫瘍マーカー(→参照)はいろいろなものが開発されていますが、検出率に問題があって早期がんの診断には向いていません。それらのうちで、CEA、CA19-9、TPAは比較的高い率で陽性になり、大腸がんではそれぞれ50~60%、40~50%、55~65%となっています。これらを組み合わせて検出率を高めると、陽性率は70%程度にまでなります。

 直腸がんでは、肛門から10㎝程度までの部分にできたがんは触診(直腸指診)で確認できます。また、直腸鏡検査は外来で行うことが可能です。

ポリープ状のものは内視鏡下で切除も可能 

 便潜血反応で疑わしい所見があった場合は、まず下部消化管X線造影(→参照)が行われます。隆起があったりポリープ状のものは、X線造影でよくわかります。

 下部消化管内視鏡(→参照)が最終検査ですが、近年は最初から内視鏡を行うことが多くなっています。

 内視鏡は、X線造影では発見できない色調の変化や小さな病変をみつけることができます。同時に疑わしい病変があれば、その組織を採取(生検せいけん)して病理診断を行います。悪性と判断がついたポリープ状の腫瘍は、内視鏡観察下で切除することも可能です(ポリペクトミー)。また、胃がんと同様、大腸がんでも超音波内視鏡の検査が行われてきています。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館 「大腸癌」の解説

だいちょうがん【大腸がん】

《どんな病気か?》


 大腸(だいちょう)がんは欧米型のがんといわれてきましたが、近年は、食生活の欧米化によって、日本でも肉類などの動物性脂肪の摂取が多くなり、発症率が高まっています。
 初期の症状は、発生部位にもよりますが、便に血液や粘液が混じる、便秘(べんぴ)がちになる、貧血(ひんけつ)症状、腹痛、下痢(げり)などがあります。大腸がんのなかでも発生しやすい部位は直腸(ちょくちょう)とS状結腸(えすじょうけっちょう)で、大腸がん全体の60~70%を占めます。この場合は出血や下痢が多くみられます。

《関連する食品》


〈動物性脂肪をひかえ、食物繊維を多くとる〉
○栄養成分としての働きから
 動物性脂肪を多く摂取することで、胆汁(たんじゅう)と腸内細菌が作用しあってがんを発生させること、排便を促進する食物繊維の摂取量が相対的に減少してしまうことが、大腸がんの原因となります。まずは動物性脂肪をひかえることが第一で、ゴボウやタケノコなど、食物繊維を積極的に摂取することが必要です。
 緑黄色野菜には、食物繊維と同時にカロテンも豊富に含まれています。カロテンは、動物実験で抗腫瘍効果(こうしゅようこうか)が確認されているので、ニンジン、ホウレンソウ、コマツナなど、料理の付け合わせに使用して、じょうずに摂取しましょう。
 また、摂取した脂肪が酸化することで、過酸化脂質(かさんかししつ)になり、細胞を傷つけることがあります。この酸化を防ぐには、ショウガの辛み成分であるジンゲロンが有効です。薬味としてだけでなく、煮ものや焼きものなどにも積極的に利用しましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報

家庭医学館 「大腸癌」の解説

だいちょうがん【大腸がん】

 大腸がんというのは結腸(けっちょう)がんと直腸(ちょくちょう)がんの総称です。
 結腸がんは、がんのできる場所によって、盲腸(もうちょう)がん、上行結腸(じょうこうけっちょう)がん、横行結腸(おうこうけっちょう)がん、下行結腸(かこうけっちょう)がん、S状結腸がんに分かれます。
 大腸がんの大部分は腺(せん)がんという種類のがん腫(しゅ)です。ほかに肉腫(にくしゅ)やカルチノイドがありますが、これらはまれなもので、大腸悪性腫瘍全体の1%にすぎません。
 大腸がんは近年増加しているがんの1つです。その原因としては、生活様式、とりわけ食生活の西洋化(高脂肪・低繊維食の摂取)が大きく影響していると考えられています。かつての日本人の大腸がんには直腸がんが多かったのですが、近年は欧米人のように結腸がんのほうが多くなってきています。
 大腸がんの多くは腺腫(せんしゅ)という良性のポリープから発生すると考えられていますが、腺腫を経ずに大腸粘膜(だいちょうねんまく)から直接発生するがんもあることがわかってきました。
 なお、大腸がんには、がんの発生に遺伝が密接に関与している遺伝性大腸がんもあります。

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百科事典マイペディア 「大腸癌」の意味・わかりやすい解説

大腸癌【だいちょうがん】

大腸の癌腫。発生部位により直腸癌と結腸癌に大別される。原因不明だが大腸腺腫の癌化が重視される。欧米に多いが,近年日本でも増加傾向にある。下痢や便秘が続いたり,二つが交互に起こる,血便や下血が初発症状。診断は直腸指診,X線検査内視鏡などによる。治療は早期のもので内視鏡的切除,レーザー光線治療により根治できるものを除けば外科的根治手術が必要。人工肛門造設,化学療法,放射線治療も併用される。
→関連項目癌予防薬ストーマケア

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大腸癌」の意味・わかりやすい解説

大腸癌
だいちょうがん
cancer of the large intestine

結腸癌と直腸肛門癌に大別され,後者が 50~60%を占める。加齢とともにふえ,60~70歳代でピークになる。近年,食生活の欧米化に伴い,日本で急速にふえている癌の一つ。右側結腸では腸管が広く,内容が流動状で,癌も限局潰瘍形成型が多いのに対し,左側結腸では内容が細く固形状で,癌は全周型となる。そのため,右側結腸癌では腸の狭窄が起りにくく,右下腹部痛,腫瘤触知,貧血などがおもな症状であり,左側結腸癌では排便異常,下血,狭窄症状が強く,腸閉塞で緊急手術されることもまれではない。直腸癌の症状は下血が最も多く,便意がしきりに起り,便は細くなる。診断はおもに注腸造影と大腸内視鏡によって確定される。治療は外科的に行う。通常,直腸癌には肛門を含めて切除する手術が行われる。切除不能の進行癌には,癌腫より口側に単に人工肛門を造設することもある。予後は癌の進行度にもよるが,他の消化器癌に比較してよい。

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知恵蔵 「大腸癌」の解説

大腸がん

食生活の欧米化に伴って増加しており、高脂肪食、低繊維食が危険因子。家族性大腸ポリポーシスや遺伝性非ポリポーシスのように遺伝性のがんもあり、それぞれ全大腸がんの約1%、5%を占める。非遺伝性の多くは、ポリープを経てがんになる。出血、便通異常、腹痛、腫瘤触知が4大症状。便に血が混じっている時、人間ドックで便の潜血反応を指摘された時は、精密検診が必要。レントゲン検査、内視鏡でポリープが発見された場合は、内視鏡下で摘出できるが、大きな腫瘍になると手術で摘出しなければならない。人工肛門が必要となる場合もある。がんが再発した時、または、肝臓や肺等に転移した時は化学療法を行う。5FUとその誘導体の制がん剤が最も有効で、一般的。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の大腸癌の言及

【大腸】より

…食後便意が起こるのは,胃の充満伸展により胃大腸反射が起こり,大腸運動が高まるためである。
[大腸の病気]
 大腸にみられる病気には種々のものがあるが,大腸癌が最も重大である。消化管の癌のなかでは胃癌に次いで多い。…

※「大腸癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」