大般若(読み)だいはんにゃ

精選版 日本国語大辞典 「大般若」の意味・読み・例文・類語

だい‐はんにゃ【大般若】

[1]
※霊異記(810‐824)下「大般若を写さむとし、願を建てて、現に善悪の報を得る縁」
[二] 能楽曲名。唐の三蔵法師大般若経を伝えようと、天竺に向かう途中流沙川に至ると、川に住む真蛇大王の化身が現われて、汝(なんじ)は前生から渡天を志して幾度となく自分に妨げられたが、今回はその殊勝な心により渡してやると言って、般若の初軸を与え法師を彼岸に渡す。これを短くしたものに「三蔵法師」がある。廃曲。
[三] 狂言。和泉・鷺流。施主の所で大般若経を読み始めた僧は神子(みこ)神楽(かぐら)の鈴の音をじゃまにするが、しだいに神楽の調子にひきこまれる。
[2] 〘名〙
明月記‐治承四年(1180)七月二三日「今日一日大般若、〈卅人僧〉」
② 植物「きく(菊)」の異名。《季・秋》 〔日葡辞書(1603‐04)〕

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デジタル大辞泉 「大般若」の意味・読み・例文・類語

だい‐はんにゃ【大般若】


大般若経」の略。
狂言。和泉いずみ信者の家で、神楽をあげにきた神子みこ祈祷きとうをしにきた僧が鉢合わせをし、僧の経は神楽の調子に引き込まれてしまう。
大般若経会」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「大般若」の意味・わかりやすい解説

大般若 (だいはんにゃ)

(1)能の曲名。四・五番目物。作者不明。シテは深沙大王(じんしやだいおう)。唐の三蔵法師(ワキ)が大般若経を伝来しようと天竺へ向かう途中,西域の流沙河まで来たとき,1人の老人(前ジテ)に出会う。老人は,この川は深さ千尋(ちひろ)の難所だし,向こうに見える葱嶺そうれい)も天険で,まず越えることは困難だという。なお老人は,この川の主は深沙大王と称し,鬼のような姿をしているが心では仏法を敬っていると物語り,実はあなたは前世でも大般若経を得ようと志していたが,いつもこの地で命を落としたのだと話す(〈クセ〉)。三蔵が驚いて老人の名を尋ねると,自分こそ深沙で,今度こそ経を与えようといって消え失せる。三蔵法師が待っていると菩薩ツレ)が現れて舞楽を奏し,大竜,小竜(ツレ)が三蔵を拝する中に,大般若経の笈(おい)を背負った深沙大王(後ジテ)が現れ,笈を開いて三蔵に経文を見せ,この経の守護神となると約束して笈を与えて去る。近年,堂本正樹,梅若紀彰(としてる)らの手で復活上演された。

(2)狂言の曲名。出家狂言。和泉流だけにある。巫女と僧侶が施主の家で鉢合せする。毎月の決まりとして,巫女は神楽を奏し,僧は大般若経を読むが,僧は巫女の鈴の音がやかましくて経が読めない。互いに言い争ったのち,なおも並行して神楽と読経を続けるが,僧はしだいに神楽の調子に引き込まれ,経本を鈴のように振って舞いはじめる。登場は施主,巫女,僧侶の3人で,僧侶がシテ。篤信家の家で,巫女と祈禱僧がかち合うという,神仏に対する信仰の厚かった中世にあり得たであろう一こま。僧が〈大般若おん経六百巻,ウジャラウジャラ……〉と経を誦しながら,折経を目の上高く弧を描くように繰り返し飛ばす転読の型が見られるのも本曲の特徴である。
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