日本大百科全書(ニッポニカ)「大進化」の解説
大進化
だいしんか
macroevolution
生物の進化的変遷において、種以上の系統群の形成を示す過程のことをいう。通常、地質学的時間尺度で同系統の一連の化石にみられる大きな形態上の変化として認識される。魚類から両生類、さらに爬虫(はちゅう)類から鳥類、また爬虫類から哺乳(ほにゅう)類といった変遷はその典型例である。
同種個体群内の遺伝子頻度の継時的変化を意味する小進化の対語として、ドイツ、のちにアメリカの遺伝学者R・B・ゴルトシュミットが、その著書『The Material Basis of Evolution』(1940)で、初めて提唱した用語。彼は、新種は染色体の配列の全体的変化によって突然形成されると主張した。大突然変異のなかに前途有望な怪物hopeful monsterが生まれるとする説である。大進化の要因に言及したこの考えは、大進化的変化は基本的に小進化的変化の累積にすぎないとする漸進説の立場からは異端的見解として退けられた。大進化と小進化を基本的に同じ過程とみるか別の過程とみるかは、現在も論争中で完全な決着はついていない。かりに同じ過程とみなせるならば、大進化はせいぜい進化の局面をさす便宜的な用語になってしまう。しかし、とりわけ1970年以降、古生物学者のスタンレーSteven M. Stanley(1941― )やグールドStephen Jay Gould(1941―2002)などを中心に、新しい化石の証拠とともに、漸進説一辺倒の傾向に対して断続平衡説が唱えられ大論争がおこった。生物進化上の大きな形態変化は短期間に急速におこり、その後はあまり変化のない長い停滞期があったとする説である。その背後にはなんらかの大規模突然変異が生じたはずであるとも演繹(えんえき)されている。実際、各種で異なる染色体構造(数やその配列)の差や変化がどのようにしておこったのかは、遺伝子重複が倍数体の多くみられる植物では有力視されているほかは、漸進説はもちろん断続平衡説でも、その機構を十分説明していない。ゴルトシュミットのいう「怪物」はどのようにして生まれ、どのように前途を切り開いたのか(たとえば、可能な生態的条件はなんであったか)。そんな問題が再提起されているとみてよい。
[遠藤 彰]