たとえば,月賦販売契約において買主が1回でも月賦金の支払を怠ったときは売買は効力を失い目的物を返還するという特約や,賃貸借契約において1回の賃料延滞があれば契約は当然解除されるという特約などのように,一定の事実が発生すれば当然権利は失われ契約は解除されたものとみなす契約条項(当然解除条項)を失権約款という。この場合には,解除のための履行の催告(民法541条)および解除の意思表示の必要はなく,その条件とされた事実の発生により当然に契約の効力が失われる(解除条件つき契約。127条2項)ため,権利を失う者にとっては不利な条項といえる。そこで,従来,著しく不利なときには,失権約款を公序良俗違反として無効(90条)だとしたり,賃貸借の場合には〈信頼関係の破壊〉の不存在や信義則違反などを理由にその効力を否定し,それほどでないときでも,このような契約条項をなるべく失権約款と解釈しないで,催告は要しないが解除の意思表示だけは必要だとする無催告解除特約と解釈して,債務者の救済を図ることが主張されてきている(また,割賦販売業者の場合,契約を解除するには20日以上の相当な期間を定めて書面で催告しなければならない--割賦販売法5条。なお,ドイツ民法360条は,債務者の債務不履行を条件とした無催告解除特約を失権約款とみていることに注意)。
執筆者:高橋 弘
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