奈河亀輔(読み)ナガワカメスケ

デジタル大辞泉 「奈河亀輔」の意味・読み・例文・類語

ながわ‐かめすけ〔ながは‐〕【奈河亀輔】

江戸中期の歌舞伎狂言作者。初世奈良の人。並木正三門人で、安永天明(1772~1789)のころに京坂で活躍代表作伽羅先代萩めいぼくせんだいはぎ」「伊賀越乗掛合羽いがごえのりかけがっぱ」「はでくらべ伊勢物語」など。生没年未詳。

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精選版 日本国語大辞典 「奈河亀輔」の意味・読み・例文・類語

ながわ‐かめすけ【奈河亀輔】

  1. 歌舞伎狂言作者。初世。奈河姓の祖。奈良に生まれ河内に遊んだので奈河を名乗る。並木正三に師事。安永・天明期(一七七二‐八九)の大坂で活躍、中古歌舞伎作者の祖といわれる。作品に「伊賀越乗掛合羽(いがごえのりかけがっぱ)」「殿下茶屋聚(てんがぢゃやむら)」など。生没年未詳。

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改訂新版 世界大百科事典 「奈河亀輔」の意味・わかりやすい解説

奈河亀輔 (ながわかめすけ)

江戸中期の歌舞伎作者。遊泥居,永長堂と号した。生没年不詳。寛政(1789-1801)ごろ没か。奈良に生まれ,奈良,河内に遊んで身が修まらなかったのをしゃれて奈河と称した。遊蕩のすえに作者の世界に入った人である。初世並木正三に師事して劇作を始め,1771年(明和8)初めて中の芝居に名を出し,正三の没した73年(安永2)から約15年間,おもに中の芝居の立作者として40余編の狂言の筆を執った。時代物にすぐれ,なかでも《競(はでくらべ)伊勢物語》(1775),《伊賀越乗掛合羽》(1776),《伽羅(めいぼく)先代萩》(1777),《加賀見山廓写本(さとのききがき)》(1780),《殿下茶屋聚(てんがぢややむら)》(《敵討天下茶屋聚》1781)の5編は《伊賀越》が145日打ち通すという古今まれな大当りをとったのを筆頭にいずれも大入り大当りをとり,初演以後も繰り返し上演された。純然たる歌舞伎狂言を書きえた亀輔は中古歌舞伎作者の祖とされる。また,喜怒哀楽の四情にもとづく四番続きの法則を始めたともいわれるだけに,構成力に富み,実録本や講釈にも題材を仰ぎ,二の替り狂言に敵討を取り組むなど従来の枠組みを打ち破る大胆自在な発想のもと,堅実,重厚な構成をかまえ,趣向をめぐらし,役者にそれぞれ仕どころを配して大いに成功した。ただ何分にも筋が細密すぎてくどく,作意過剰の欠点もあって,後には脚色を変えたり他狂言と綯交(ないま)ぜにして上演するようになったが,彼の作が以後の時代狂言に与えた影響は大きかった。世話物では《台頭縁色幕(だいがしらゆかりのいろまく)》が後に脚色を変えて演じられる程度で,さほどすぐれた作はない。亀輔には有力な金主が付いており一時は総支配人と称したくらいで,後世の作者のように役者の顔色をうかがうこともなく,一座の顔ぶれ,役者の抱え入れまで差配した。彼の多能ぶりは自作を直ちに読本浄瑠璃として刊行したり,歌舞伎講釈をみずから興行する面に現れているが,難波新地の料亭吉田屋に四季の趣向を盛った作庭をして人寄せしたり,舶来の珍品を蒐集して〈唐の開帳〉を興行するなど世俗の才にも富み,異才の感が強い。

 なお2世は奈河篤助(1764-1842)がついだ。
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朝日日本歴史人物事典 「奈河亀輔」の解説

奈河亀輔(初代)

生年:生没年不詳
江戸中期,上方の歌舞伎狂言作者。奈河系の祖。別号永長堂,遊泥居。奈良出身で,遊蕩の末に作者となり,奈良と河内を漂泊したことから奈河と称したという。明和8(1771)年に大坂中の芝居で初代並木正三の下に作者として名を連ね,2年後正三が没してからは立作者となり,以降おもに中の芝居で筆を執った。のち京都から江戸へ招かれたものか,天明8(1788)年江戸森田座の番付には「京下り」とある。寛政2(1790)年正月刊行の評判記によれば再び大坂中の芝居に属しているが番付にはみえず,以後の活動は不詳,あるいはこのころに没したか。有力な金主がついていたこともあって一座を采配する力を持ち,番付に「総支配人」として名が記されさえした。当時流布していた実録や講釈の方面に積極的に題材を求め,歌舞伎狂言の構成法である「四情四番続の法則」(喜怒哀楽の4つの情にもとづくという口明け・中入り・世話場・大切の四段で狂言を構成する)を発展完成させることにより,各々の役者の見せ場を確保したうえで,緻密で複雑ながら筋の通った壮大な時代物作品を書き得て「中古歌舞伎作者の祖」とされた。代表作は「伊賀越乗掛合羽」「加々見山廓写本」など。狂言作者が自作の台帳を役者たちに読み聞かせる本読みにも長じ,それを「歌舞伎講釈」として披露した。大坂の料亭に四季の趣向による庭を作ってみせた,唐の珍品を収集して開帳を催した,などの逸話が残る。遺言により葬送は唐の道具で行われたという。奇人であった。名跡は3代まである。2代目を初代奈河篤助が一時期名乗った。<参考文献>西沢一鳳『伝奇作書』(『新群書類従』1,3巻),上野典子「奈河亀輔時代物の構成」(『国語国文』1990年2月号)

(上野典子)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「奈河亀輔」の意味・わかりやすい解説

奈河亀輔
ながわかめすけ

歌舞伎(かぶき)作者。亀助とも。3世まであるが初世が有名。

[古井戸秀夫]

初世

生没年不詳。大坂の歌舞伎作者の姓、奈河の祖で、奈良に生まれ河内(かわち)を放浪したために奈河を名のったと伝えられる。安永(あんえい)期(1772~81)の大坂で初世並木五瓶(ごへい)とともに活躍。丸本の影響が強かった大坂において、講釈などによった純歌舞伎の名作を次々と書く。天明(てんめい)期(1781~89)には「総支配人」と称し興行全般を管理するようになった。代表作は『松下嘉平治連歌評判(まつしたかへいじれんがのひょうばん)』『競伊勢物語(はでくらべいせものがたり)』『伊賀越乗掛合羽(いがごえのりかけがっぱ)』『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』『加々見山廓写本(さとのききがき)』『大願成就殿下茶屋聚(たいがんじょうじゅてんがちゃやむら)』など。門下に奈河七五三助(しめすけ)がおり、その門弟奈河篤助(とくすけ)が一時2世を名のる。3世は嘉永(かえい)(1848~54)ごろの作者。

[古井戸秀夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「奈河亀輔」の意味・わかりやすい解説

奈河亀輔
ながわかめすけ

江戸時代中期の歌舞伎作者。奈良の商家に生れる。若いとき放蕩のあげく歌舞伎界に入り,上方歌舞伎界の大立て者1世並木正三に入門。正三の没後,立作者となる。師の風を受けて,浄瑠璃の手法を取入れ,御家騒動や実録物を素材として複雑な筋の変化をみせる作品を書き,上方歌舞伎を頂点に引上げた。本読みの名人で,浄瑠璃の素語りのごとく読んだという。代表作は時代物が多く,『伊賀越乗掛合羽』 (1776) ,『伽羅先代萩 (めいぼくせんだいはぎ) 』 (77) ,『大願成就殿下茶屋聚 (だいがんじょうじゅてんがぢゃやむら) 』 (81) などがある。

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百科事典マイペディア 「奈河亀輔」の意味・わかりやすい解説

奈河亀輔【なかわかめすけ】

歌舞伎脚本作者。生没年不詳。18世紀後半に活躍。奈良の人。放蕩(ほうとう)の末,大坂の並木正三の門に入り,正三没後立作者として活躍した。御家騒動など実録物にすぐれ,時代物を確立。主作品は《競(はなくらべ)伊勢物語》《伽羅(めいぼく)先代萩》《加賀見山廓写本(かがみやまさとのききがき)》《殿下茶屋聚(てんがぢゃやむら)》など。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「奈河亀輔」の解説

奈河亀輔(初代) ながわ-かめすけ

?-? 江戸時代中期の歌舞伎作者。
奈河系の祖。京坂で活躍し,しばしば奈良と河内(かわち)を往来したので奈河を名のったという。初代並木正三に入門し,大坂浜芝居の作者となった。明和8年(1771)大歌舞伎に名をつらね,安永2年立作者(たてさくしゃ)となる。時代物を確立した。大和(奈良県)出身。前名は奈河亀助。別名に奈川亀助,奈河亀祐。号は永長堂,遊泥居。作品に「競(はでくらべ)伊勢物語」「伊賀越乗掛合羽(いがごえのりかけがっぱ)」など。

奈河亀輔(2代) ながわ-かめすけ

奈河篤助(ながわ-とくすけ)(初代)

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世界大百科事典(旧版)内の奈河亀輔の言及

【敵討天下茶屋聚】より

…6幕。2世奈河亀輔・並木十輔の作。原名題《大願成就 殿下茶屋聚》。…

【伽羅先代萩】より

…通称《先代萩》。奈河亀輔作。1777年(安永6)4月大坂嵐七三郎座(中の芝居)初演。…

※「奈河亀輔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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