出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
5月4日の晩から5日にかけての,女が家にこもる行事。近松の浄瑠璃《女殺油地獄》にも〈五月五日の一夜さを女の家といふぞかし〉とある。関東以西に分布しており,4日の宵節供を〈女の家〉〈女の宿〉〈女の天下〉〈葺き籠り(ふきこもり)〉などと呼び,女がいばり畳半畳が女の所有になるという地方もある。群馬では,宵節供の菖蒲湯(しようぶゆ)は女が先に入るとか,食事は男が用意するという所もある。愛知や岐阜では,家の女が主人となり男たちを客にしてごちそうをする習慣もある。この日,ヨモギとショウブを軒にさす習俗はほぼ全国に見られるが,これを〈女の屋根〉と呼ぶ地域もある。元来,5月は田植の月で,田の神をまつる女性にとっては重要な慎みの時であり,ヨモギとショウブをさした家にこもって物忌み精進の生活をしたものと考えられる。〈女の家〉の習俗は,この古い信仰行事のなごりといえよう。
執筆者:蛸島 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
5月4日の晩から5日にかけて、女の家とか女の屋根また女の夜などとよぶ地方がある。その理由としては、この日だけは女が思うままにしていい日といい、神奈川県の佐野川では「しょうぶ屋根の下は女の天下」だといい伝えている。土地の老人にきくと、いまはとくに威張(いば)るというのではないが、気兼ねなしになんでもできる期間という意味らしい。「女の家」という語は、近松の『女殺油地獄』のなかにも「五月五日の一夜さを女の家と言ふぞかし」という一句があって、この時代から使われていた語ということがわかる。5月は農事暦でいうと、稲作の作業の始まる田植の時季にあたる。かつて家のまつりごとのいっさいをつかさどっていた女性が、田植前に田の神を祀(まつ)るたいせつなときに、家に慎み籠(こも)って、年の豊饒(ほうじょう)を祈願した習俗が残留したと考えられてきた。その籠り屋のしるしとして、ショウブ、ヨモギを屋根に葺(ふ)いたものであろう。「女の家」はこれを通して、かつての女性祭祀(さいし)の時代を考える一つの資料といえよう。
[丸山久子]
…かつてこの日が,強い慎みの生活を必要としたことを物語るものであろう。慎みについては,近松門左衛門の《女殺油地獄》に〈五月五日の一夜さを女の家といふぞかし〉とあるので有名な,女の家の伝承がある。愛知県一宮市には,葺き籠りといって菖蒲で屋根を葺いたその夜を〈女の家〉といい,客となって訪れる男にフキやソラマメの五目飯を出してもてなす所があるという。…
※「女の家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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