婿入り婚(読み)ムコイリコン

デジタル大辞泉 「婿入り婚」の意味・読み・例文・類語

むこいり‐こん【婿入り婚】

婚姻成立祝いを妻方であげ、以後、夫は妻方に住み込むか妻訪いの形で婚姻生活が営まれるもの。一定期間ののち夫方に移るので、一時的妻訪い婚ともいう。村内婚基盤として、日本で古くから行われた。招婿しょうせい婚。→嫁入よめいり婚

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精選版 日本国語大辞典 「婿入り婚」の意味・読み・例文・類語

むこいり‐こん【婿入婚】

  1. 〘 名詞 〙 婚舎が妻方にある婚姻形式。妻問い婚。招婿婚(しょうせいこん)。⇔嫁入婚

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改訂新版 世界大百科事典 「婿入り婚」の意味・わかりやすい解説

婿入婚 (むこいりこん)

婚姻生活の場を妻方(嫁方)におく婚姻。招婿婚,妻訪婚,妻処婚などともいう。一般に日本の基本的婚姻形態として,夫妻の居住方式や初婿入りなどの婚姻成立儀礼の行われ方から,婿入婚と嫁入婚に分類されているが,婿入り,嫁入りのような民俗語彙をもとにしてのこの分類は,必ずしもその意味が合意されているわけではなく,ことに婿入婚に関してはあいまいである。婚舎を妻方におく場合でもその形態はさまざまで,終生夫妻が同居するもの,一時的に夫妻同居するもの(東北地方の年季婿の例),終生夫妻不同居で妻訪いするもの(かつての岐阜県白川村の長男以外の男子の婚姻),婚姻初期に一時的に妻訪いし結局は夫方に夫妻同居するものなどがあり,それぞれ異なる意義をもっている。これらのなかで日本の婚姻〈制度〉として現行民俗に存在するのは婚姻初期に一時的に妻訪いし後に夫方居住する一時的妻訪婚で,一般にこれを婿入婚という。この一時的妻訪婚である婿入婚は伊豆諸島志摩,瀬戸内海沿岸,九州西方離島,南西諸島各地に最近まで広く存在した。歴史的展開としては婿入婚から嫁入婚へ推移したとされ,この要因として中世武士社会の婚姻形態の影響が考えられる。古代日本の婚姻形態は一般に夫妻不同居の妻訪婚にはじまったと考えられているが,これが終生のものか,もともと一時的のものかは議論が分かれている。一時的妻訪婚は年季婿などの場合とともに結局は夫方に居住するのであり居住方式からすれば嫁入婚の一種といえ,日本で一般に用いられる婿入婚(一時的妻訪婚)は嫁入婚と対置される概念をもたないことになる。このため,婿入婚は母系制論拠とは必ずしもならない。
婚姻
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「婿入り婚」の意味・わかりやすい解説

婿入り婚
むこいりこん

婚姻成立祝いを妻方であげ、以後妻方で婚姻生活を過ごすもの。招婿(しょうせい)婚、妻所(さいしょ)婚ともいう。嫁入り婚娶嫁(しゅか)婚、夫所(ふしょ)婚)に対するもの。かつての村(むら)ではツレ、ドシなどとよばれる同輩の若者仲間が結婚の媒介を果たし、当人同士が恋愛関係に入ると男は女の家に通い始めた。やがて妻方で簡素な祝いが開かれ、夫は初婿入りして妻の両親らと正式な対面をした。この後は、夫が妻方に移る住み込み式と、昼は自家で働き、夜ごと妻のもとに通う妻問(つまど)い(妻訪(さいほう))式とに分かれる。海女(あま)の村など西南日本の各地にみられた事例はほとんど後者に属し、東北地方の年期婿は前者の事例である。どちらも一定期間を過ぎれば夫は妻子ともども自家に引き移る習わしで、その意味では妻所・夫所婚ないし妻訪・夫所婚と名づくべき方式である。唯一の例外は岐阜県大野郡白川村の一部でみられた習俗で、次男以下の男は終生他家にいる妻のもとに通い続けたという。婿入り婚は村内婚を基盤とするもので、村外婚の成立とともに嫁入り婚へと変わっていった。その中間に伊豆諸島などの足入れ婚があり、これは婚姻成立祝いだけ夫方であげ、以後夫が妻問いを続ける形式であった。

[竹田 旦]

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百科事典マイペディア 「婿入り婚」の意味・わかりやすい解説

婿入婚【むこいりこん】

夫婦の生活が嫁方でなされる婚姻。招婿婚(しょうせいこん)とも。嫁入婚の対。母系制社会に多くみられる。日本では父系制下ではあったが,平安時代まで婚姻の支配的形式であった。養子縁組もこれに属する。海女(あま)集落など,女性の労働力が重視される所や,岐阜県白川郷などでは近年まで普通に行われたが,一般に一定年限を経て婿方に移るものが多かった。→妻訪(つまどい)婚
→関連項目足入婚初婿入り

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「婿入り婚」の意味・わかりやすい解説

婿入り婚
むこいりこん

招婿婚,妻所婚ともいい,嫁入り婚の対語。夫婦生活が妻方で行われる婚姻形態で,夫が妻方に住むものと,妻方へ通う通い婚とがあり,またその期間が一時的であるものと,終生妻方に居住するものとがある。日本では古代から平安時代にかけては,この婚姻形態が主であったが,鎌倉時代を境にして次第に嫁入り婚に移行した。伊豆諸島や志摩半島の漁村,あるいは岐阜県の白川村などでは,近年まで婿入り婚がみられた。このような婚姻形態 (母処婚,妻方居住婚ともいう) が,社会の主要な慣習として行われる例が世界の各地にみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の婿入り婚の言及

【婚姻】より

…しかしかかる通説を全面否定したのが高群逸枝(たかむれいつえ)《招婿婚の研究》(1953)である。この説は,籍帳には独身の成年男女例,1・2歳の乳児がいながら妻を付籍しない例,生家に子とともに付籍されている娘の例など通説では説明できない事象が広く存在し,しかもかかる例が律令国家の規制の弱まる後代の籍帳ほど多くみられる点をもう一つの根拠にしているが,その最大の論拠は10世紀以降の貴族の日記から復元される婚制が婿取婚(婿入婚)である事実であった。高群はこの婿取婚をI前婿取婚(飛鳥奈良平安初),II純婿取婚(平安中),III経営所婿取婚(平安末),IV擬制婿取婚(鎌倉南北朝)の4段階に分けている。…

【婚礼】より

…【末成 道男】
[日本の婚礼]
 婚姻の儀礼は婚姻の形態によりさまざまである。いわゆる婿入婚(妻方・夫方居住婚)では,すでに当事者間で約束された夫婦関係を公的に承認する意味の儀礼が中心となる。結婚の話がきまると婚姻成立儀礼として,夫が妻方におもむいて妻の親の盃をとりかわす〈ミキレイ〉などとよぶ婿入りの儀礼がある。…

【しゅうと・しゅうとめ(舅・姑)】より

…また祝言の前日にシュウトイリと称して,嫁の両親の夫の家への訪問を儀礼化している場合もある。 嫁が夫の家に入る嫁入婚においては,とくに嫁と夫の父母との関係がきわめて重要であり,また妻方への一時的訪婚をともなう婿入婚においては夫と妻の父母との関係も合わせて重要である。嫁入婚においてはとくに嫁と夫の父母,なかでも嫁と姑の関係は主婦権をもつ者とこれをやがて奪う者との関係であり,緊張関係が形成される。…

【性】より

…〈性〉ということばにはさまざまな意味がある。まず〈性〉は生物の多くの種にみられる二つの表現形態の区別で,ヒトであれば男性―女性,動植物であれば雄性(雄)―雌性(雌)の区別を意味する。次に,この二つの性が存在するところから生じる行動,現象も一般に〈性〉といわれる。 ヒトの場合,性は遺伝子によって決定され,発生の過程で内性器,外性器の性分化が起こる。これを一次性徴という。次いで思春期にいたると,男子では筋骨の発達やひげが生えるというぐあいに,一見して〈男らしい〉〈女らしい〉体つきとなる。…

【嫁】より

…嫡子外の男は,多く両親とは別の世帯をもったのであり,そこでは夫婦を軸とする家族生活が展開された。またいわゆる婿入婚は,婚姻初期には妻方に訪婚し,やがて夫方に引き移る夫方居住の形態をとるのだが,その夫方への引移りに際し,しばしば親子2世代夫婦不同居の原則をとることがみられた。つまり夫方への引移りは,夫の親の死亡,あるいは隠居などによって,嫁が直ちに主婦の座につくことが可能な状態において行われるのであり,そこでは核家族の形態がみられ,しゅうとめも嫁もそれぞれ別個のカマドを所有する主婦として存在できた。…

【嫁入婚】より

…夫処婚ともいう。一般に日本の婚姻形態は,夫妻の居住方式や婚姻成立儀礼の行われ方から婿入婚と嫁入婚に分類されるが,この婿入婚も婚姻初期は妻方に訪婚するが結局は夫方に居住する形態をとっている。嫁入婚の形式は,中世武家社会に形成されたものとされ,そこには家父長制をもとにする家の重視や,村外(遠方)の通婚がみられ,これを背景として仲人の重視,結納,嫁入り,荷物送り,披露など婚姻諸儀礼の著しい発達があり,それらは小笠原流などの礼法によっていっそう形式をととのえている。…

※「婿入り婚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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