家庭医学館 「子どもの音声障害」の解説
こどものおんせいしょうがい【子どもの音声障害 Voice Disorders】
音声が異常になり、本来の声の状態とはちがってくるものを、音声障害といいます。
音声障害の症状はさまざまですが、大別すると、音声の産生(発声)に障害があって生じる発声障害(はっせいしょうがい)と、声の響き(共鳴)が異常になった共鳴障害(きょうめいしょうがい)とに分けられます。
声は、肺から送り出される呼気(こき)(はく息)が声帯(せいたい)を振動させることによって発生します。したがって、呼気が弱かったり、声帯になにか異常が生じたりすると、発声障害がおこります。
この場合、声がまったく出ない状態を失声症(しっせいしょう)といい、がらがら声、濁った声、しわがれ声、かすれ声などと呼ばれる状態を嗄声(させい)(声がれ)と呼びます(コラム「嗄声のいろいろ」)。
[原因]
つぎのようなさまざまな原因で音声障害がおこります。
■難聴(なんちょう)
難聴があると言語発達が遅れることが多いのですが、これとは別に、幼児期に自分の声を聞いて発声の調節法を身につけることが最初からできないため、発声も異常になります。
難聴があると、ふだんの声が大きくなりがちで、自分の声が聞こえないほど難聴が重いと、発声活動そのものが発達しない傾向があります(「難聴」)。
■声帯結節(せいたいけっせつ)
声帯に小さないぼ(結節)ができるために嗄声がおこります。大声を出すなど、声を乱暴に使う子にみられ、小児嗄声(しょうにさせい)ともいいます(「声帯結節(謡人結節)」)。
■急性喉頭炎(きゅうせいこうとうえん)
かぜなどの際に喉頭(のど)が赤く腫(は)れる病気で、声帯も腫れるので、声帯がうまく振動できず嗄声が生じます(「急性喉頭炎」)。
■声帯(せいたい)ポリープ
かぜをひいたときなどに、むりな発声を続けると、声帯に出血がおこり、きのこ状に腫(は)れあがって嗄声がおこります(「声帯ポリープ(喉頭ポリープ)」)。
■反回神経(はんかいしんけい)まひ
この神経がまひすると、声帯が動かなくなって声が出なくなります(「喉頭運動まひ(反回神経まひ)」)。
■心因性失声症(しんいんせいしっせいしょう)
精神的ショックのような心理的原因があって、声が出なくなる状態です(「機能性音声障害」)。
■内分泌異常(ないぶんぴついじょう)やホルモン剤の副作用
性腺機能低下(せいせんきのうていか)や性腺(せいせん)ホルモン剤の使用で音声障害が生じることがあります。
■声変(こえが)わり
変声期すなわち思春期になると生じるもので、男児に比して女児のほうが少し早めにおこります。
■全身衰弱
重い病気で全身が衰弱すると、呼気が弱くなって音声も弱まります。これを音声衰弱症(おんせいすいじゃくしょう)と呼びます。
■鼻・上咽頭(じょういんとう)の病気
急性・慢性鼻炎(びえん)、急性・慢性副鼻腔炎(ふくびくうえん)、鼻茸(はなたけ)、アデノイド増殖症、扁桃肥大(へんとうひだい)などの場合に、鼻がつまったような声になります。これを閉鼻声(へいびせい)といい、共鳴障害の一種です。
■口蓋(こうがい)の病気
口蓋裂(こうがいれつ)、粘膜下口蓋裂(ねんまくかこうがいれつ)、口蓋短縮症(こうがいたんしゅくしょう)、軟口蓋(なんこうがい)まひなどで、声が鼻にぬけてふがふがした感じになります。これを開鼻声(かいびせい)といい、やはり共鳴障害のタイプの1つです。
[検査と診断]
まず、本人の音声を直接聴いて、その特徴を把握します。
難聴が疑われる場合や構音障害、言語発達遅滞をともなう場合は、聴力検査を行ない、難聴の有無を確かめます。
共鳴障害のある子どもについては、鼻腔(びくう)、口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)などを視診やX線検査で調べ、病気の有無を確認します。
音声障害のある子どもは、喉頭ファイバースコープ検査を行なって、声帯の病変や声帯の動きに異常がないかを調べます。
[治療]
原因がわかれば、おのずから治療法も決まります。
声帯ポリープは手術が必要です。声帯結節は変声期までに自然に治ります。
[日常生活の注意]
声帯には、不自然な発声だけでなく、せきばらいや嚥下運動(えんげうんどう)(飲み込む運動)のときにも、大きな負担がかかります。
声帯をたいせつに使うには、つぎのような配慮が必要です。
①むやみに大声で叫んだり、金切り声を出したりしない。
②せきばらいは極力がまんする。
③むりな発声(うら声など)をしない。
④うるさい場所での会話は避ける。
⑤かぜのときは、会話をひかえる。
声変わりも、上のような事項に注意すれば、自然に解決します。