一定の学習の成果として獲得された知識や能力を、測定・評価するテストの総称である。学力検査に同じ。
[河合伊六]
19世紀末ごろまでは、任意の口頭試問や論文体テストがおもに用いられていたが、やがてその主観性が反省、批判されるようになった。20世紀に入ると、アメリカでソーンダイクを中心とする教育測定運動が盛んになり、学習の成果を客観的、数量的に測定することを目的として、書字、綴字(つづりじ)、算数などに関する各種の標準学力テストが試作された。そして賛否両論の激しい論争のなかで標準学力テストはしだいに広く普及していった。日本でも、大正10年代から昭和初期にかけて、当時の算術や読み方などに関する客観テストが数多く作成された。他方、専門家の手になる標準テストとは別に、教師が自己の担当学級に適用するための客観テストも自作された。その後1930年(昭和5)ころから、教育の成果は教育目的や価値の観点からも検討されるべきであること、そして、教育測定運動では、数量化しにくい面の教育が等閑視されやすいことなどの批判と反省が生まれ、学力テストは、教育評価の観点からその一つの方法として位置づけられるようになった。
第二次世界大戦中は影を潜めていた客観テストは、戦後アメリカの影響を受けてふたたび多用されるようになる。そして中学校での進路指導の資料としてその後も長く民間業者による統一テスト(業者テスト)が利用されてきたが、これは偏差値偏重の受験競争の要因としてたびたび問題となり、1993年(平成5)当時の文部省により禁止されるに至った。しかしその後も学習塾などの大規模な学力テストは広く行われている。
[河合伊六]
学力テストは、(1)標準化された客観テスト、(2)教師作成の客観テスト、(3)従来からの論文体テスト、に分けられる。(1)の標準テストは、あらかじめ全国の児童・生徒を代表するように抽出された見本集団にテストを実施し、その結果に基づいて作成した基準に照らして個人を評価するもので、学力偏差値もすぐに求められる利点をもっている。アチーブメント・テストachievement testともいう。これに対して(2)の教師作成テストは、そのような基準をもっていないので、全国平均もしくは他の学級や学校との比較が困難である。また、テスト自体の妥当性や信頼性にも難がある。しかし、教師が直接指導した学級での授業効果を直接に評価できるので、指導方法の反省と改善に役だてることができる。標準テストと教師作成テストはともに客観テストであり、採点に主観が入り込むことを防げるし、広範囲にわたって多くの問題を出題できる利点をもつが、断片的で皮相的な知識のテストに陥りやすい欠点ももっている。この点を補うものとして、(3)の論文体テストの意義がふたたび見直されるようになった。しかし、論文体テストは多数の問題の出題が困難であるために出題範囲が限定されるとか、後光効果などのために採点が主観的になりやすいとかの点に、とくに留意しなければならない。
学力テストはまた、その目的からみて、(1)総合的な学力や特定教科の全般的な学力を評価する概観テスト、(2)一つの教科の学力を領域別もしくは観点別に評価し、その結果をプロフィールで示す分析テスト、(3)つまずきの箇所を発見し、指導に直接役だてようとする診断テスト、の3種に分けられる。
[河合伊六]
学力テストの出題形式は、○×式と記述式とに大別される。○×式は、多肢選択法multiple-choice(いくつかの項目のなかから正解を選ぶ)に代表されるように、あらかじめ提示された項目のなかから正解の再認を求める形式である。そのために、十分な知識がなくても、偶然が正答となることもある。他方、記述式は、完成法(文章中の空欄に適切な語句や数字を思い出して記入する)で代表されるように、記憶している知識のなかから正解を再生させる形式である。記述式で正解するには正しい理解と正確な記憶が必要であり、一般に○×式より記述式のほうがむずかしい。なお、前述の論文体テストは、その性質上、記述式のなかに含められる。○×式は採点が能率的にできるので、多数のデータを短期間に処理しなければならない選抜試験などで多く用いられているが、日常の教育場面ではあまり適当な形式とはいえない。
[河合伊六]
『橋本重治・肥田野直監修『最新教育評価法全書2 学習指導と教育・心理検査』(1977・図書文化)』▽『辰野千寿・高野清純・加藤隆勝・福沢周亮編『実践教育心理学5 測定と評価の心理』(1981・教育出版)』▽『教育情報科学研究会編『講座教育情報科学3 教育とデータ分析』(1988・第一法規出版)』▽『池田央著『テストの科学』(1992・日本文化科学社)』▽『松本幸夫著『「業者テスト」はやめられるか――いつまでつづく受験地獄』(1993・民衆社)』▽『大野木裕明著『テストの心理学』(1994・ナカニシヤ出版)』▽『藤田恵璽著『藤田恵璽著作集2 教育測定と実践研究』(1995・金子書房)』▽『キャロライン・V・ギップス著、鈴木秀幸訳『新しい評価を求めて――テスト教育の終焉』(2001・論創社)』▽『大友賢二監修、中村洋一著『テストで言語能力は測れるか――言語テストデータ分析入門』(2002・桐原書店)』
学校教育によって児童・生徒が学習し,獲得したものを測定しようとするテストで,アチーブメント・テストともいう。どれだけ学ぶことができるかその可能性を予測する適性検査aptitude testに対置される。その形式は,客観化されたペーパー・テストによるものが多く,20世紀初頭まで試験の際に用いられた口頭試問や論文体テストの恣意性と主観性を克服するため,アメリカにおいてE.L.ソーンダイクらによって開発されて以降急速に普及した。例えば彼が初めて作成した客観的テスト(書き方考査尺度,1910)以降,1928年には,アメリカで標準化されたテストは約1300種,40年には2600種にもなった。日本においては,大正から昭和にかけてその研究が盛んになり,田中寛一の《算数計算問題基準》《算数応用問題の考査基準》《国語書き取り成績の考査基準》などはその代表的なものである。
学力テストは,教師作成テストと標準学力テストに二分される。教師作成テストは教師自身が作成するテストであり,一人一人の児童・生徒の学習状況を授業前に診断し(診断テスト),授業の成果を点検し(形成テスト),単元や学期の終了時に児童・生徒の学習成果を評定するために行うテスト(総括テスト)である。標準学力テストは,学力の目標分析の後にテスト問題が作成され,標準的な集団に対して事前に予備調査がなされたうえで作られたテストであり,個々人の成績は,この標準的集団との相対的な位置によってその学力が決定される。最近では,目標との関係でその学力水準を確かめる目標準拠標準テストcriterion-referenced testも開発されている。しかし,学力テストは,再生法,完成法,選択法,結合法,真偽法などさまざまな技術が開発されても,その中心は,知識と記憶の量を測ることになりがちであり,思考力,論理展開力,文章構成力などは測定困難なために,教育の中では,その功罪がしばしば社会問題となる。
教育行政,教育計画の改善や教育研究のために,さまざまな機関が大規模に行う学力実態の調査。戦前の代表的なものは1905年から行われた壮丁学力調査で,これは兵士になるのに必要な基礎的学力を国民がどの程度習得しているかを知る目的で徴兵検査時に行われた。また戦後のものとしては,1956年から66年にかけて行われた文部省の全国一斉学力調査が代表的なものである。このほか,日教組が国民教育研究所と共同で行ったもの(1976),国立教育研究所による〈学習状況到達度調査〉(1976)などもある。また国際比較調査も数学(1964)や理科(1970)に関して行われている。しかし学力調査は,かつて文部省の一斉学力調査が子どもの中に競争をもちこみさまざまな弊害を生んだことに示されるように,その調査の目的,方法などについては多くの問題があり,どの機関が実施するにせよ慎重な配慮が必要である。とくに現場の教師の十分な了解のもとに行うことは,実施の最低の条件である。
→教育評価
執筆者:村越 邦男
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