仮名垣魯文(かながきろぶん)の戯作(げさく)。3編5冊。1871-72(明治4-5)年出版。角書(つのがき)に〈牛店雑談〉とある。文明開化の訪れを楽しむ庶民の実態を,あぐらをかいて食べる安直な牛鍋屋の座敷に凝縮して再現した作品。登場人物は田舎侍,工人,生(なま)文人,娼妓,商人といった庶民階級で,精細な人物描写と会話に写実味があり,その写実を通して,無批判かつ安直に開化の現実を受け入れている庶民の生活意識と風俗を浮彫にする。式亭三馬の《浮世床》や《酩酊気質(なまえいかたぎ)》などの趣向と滑稽を取り入れている。長い間,禁忌であった肉食が,開化の到来とともに破れ,逆に奨励され始めた風潮をいち早くとらえ,魯文の時代の流行に敏感なところがよく示されている。
執筆者:浅井 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仮名垣魯文(かながきろぶん)の戯作(げさく)小説。3編5冊。1871~1872年(明治4~5)刊。「牛店雑談(うしやぞうだん)」の角書(つのがき)がある。明治維新後、東京市中に続々と開業した牛鍋(ぎゅうなべ)屋を舞台に、あぐらをかいて牛鍋をつつきながら気楽なおしゃべりを交わす庶民の生態を、滑稽本(こっけいぼん)風の手法で生き生きとスケッチした作品。田舎(いなか)武士、職人、生(なま)文人、芸者、商人などの登場人物の会話のなかには、蒸気車、伝信機(てれがらふ)、こうもり傘など、開化の文物が縦横に取り上げられている。風俗のレベルで「文明開化」を摂取した庶民の反応を的確にとらえた魯文一代の傑作である。
[前田 愛]
『『明治文学全集1 明治開化期文学集(1)』(1966・筑摩書房)』
滑稽本。仮名垣魯文(かながきろぶん)著。挿絵は落合芳幾(よしいく)・河鍋暁斎(きょうさい)。1871~72年(明治4~5)誠之堂刊。式亭三馬の「浮世床」「浮世風呂」にならい,牛鍋屋に出入りする客たちの浮世話を写実的に描いたもの。舶来品に身を固める「西洋好(せいようずき)の聴取(ききとり)」,田舎出身の書生の生態を描いた「鄙武士(いなかぶし)の独盃(どくはい)」,外国との取引を胸算用する「商法個(あきんど)の胸会計(むなかんじょう)」など,さまざまな人物とエピソードを盛りこんで,開化風俗を活写する。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…明治に入ると政府は肉食奨励に乗り出し,69年(明治2)9月東京築地に牛馬会社を設立,72年1月には天皇が牛肉を試食している。その前年刊行された仮名垣魯文(かながきろぶん)の《安愚楽鍋(あぐらなべ)》には〈牛鍋食はねば開化不進奴(ひらけぬやつ)〉とあり,すでに牛なべは文明開化を象徴する食べものになっていた。77年ごろには牛なべをあきなう店が急増し,東京では488軒を数えたというが,とくに大衆的普及にあずかって力のあったのは81年ごろ〈いろは四十八店〉を目標に,木村荘平(木村荘八らの父)が開業した〈いろは〉であった。…
※「安愚楽鍋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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