安積疏水(読み)あさかそすい

日本歴史地名大系 「安積疏水」の解説

安積疏水
あさかそすい

明治新政府は維新の動乱を経て中央集権国家を樹立し、国際資本主義社会に遅ればせながら加わり、版籍奉還・廃藩置県を経て行財政政策の大きな変動のなかで、殖産興隆・富国強兵をめざした。そのなかで国家予算を無為に徒食する士族への授産政策の一つとして、全国的に荒蕪原野の開拓が進められた。明治六年(一八七三)福島県令安場保和による政府開拓資金の獲得と、郡山の富商二五人の出資資金による共賛の大槻おおつき原開墾が、二本松藩士族を対象に進められた。困難でまったく未知の事業であったが、開物成務の信念に燃える県典事中条政恒(作家宮本百合子の祖父)が担当し、現地に起居し精力的に事業を行った。同九年四月内務省告示により士族授産開拓の桑野くわの村が誕生した。このことは明治政府をはじめ、同じ問題で模索中の全国各県の注目するところとなり、同年六月の明治天皇東北巡幸に際しては、とくに桑野村行在所に駐泊する予定変更もあり、中条政恒は行在所で政府高官列席のもとで、桑野村開村事業経過の奉答を行い、その功を関係者一同とともに賞された。巡幸に先行して、内務卿大久保利通が巡視に来県。全国的な世情不穏のもとである士族問題に苦慮していた大久保に、開拓授産適地としての安積郡内荒蕪原野と、桑野村開村の経験から猪苗代湖の水の安積原野への導入の有効性を具申、その賛意を得た。同年一二月内務属高畠千畝・南一郎平が栃木県那須なす原より、北は青森県三本木さんぼんぎ野までを調査し、地味や交通の諸条件を勘案し、安積郡諸原野を最適地と報告する。しかし明治一〇年の西南戦争の勃発により中断、戦後の明治一一年三月奈良原繁が内務省御用掛として疏水開発事業を総括し、国家事業として着手、事務所を開成かいせい館内に設置した。同年五月一四日の大久保利通暗殺にもめげず、同一二年一〇月二七日に開成山大神宮社前で内務卿伊藤博文・勧農局長松方正義などが参加して疏水事業起工式を執行。くち山潟やまがた(現猪苗代町)熱海あたみの各工区は翌日より着手、続いて夏出なついで多田野ただの富岡とみおかに工区を設定して着工した。以来工事に関して紆余曲折の苦闘を経たが、最新の工具・工業技術を集中、安積郡・安達郡岩瀬郡内農民の疏水渇望の念願もあり、水が来るという夢実現のため物心両面にわたり協力があった。

工事は約三年を要し、明治一五年八月一〇日工事竣工通水式が行われた。その直前に関係村々の役職者たちは小船で隧道内部を見学、改めて国家事業でなければ完成は至難であったとの思いを大にしたという(安積疏水誌)

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「安積疏水」の解説

安積疏水
あさかそすい

猪苗代(いなわしろ)疏水とも。福島県安積郡の原野を灌漑するため,猪苗代湖から取水された用水路。明治政府の士族の生活救済策として企画され,勧農局の管掌のもとに1879年(明治12)着工,82年ほぼ完成。全長は幹線52km,分水路78kmで,94年現在で古田2967ヘクタール,開墾田1290ヘクタール,合計4258ヘクタールの水田を灌漑した。設計はオランダ人ファン・ドールンの必要水量の推計とトンネル測量にもとづき,農商務省の南一郎平が担当。この完成により安積郡の米収穫量は約1万5000トン増大したと報告されている。旧士族のこの地に帰農したものは512戸。のちに疏水は水力発電にも利用され,郡山の工業都市としての発展にも貢献した。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安積疏水」の意味・わかりやすい解説

安積疏水
あさかそすい

福島県猪苗代湖の水を阿武隈川に導く灌漑用水路。郡山盆地一帯を潤す。旧安積疏水は 1882年三島通庸によって開削され,士族授産がはかられた。1951年郡山盆地南部を灌漑する新安積疏水が完成。新疏水路は旧疏水路より一段高位置を流れる。新旧両疏水で約 90km2を潤す。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「安積疏水」の解説

安積疏水
あさかそすい

明治三大用水の一つで,福島県安積地方開発のための灌漑用水路
内務卿大久保利通の建言により士族授産を目的とする政府事業として施工。オランダ人ドールンの設計・指導により,1879年起工,'82年通水。猪苗代湖から阿武隈川までの疏水で,3万㎢に灌漑。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

事典・日本の観光資源 「安積疏水」の解説

安積疏水

(福島県郡山市須賀川市本宮市・安達郡大玉村・耶麻郡猪苗代町)
疏水百選」指定の観光名所。

出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android