東北地方を太平洋側斜面と日本海側斜面に大きく二分する脊梁山脈。北は青森県夏泊(なつどまり)半島から南は福島・栃木県境の帝釈(たいしやく)山地に合するまで,岩手・秋田・宮城・山形の各県境をつくりながら延々500kmにわたってのび,長さでは日本一の山脈である。標高はほぼ1000m程度のところが多いが,第四紀の火山が重なるところは2000mをこえ,東日本島弧に沿う火山帯(東日本火山帯)の一部にあたる。
奥羽山脈の構造発達史を概観すれば,第三紀中新世における広範な海進に伴う地向斜の成長と地下深所での火成岩形成などの活動,鮮新世以降の褶曲運動と,それに続く大規模な隆起運動などを経て現在の山脈の骨組みができ上がったと考えられている。とくに第四紀初めごろの隆起運動は南北方向にのびる逆断層を伴い,その結果奥羽山脈は標高1000mをこえる長大な地塁状の山地となった。さらにその高まりの上に新たに火山活動が行われて,山脈全体のほぼ半分の面積が第四紀の火山噴出物に厚く覆われた。その間に断層運動によって生じた断層盆地,断層角盆地(猪苗代湖盆など)などの構造地形,新期火山活動によるカルデラ湖(十和田湖,田沢湖)や泥流せき止め地形(雫石(しずくいし)盆地,裏磐梯三湖)などが加わり,山脈全体の地形構造を複雑なものにしている。またこの山脈には火成活動によって金属鉱床が多く形成され,小坂(銅,亜鉛)などの黒鉱鉱床や尾去沢などの熱水鉱床が分布する。
地形学上は次の四つの事項が注目される。(1)山頂高度の定高性 火山体がのっている部分を除くいわゆる非火山性山地のところは,ほぼ全域にわたって標高1400~1000mの稜線が続き,それらに接する仮想的な面(接峰面)はみごとに滑らかな曲面をみせる。このことは,奥羽山脈が南北にいくつかのブロックに分けられながらも,全体として第三紀以前に形成された小起伏面(浸食平たん面)を原地形面としてもっていたこと,隆起後開析の進んだ現在でもなお,主稜線付近にその原面を比較的よく保存していることを物語る。そして,これを土台として形成された火山群も規模に応じて若干異なるものの,2000~1600mというほぼ一様な標高をもっている。(2)活断層との関係 地塁山地外縁を限る断層崖が南北に断続的に連なるが,その多くは第四紀以降も逆断層の動きを続けている活断層によるものである。その意味で,奥羽山脈は現在もなお成長期にあるといえよう。(3)火山前線との一致 大地形構造上からみて弧状列島に沿う火山帯の海溝側のへりを火山前線(火山フロント)というが,奥羽山脈の場合,その東側の盛岡と白河を結んだ重力の急変帯付近がほぼ東日本火山帯のフロントにあたる。比較的活動の盛んな火山としては岩手山,蔵王山,吾妻山,安達太良山,磐梯山,那須岳の6峰がある。(4)周氷河地形 東北地方では奥羽山脈のほか,朝日・飯豊(いいで)山地,月山,北上高地の一部などにも周氷河地形が分布する。とくに奥羽山脈では,標高ほぼ1500mをこえる火山地に植生の乏しい緩斜面が広く発達しているため,凍結-融解作用による岩屑(がんせつ)の生産とその移動という周氷河作用が働きやすい。多角形土,条線土,芝塚など,過去の寒冷期につくられたものと現成のものとがみられる。
気候,交通などへは次の四つの影響が考えられる。(1)山脈が南北に長く連なることから,とくに冬の北西季節風をさえぎる効果をもち,低い鞍部からの吹越しを除けば,降・積雪域を明確に風上側に限定させ,太平洋側と日本海側の気候区界の役割を果たしている。例外的な低い鞍部としては山形・宮城県境の中山峠(354m),関山峠(594m),福島県猪苗代湖東方の中山峠(531m)などがあり,奥羽山脈の気候的影響をやわらげている。(2)主稜線は標高1000m以上のところが大半を占めるため,東西方向の交通に障害となる場合が多いが,(1)と同様,ところどころにある鞍部が古くから峠道やトンネルによる通行を可能にして,東西を結ぶ肋骨状の交通網がつくられてきた。JR線だけでも北から花輪線,秋田新幹線(田沢湖線),北上線,陸羽東線,仙山線,山形新幹線(奥羽本線),磐越西線の7本を数える。また高速自動車道では2006年12月現在,北から東北自動車道,秋田自動車道,山形自動車道,磐越自動車道が,山脈を東西に横断している。(3)壮年山地の特徴として起伏量が大きく急斜面の多い山地であることに加えて,活動時期の新しい火山が多いため植被の乏しい斜面が広く,浸食による岩屑・砂礫(されき)の生産とその搬出が極めて盛んであり,山脈両側の山麓に沿って新旧の扇状地がみごとに発達する。東側の岩手県南部の胆沢(いさわ)扇状地,福島盆地の松川扇状地,西側の秋田県横手盆地東縁の扇状地群,山形盆地の乱川,馬見ヶ崎川両扇状地,等々がそれである。そのことは砂礫供給の少ない北上高地,阿武隈高地山麓の地形とは対照的で,奥羽山脈と両高地の間を流れる北上川,阿武隈川の東西両岸で顕著な違いがみられる。(4)南北の長さに比べて東西の幅が狭いので,山麓を走る幹線交通路沿いの都市などからの観光や登山ルートは比較的短い。蔵王エコーライン,磐梯吾妻スカイラインなどに人気があるのも,〈開かれた山脈〉ともいえるアプローチの容易さに一つの理由があると思われる。なお国立公園の十和田八幡平と磐梯朝日,国定公園の栗駒と蔵王がこの山脈に含まれ,いずれも火山地形を中心にした観光地である。
執筆者:中村 嘉男
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東北地方の中央部を南北に走る山脈。北は青森県陸奥(むつ)湾南部の夏泊半島(なつどまりはんとう)から岩手、秋田、宮城、山形の県境を走り、福島、栃木県で帝釈山脈(たいしゃくさんみゃく)に合するまで約500キロメートルに及ぶ。第三紀層の褶曲(しゅうきょく)隆起帯上に那須火山帯(なすかざんたい)が重複し、新期の火山噴出物がのって2000メートル内外の高度に達する山が多い。八甲田山(はっこうださん)、八幡平(はちまんたい)、岩手山、栗駒山(くりこまやま)、駒ヶ岳、吾妻山(あづまやま)、蔵王山(ざおうさん)、安達太良山(あだたらさん)、那須岳などの火山がみられる。山脈は中新世以降の造山運動によって生じた山地で、数多くの金属鉱床をもち、さまざまな火山地形と同時に温泉群を有する。十和田八幡平国立公園、栗駒国定公園、蔵王国定公園、磐梯(ばんだい)朝日国立公園、さらに日光国立公園の一部をも含むわが国有数の山岳自然公園を誇っている。
南北に長い奥羽山脈は、古くから東西地域の連絡に障害となり、険しい峠の交通によって結ばれてきた。現在ではJR花輪線、北上線、田沢湖線、陸羽東線、仙山線、奥羽本線、磐越(ばんえつ)西線が山脈を横断、国道も46~49号、107号などが通ずる。国道46号は、仙岩トンネル開通(1966)以前は、積雪によって国見峠が冬季不通となっていたが、いまでは年間を通して東西交通が自由となっている。また、岩手県北部の花輪線沿いに山脈を横断し、秋田県鹿角(かづの)市から青森県に通じる東北自動車道も開通した。
[川本忠平]
… 地質・地形の概略は,主として新第三系中新統~鮮新統の凝灰岩,砂岩,ケツ岩などからなり,一部に太平山(1171m),白神山(1232m)などの花コウ岩の山地と,第四紀に形成された岩木山(1625m),鳥海山(2237m)などの火山群を含む。深い谷によって刻まれてはいるが,山頂付近の稜線にほぼ1000~1400mの定高性が認められ,小規模ながら浸食平たん面を残すことなど,奥羽山脈との共通点が多い。しかし,奥羽山脈が明瞭な断層運動を伴う地塁山地として形成されたところが大部分で南北に連なり,東北地方の脊梁をなすのに対し,出羽山地は曲隆運動の結果高まって形成された地塊山地群であり,各地塊ごとにほぼ東西方向に主稜線を走らせている点に大きな違いがみられる。…
※「奥羽山脈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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