法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子。民法は婚姻中に懐胎された子をもって夫の子と推定する懐胎主義によって立法している(772条1項)。ところが,第2次大戦前には,婚姻の慣行として子が出生するまで婚姻の届出をせず,内縁関係にとどまるという場合も多かった。このような場合に,父母は法律上の婚姻をしているのに,その間に生まれた子が一時的にせよ〈嫡出でない子〉として処遇される結果になる。そこで,判例,学説は懐胎主義から脱し,父母の婚姻中に出生した子をもって嫡出子とする出生主義によることになった。このような立場では,嫡出子とは〈妻が夫によって懐胎せしめられ,婚姻中に出生した子〉とされる。嫡出子には〈生来の嫡出子〉と〈準正による嫡出子〉とがある(準正については後述)。
嫡出子とは懐胎されてから出生するまでの間のいずれかの時期に,法律上の婚姻関係にあるか,あるいはあった父母の子である。したがって,嫡出子となるための要件としては,子について,これらの期間内で父子関係,母子関係,法律上の婚姻関係の存在が確定されればよいが,父子関係については絶対的に確定することはできない。そのため,父子関係が存在すると考えられる可能性が高い場合に〈推定〉されることになる。民法は婚姻道徳と医学上の統計を基礎にして,妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し(772条1項),さらに,婚姻成立の日から200日以後,婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎されたものと推定する(同条2項)。このように,父子関係についてなんらの証明を必要としないで推定を受ける場合のほかに,なんらかの要因で推定が働く場合も生じてくる。この結果,嫡出子が,〈推定を受ける嫡出子〉と〈推定を受けない嫡出子〉とに分かれる。
推定を受ける嫡出子について,その嫡出性を否認するためには嫡出否認の訴えによらなければならない(民法775条)。この訴えは夫だけが提起することができ(民法774条,ただし,人事訴訟手続法28条,29条),しかも,夫が子の出生を知ったときから1年以内に訴えを提起しなければならない(民法777条,778条)。また,夫が子の出生後に子の嫡出性を承認すれば否認する権利を失うことになる(776条)。嫡出否認の訴えの行使に関する厳しい制限は推定を受ける嫡出子の地位の安定化に寄与するが,他面,夫が否認権を行使しなかったり,また,喪失してしまったような場合には,実際には親子関係がないにもかかわらず,法律上生じた親子関係を解消させる方法がないということになる。
父子関係が民法772条による推定を受けず,他のなんらかの要因で推定される嫡出子である。これらの嫡出子につき,その嫡出性を否定するには,〈親子関係不存在確認の訴え〉によることになる。内縁関係にあった男女が子を懐胎し,あわてて婚姻の届出をしたが,届出後200日以内に子が出生した場合には,判例では,その子は〈推定を受けない嫡出子〉とされている。また,形式的には772条に該当する出生子であるけれども,夫による懐胎の可能性が客観的にない場合,たとえば,夫が長期間不在だとか,夫が生殖不能である場合などでは,推定を受けない嫡出子とされ,父子関係について法律上と事実上の父子の不一致を回避しようとする。なお,前者と後者とでは〈推定を受けない〉ということの内容が異なるので,後者を〈推定の及ばない嫡出子〉と呼ぶこともある。
嫡出でない子について,その父母の婚姻と父の認知によって嫡出子の地位を取得することを準正といい,そのような嫡出子を準正子ないし準正嫡出子と称する。準正には婚姻による準正と認知による準正の2種があるが,婚姻と認知のいずれが先になされてもかまわない(民法789条)。
執筆者:有地 亨
国際的次元でも,たとえば,A国人男とB国人女とが結婚して150日目に子が生まれた場合,その子は両人の嫡出子といえるかどうか,あるいはA国人男がその子を自分の子でないとして嫡出否認の訴えを起こしたとすればどうなるか,というような問題がある。これは,嫡出親子関係の成立に関する問題であり,その解決は国際私法によらねばならない。
この点,諸国の立法・判例上,属人法主義がひろく認められているが,日本の法例も親の本国法主義を採り,子の出生当時における夫婦の一方(子の側からみれば父または母)の本国法により嫡出であるときは,その子は嫡出子とすると定めている(17条1項)。このような父または母の本国法の選択的適用主義の採用は,子ができるだけ嫡出子たる身分を取得しやすいようにする子の利益保護の考慮によるものである。かような選択的適用を認める法例の規定について反致(〈国際私法〉の項目参照)の適用が問題となるが,肯定に解すべきであろう。法例の規定(32条)によれば,反致の適用を否定すべき理由がないと解されるからである。また,法例は,夫が子の出生前に死亡したときは,その死亡当時の夫の本国法を夫の本国法とみなすと定めている(17条2項)。夫婦が子の出生前に離婚した場合についての規定はないが,準拠法の基準時点は子の出生当時でなく父母の離婚当時と解すべきである。したがって,嫡出の推定に関する諸問題(前述[嫡出性付与の要件]の項参照)および嫡出否認の許容性ならびに否認権の行使に関する諸問題(前述[嫡出否認の手続]の項参照)は,子の出生当時における夫婦の一方の本国法によって定まる。夫婦すなわち父母の一方の本国法のみにより子が嫡出と推定される場合には,嫡出否認はその一方の本国法の定める要件を満たすだけで認められる。これに対し,父母の双方の本国法により子が嫡出の推定を受ける場合には,父母双方の本国法により,それぞれ嫡出性を否認できるのでなければ,嫡出否認を認めることができないと解すべきである。
準正の成立については,子の保護の観点から,できるだけ準正が成立しやすいように,準正の要件たる事実の完成の当時の父もしくは母または子の本国法の選択的適用が認められている(19条1項)。そして,準正の要件たる事実の完成前に父もしくは母または子が死亡した場合には,準拠法の基準時点をその死亡当時と定めている(19条2項)。準正の成立についても反致の適用が認められるものと解すべきである。なお,嫡出親子関係の成立の結果として親子が身分上ならびに財産上いかなる関係に立つかについては,法例の定める親子間の法律関係の準拠法による(21条)。詳細は〈親権〉の項を参照されたい。
執筆者:山田 鐐一
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法律上、婚姻している夫婦の間に生まれた子。
[山本正憲]
嫡出子には、生来の嫡出子と準正による嫡出子とがある。
生来の嫡出子とは、正式に婚姻している夫婦間に生まれた子をいう。子が懐胎されてから生まれるまでの間(妊娠期間)その父母(夫婦)の間にしばらくでも婚姻関係があればよいから、
(1)妻が婚姻後に懐胎しその婚姻中に生んだ子
(2)妻が婚姻前に懐胎し、やがて婚姻し、その婚姻中に生んだ子
(3)妻が婚姻後懐胎し、その後、夫の死亡、夫との離婚によって婚姻が解消しまたは婚姻が取り消されたのちに生んだ子
(4)妻が婚姻前に懐胎し、やがて婚姻し、ついでその婚姻が解消しまたは取り消されたのちに生んだ子
などもすべて嫡出子であると考えてよい。
このような嫡出子のうち、婚姻後200日後、または婚姻が解消しあるいは取り消された日の翌日から数えて300日以内に妻が生んだ子は、妻が婚姻中に懐胎したものと推定され(民法772条2項)、そのような子は夫の子と推定されるから(同法772条1項)、これを「推定された嫡出子」といい、これに該当しない子を「推定されない嫡出子」という。この区別は父子関係を否認する手続において大きな意味をもつ。もっとも、形式的には以上の要件を満たしていても、実質上夫の子でないことが明らかな場合は、例外的に、推定されない嫡出子(推定の及ばない嫡出子)とみるべきである。
準正による嫡出子には、嫡出でない子(婚外子)を認知して親子関係が確定されたのち父母が婚姻する場合と、父母が婚姻したのちに認知する場合とがある(同法789条1・2項)。
[山本正憲]
親子関係をめぐる法律は国によって異なり、それを統一することは宗教、文化などの違いによりほとんど不可能である。そこで、父、母そして子の本国や常居所地国が異なる国際的な家族においては、国際私法により、いずれの国の法律によって親子関係を規律するかを定めることによって、国際的な法秩序の安定を図ろうとしている。日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)では、嫡出親子関係の成立については第28条において準拠法を定め、成立した嫡出親子間の法律関係については第32条において準拠法を定めている。
「法の適用に関する通則法」第28条によれば、子の出生当時の夫婦のいずれか一方の本国法により嫡出子とされれば、その子は嫡出子とされる。これに従えば、たとえば、嫡出推定の期間に関して各国の法律は異なっているので、夫の本国法によれば嫡出子とはされないときであっても、妻の本国法によって嫡出子とされていれば、その子は夫との間でも嫡出子とされることになる。このような扱いが是認される理由は、夫婦という特別の関係を形成した者の間では、相手方の本国法による規律に従う結果となることは不合理とはいえず、また、こうすることによって子が嫡出子となる機会を増やすべきであるとの法政策があるからであるとされている。このような準拠法の定め方は、選択的連結とよばれる。なお、逆に、嫡出否認をするときには、夫婦の双方の本国法によってともに嫡出性が否定されなければならない。
嫡出子か否かは、戸籍のような公的記録簿の記載の問題だけではなく、相続分について嫡出子を非嫡出子よりも優遇している国もあることから意味をもつことになる。国際私法上、相続の準拠法は被相続人の本国法とされるところ(「法の適用に関する通則法」36条)、これは嫡出親子関係の成立に関する準拠法とは異なることがある。このため、相続準拠法の適用上の問題となる場合に嫡出子を決めるのは、第28条により定まる嫡出親子関係成立の準拠法によるか第36条により定まる相続準拠法によるかという問題が生ずる。これについて、相続準拠法上の概念の決定であるので、相続準拠法によるべきであるとする見解や、相続準拠法所属国の国際私法によって定まる準拠法によるべきであるとの見解もあるが、日本の判例および学説の多数は、嫡出親子関係の成立という問題が独立の単位法律関係として設定されている以上、前記のように相続という別の問題の判断過程で子の嫡出性の問題が生じようとも、あくまでも第28条によって定まる準拠法によるべきであるとしている。
なお、国によっては、嫡出と非嫡出との区別がない法律もあるが、「法の適用に関する通則法」第28条は夫婦から生まれた子であるか否かを決定する準拠法に関する規定であり、選択された法律上、非嫡出との区別がなければ、単なる親子関係の成立という効果が生ずることになる。そして、「法の適用に関する通則法」上の適用順序として、嫡出親子関係の成立に関する第28条は、非嫡出親子関係の成立に関する第29条よりも先に適用され、第29条は第28条により指定された法律上、嫡出親子関係がないとされた場合にのみ適用されることになる。
準正による嫡出子の身分の取得は、準正の要件である事実が完成した当時の父、母または子の本国法のいずれかで認められればよい(同法30条)。
成立した嫡出親子間の法律関係については、生存している父母の一方の本国と子の本国とが一致する場合にはこれにより、いずれとも一致しない場合には子の常居所地法によるとされている(同法32条)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
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…なお,相続権の語は,相続の開始によって確定的な権利となったのちも用いられることがある(たとえば,相続回復請求権。884条)ほか,広義では,配偶者や非嫡出子など一定の地位にある者が相続人となることができること一般を指すことばとしても用いられる(たとえば,配偶者相続権)。相続によって被相続人から相続人に移転すべき権利義務の総体を〈相続財産〉と呼ぶ。…
※「嫡出子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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