(読み)きゃく

精選版 日本国語大辞典 「客」の意味・読み・例文・類語

きゃく【客】

[1] 〘名〙
① その人の家、居所へたずねて来る人。また、招かれて来る人。まろうど。かく。
※虎明本狂言・連歌盗人(室町末‐近世初)「是はよひにきゃくがあった物じゃ」
代価を払って、品・労力などを求めに来る人。買い手、観客、乗客など。
※評判記・色道大鏡(1678)一「殿達 傾城・遣女、挙屋等より、客(キャク)をさしていふ詞なり」
③ 旅をしている人。また、自分の家を出て他人の家や宿に寄食している人。あるいは、旅行、寄寓することにもいう。〔和玉篇(15C後)〕〔曹植‐門有万里客詩〕
④ 自分の外にあって、自分と対立していること。主であるものに対すること。また、そのもの。客位に立つこと。また、そのもの。⇔主(しゅ)
※俳句問答(1896)〈正岡子規〉「月の題に大仏を詠み合せて大仏が主となり月が客となるともそれを捨てず」
⑤ 霊(たま)祭などで、祭の場に来る死霊・霊魂。
※雑俳・咲やこの花(1692)「俗にいふ客と名付て玉祭」
水死人をいう、船頭仲間の隠語。〔歌舞伎・鏡山錦栬葉(加賀騒動)(1879)〕
⑦ 月経をいう俗語
※雑俳・新編柳多留‐一六(1844)「客と云もの初めて知った初花
⑧ 「きゃくぶん(客分)②」の略。
※雑俳・川傍柳(1780‐83)二「客で御座候でおかれぬ腹になり」
[2] 〘接尾〙 接待用の道具、器物を数えるのに用いる。「吸物椀五客」

かく【客】

〘名〙
訪問者。また、買い手、観客など。きゃく。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「俄なるかくえものせられたなるを、あるじのことなどをいかにとなむ」
※歌謡・松の葉(1703)二・色香「泊(とまり)泊宿宿の窓にうたふ群女は、かくを留めて夫とす」 〔詩経‐小雅・楚茨〕
② 旅行する人。旅人。きゃく。
海道記(1223頃)蒲原より木瀬川「東行西行の客は皆知音にあらず」
③ 主に対する者の称。きゃく。「主客転倒す」
客分、また、書生、居候などとして世話になっている人。食客。きゃく。
※枕(10C終)一三六「孟嘗君のにはとりは、函谷関を開きて、三千のかくわづかに去れり」
社会百面相(1902)〈内田魯庵貧書生「牛飼君の客(カク)となるは将に大いに驥足を伸ぶべき道ぢゃ」

もうと まうと【客】

〘名〙 参り来る人。客人。まれびと。まろうど。
書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「客(マフト)は是れ、誰そ」

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デジタル大辞泉 「客」の意味・読み・例文・類語

きゃく【客】[漢字項目]

[音]キャク(呉) カク(漢) [訓]まろうど
学習漢字]3年
〈キャク〉
他人の家を訪れる人。招かれる人。「客人客間先客弔客珍客賓客来客
旅。旅人。「客死客舎
料金を払う利用者。「客車客席観客上客乗客船客浴客
本来のことではなく、一時的なこと。「客員客演
主体・主観に対して外部にあること。「客観客体
〈カク〉
1に同じ。「主客
2に同じ。「客死客舎過客孤客
3に同じ。「旅客
人。人士。「侠客きょうかく剣客刺客酒客政客俗客墨客論客
過ぎ去ったこと。「客歳客年客臘かくろう
[補説]とも「キャク」「カク」両用する場合も多い。
[名のり]ひと・まさ

きゃく【客】

[名]
訪ねてくる人。また、招かれてくる人。まろうど。「をもてなす」
料金を払って、物を買ったり、乗り物に乗ったりする人。顧客・乗客・観客など。「の入りが悪い」
旅人。また、止宿人。「不帰の
主体または自分と対立するもの。客体。
「月の題に大仏を詠み合せて大仏が主となり月が―となるとも」〈子規・俳句問答〉
(多く「お客さん」の形で)
㋐ある組織の中で、別格扱いされる人。
勝負事・商売などで、くみしやすい相手。
月経のこと。
[接尾]助数詞。接待用の道具・器物を数えるのに用いる。「吸物わん
[類語](1客人来客訪客来訪者・訪問者・賓客来賓まろうどゲスト先客珍客弔客/(2顧客花客得意クライアント乗客旅客観客観衆聴衆お客様一見

まろうど〔まらうど〕【客/賓/人】

《「まらひと」の音変化。古くは「まろうと」》訪ねて来た人。きゃく。きゃくじん。
観兵の間に設けたる夕餉に急ぐ―、群立ちてここを過ぎぬ」〈鴎外・文づかひ〉
[類語]客人来客訪客・来訪者・訪問者・賓客来賓ゲスト先客珍客弔客

まれ‐びと【客/賓/人】

《まれに来る人の意》
民俗学で、異郷から来訪する神をいう。人々の歓待を受けて帰ると考えられた。折口信夫の用語。
まろうど」に同じ。
「―の饗応なども」〈徒然・二三一〉

かく【客】

「きゃく」の文語的表現。訪問者・買い手・旅人などのこと。
「牛飼君の―となるは将に大いに驥足きそくを伸ぶべき道じゃ」〈魯庵社会百面相
主となるものに対し従となるもの。「主転倒」

まら‐ひと【客/賓】

《「まら」は「まれ(稀)」の交替形》「まろうど」に同じ。
「薬師は常のもあれど―の今の薬師貴かりけりだしかりけり」〈仏足石歌

かく【客/脚】[漢字項目]

〈客〉⇒きゃく
〈脚〉⇒きゃく

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改訂新版 世界大百科事典 「客」の意味・わかりやすい解説

客 (きゃく)

中国では家族・同族・同郷・同国以外の人や来訪者,臨時の寄留者を客,賓,賓客といい,客が主人と面会するときや主人がもてなすときの礼式は五礼の中の〈賓礼〉と呼ばれて重視される。天子は諸侯を賓礼によって遇し,賓客は礼遇すべきものと観念される。しかし春秋戦国の変動期以後,主家に寄食する〈食客〉がふえると,賓客に対する処遇にも格差が生じ,またその中に〈俠客〉の要素も加わって,やがて客や賓客が居候・とりまきの意味を帯びてくる。さらに主家に傭われて働く〈傭客〉,土地を失って豪族や地主の小作人となる〈田(佃)客〉や〈荘客〉,はては衣食を支給される代りに労働の成果をすべて主家に取られる〈衣食客〉まで現れる。唐代には奴婢の上の上級賤民の女性を〈客女〉と呼び,均田制崩壊後には土地をもたぬ小作人や商人の家は〈客戸〉と呼ばれる。客はこのような低い身分のものも指すが,一方でその原義も失われない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【賤民】より

…奴婢はいわゆる奴隷であるが,部曲は奴隷と良民の中間にあり,農奴serfに近い存在であった。すなわち,奴婢は本来家内奴隷として発生し,生産労働にはほとんど従事しなかったが,前漢末から後漢時代にかけて大土地所有が発達すると,その耕作者として,荘園主の保護下におかれる隷民が生まれ,客あるいは部曲と呼ばれるようになったのである。客とは外来者,または一時寄留者の意であり,部曲はもと軍隊用語で,部隊の意であるが,後漢末ころから,荘園の客の一群を指すのに用いられるようになった。…

【もてなし】より

…客人に飲食や宿舎を与えてもてなす風習はほとんどあらゆる社会にみられるが,国家の権威が人心にいまだ十分浸透していない段階では,こうしたもてなしは,近代社会における場合とは比較にならぬほど大きな意義をもっている。 まず,そのような社会では,訪れる客のもてなしは個人の自由裁量にゆだねられるものではなく,一般に家や親族集団を単位として行われる社会的義務とみなされている。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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