→「かざす(挿頭)」の語誌
神事や饗宴のときなど冠の巾子(こじ)にさす造花の飾りをいう。古く男女が自然植物の花や枝葉をめで,これを頭髪にさして飾りとした風習があったが,のち中国から伝わった冠の飾りにつけた髻華(うず)と習合して,ながく年中行事のうちの一部にこの風習が伝えられた。そのおもなものは大嘗会(だいじようえ),賀茂や石清水の臨時祭(使いや舞人,陪従など),政治的な行事では列見や定考(こうじよう)のとき,また踏歌節会(とうかのせちえ)のときなどで,さす花にはフジ,サクラ,ヤマブキ,リンドウ,キク,ササ,カツラなどがあった。これらは,さす人や行事によって種類がちがい,フジの花は大嘗会のとき天皇および祭使が,また列見のとき大臣などが巾子の左にさす。サクラの花は列見のとき納言,祭りの舞人などが巾子の右にさす。ヤマブキは列見の日に参議が,試楽の日に陪従がさし,8月の定考には大臣は白ギク,納言は黄ギク,参議はリンドウである。それ以下の人々は時の花を用いた。また踏歌節会には綿花(わたはな)を冠の額に立てる風習があった。挿頭は以上のように神事や饗宴のときに用いられる一つの飾物であるが,また賜物としても用いられている。仁明天皇四十算賀の賜物の中の一つに,沈香で山を造り,これに純金のツルの形を配し,そのくちばしに挿頭をくわえさせたことが《続日本後紀》にみえている。
執筆者:日野西 資孝
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…1773年(安永2)成稿,78年刊(活版本として松尾捨治郎の校注本,国語学大系本がある)。成章は,いっさいの単語を名(体言),装(よそい)(用言),挿頭(かざし)(副詞・接頭語の類),脚結(あゆい)(助詞・助動詞・接尾語の類)の4種に分類したが,本書は,《挿頭抄》(1767),《装抄》(伝わらない)に対して,脚結を5種50類にわけ,その一々の語について,接続,意味用法,時代的変化,証歌を注したもの。語と証歌には口語訳がそえてある。…
…これらは主として意味上の区別であるが,〈ことば〉や〈用の言〉について,語形変化の性質が意識されていなかったとはいえない。江戸時代に初めて秩序だった分類を示したのは富士谷成章(ふじたになりあきら)で,〈名,挿頭(かざし),装(よそい),脚結(あゆい)〉の4種とし,すべての語をその中に収めようとした。〈脚結〉(《《あゆひ抄》》の項も参照)は助辞,〈装〉は用言,〈挿頭〉は修飾格に立つ諸種の語や接続詞,感動詞,事物代名詞などを含み,〈挿頭〉が最も雑多であるが,主用語である体言,用言のほかに,それらに対する副用語の一類を立てた点は重要である。…
…古代においては,先のとがった1本の細い棒に呪力が宿ると信じられ,髪刺も,髪に1本の細い棒を挿すことによって魔を払うことができると考えられていた。一方,《日本書紀》や《万葉集》などにみえる挿頭(かざし)は,神事や朝廷の節会(せちえ)に公卿宮人の冠に花枝を挿すことが行われ,これが民間の祭事などにも流行し,一般の節会の習慣になっている。挿頭も語源としては髪刺と同じであると考えられる。…
※「挿頭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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