高気圧の中で,その成因が大気下層の低温化,つまり密度増加にあると考えられるものを指す。この低温度のゆえに,高気圧としての形態は高さとともにうすれて,3km以上では認めにくくなる。寒冷高気圧に属するもの,一部それに近いものは次のようである。(1)内陸地方の夜間の放射冷却,冷たい海面や氷面上での冷却,雷雨の際の雨滴の蒸発による下層大気の冷却でできる水平規模の小さい寒冷高気圧。この種のものは寿命が短くて,移動もごく小範囲に限られる。(2)温帯低気圧の後面に現れる移動性高気圧。これは相対的に寒冷な気塊からなり,寒冷高気圧に属するが,同時に上層の波動状の気流と組織化されていて,上層で集積,下層で発散する循環を維持する力学的構造も備えている。水平規模も寿命も(1)に比べずっと大きい。(3)移動性高気圧よりはるかに大きく,その位置は半球的な地勢・海陸分布に関係する移動のおそい高気圧。例えば冬のモンゴルの高気圧,夏のオホーツク海の高気圧は,その下層にのみ注目すれば,各季節の低温域にあって密度増によると見られる。しかし,強い放射冷却や低温度の海面上に高気圧を持続させるのは,大規模な準停滞性の偏西風波動に伴う上空の質量集積で,力学的成因にも負っている。移動性高気圧は上空ではその形態が認めにくいが,この停滞性の高気圧の西半分と南半分は高さ5km以上で偏西風の大きな気圧の峰に接続している。
→高気圧
執筆者:斎藤 直輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある同じ高度面(通常は海面高度面すなわち地表)で、周囲より気温の低い高気圧。寒冷高気圧の域内では、かなりの高さまで周囲に比べて寒冷であり、成層圏で初めて周囲より温暖になる場合が多い。上空のある面の気圧は、地表から、その面までの大気の重量分を地表の気圧から差し引いた値に等しい。そして大気の寒冷部分は、等圧の場合、温暖部分より重いので、上空に向かっての気圧の減り方は、寒冷部分のほうが温暖部分より大きい。したがって、寒冷高気圧の域内では、上空へいくほど気圧は著しく減少し、周囲との気圧の差が小さくなり、通常、3キロメートルより上では、低気圧または気圧の谷になってしまう。この意味で、寒冷高気圧は「背の低い高気圧」である。シベリア高気圧や移動性高気圧のとくに東半分は寒冷高気圧である。
[倉嶋 厚]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…それには夜間の放射冷却,冷たい海面や氷面に接して下から冷却される,落下する雨滴の蒸発に潜熱を奪われて空気が冷える,あるいは寒冷な気塊の流入などの過程がある。この重い空気の形成あるいは蓄積が主因になっている高気圧は下層が寒冷なので寒冷高気圧と呼ばれる。低温な気層の中では高さによる気圧の減少率が大きいので,周囲よりも気圧が高い状態は上空で失われる。…
※「寒冷高気圧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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