同一高度面で、周囲に比べて気圧の高い区域を高気圧、低い区域を低気圧という。この場合の気圧の高低は相対的なものであるから、何ヘクトパスカル以上が高気圧、以下が低気圧という定めはない。周囲の状況により、中心気圧が1020ヘクトパスカルの低気圧もあれば、1010ヘクトパスカルの高気圧もありうる。これは、たとえば同じ800メートルの高さが関東平野では山になり、アルプス山中では谷や盆地になるのに似ている。
天気図上では高気圧は何本もの閉じたほぼ楕円(だえん)形の等圧線に囲まれており、内側の等圧線ほど示度が高くなっている。高気圧域内の空気は、その等圧線を横切って中心部から周囲に向かい時計回りに渦を巻きながら吹き出す。このため中心部の地表付近では空気量の減少がおこり、それを補うように下降気流が生じる。この下降気流により、高気圧域内では雲は形成されにくく、すでにできていた雲も消散して、一般に晴天が卓越する。高気圧の上空では下降気流を補うように周囲から空気が吹き込むなど、空気量の増大がおこっている。この空気量の増大は、冷たく重い空気層が域内で形成されたり、域内に移動してくることによっても行われる。そして、そのような空気量の増大が、下層の空気量の減少を上回ると、域内の下層の気圧が高くなって高気圧は発達し、逆ならば衰弱する。通常、高気圧という場合は、単に形式的な気圧分布をさすのではなく、前述のような風系と、その維持機構や天気分布などの全体像をさすことが多い。
低気圧に比べると高気圧域内では気圧傾度が緩く、とくに中心近くでは風が弱く風向は不定で、高気圧としての風系の特徴(時計回りの渦巻状の吹き出し)は、周辺部の風の分布によく現れている。
[倉嶋 厚・青木 孝]
高気圧は構造や動きなどによって、次のように、さまざまに分類される。
(1)温暖高気圧と寒冷高気圧 高気圧域内の気温が周囲よりも高い高気圧を温暖高気圧、周囲よりも低いものを寒冷高気圧という。
(2)背の高い高気圧と背の低い高気圧 上空へいくほど高気圧の形が明瞭(めいりょう)になり、対流圏の中部より上空(5~10キロメートルまたはそれ以上)でも高気圧であるような場合、これを「背の高い高気圧」という。逆に、上空へいくほど高気圧の形が不明瞭になり、ある高さ(通常約3キロメートル)以上になると低気圧や気圧の谷になってしまう高気圧を「背の低い高気圧」という。一般に温暖高気圧は「背の高い高気圧」、寒冷高気圧は「背の低い高気圧」である。温暖高気圧では、地上気圧の増大をおこす機構は対流圏上部にあり、温暖部分は下降気流によって形成される。一方、寒冷高気圧においては、地上気圧の増大は、地表から3キロメートルぐらいの厚さの寒冷気団の重さによって維持されている、とみなすことができる。
(3)移動性高気圧と停滞性高気圧 ほぼ同じ方向に比較的規則正しく動くものを移動性高気圧といい、これに対し、ほぼ同じ地域を数日から数週間にわたって覆うものを停滞性高気圧または定常高気圧という。移動性高気圧は、上空の偏西風波動とともに中緯度帯を東進するものが多く、その東半分の上空には偏西風波動の気圧の谷が存在し、したがって背の低い寒冷高気圧型の構造をもっている。一方、西半分の上空には偏西風波動の気圧の尾根があり、背の高い温暖高気圧型の構造となっている。移動性高気圧は先行および後続の低気圧とともに、 にモデル的に示すような天気分布をつくりだすことが多い。この図からわかるように、移動性高気圧が、ある地点に対して南偏して通るときは(A地点の場合)、その地点では晴天期間が長いのに対し、北偏して通るときは(B地点の場合)、その地点の晴天は長続きせず、すぐに曇天または雨天域に入ってしまう。移動性高気圧の前半分(とくに北東部分)では、寒気団が流入しているうえに、晴天で夜間の放射冷却が強まるため、春や秋には、農作物に晩霜(おそじも)や早霜(はやじも)の害がおこりやすい。また移動性高気圧の後面の薄曇りの部分では、「日がさ」「月がさ」が現れたり、春の風景に特有といわれる「おぼろ月」になったりする。そして、 のような天気分布が全体として東へ移動するので、天気変化に周期性が現れる。
停滞性高気圧の代表としては亜熱帯高気圧(小笠原高気圧(おがさわらこうきあつ)など)をあげることができる( )。これは亜熱帯と赤道方面との間の大気大循環によって形成される背の高い温暖高気圧である。シベリア高気圧で代表される大陸高気圧もまた停滞性高気圧である( )。これは海陸分布や大地形(チベット・ヒマラヤ山塊、ロッキー山脈など)の影響によって上空の偏西風帯に現れる停滞性の波長の長い偏西風波動と、寒候期の大陸の地面の放射冷却によってつくられる寒気団とによって、大陸上に形成される大きな高気圧で、構造的には、その東半分が背の低い寒冷高気圧、西半分が背の高い、相対的に温暖な高気圧になっている。停滞性の高気圧圏内では、大気は比較的長期間、大陸または海洋に接しているため、性質が広範囲にわたってほぼ一様になり、気団が形成される。また、停滞性の高気圧圏内では、風が弱い晴天の日が続き、地表面付近の大気が滞留し、地表面近くに気温の逆転層ができて拡散現象が弱まるため、汚染源のある地域では、大気汚染が深刻化することがある。
(4)ブロッキング高気圧 上空の偏西風波動が停滞性となり、その振幅が大きくなって、波が不安定化すると、北に偏西風の帯から切り離された温暖な切離高気圧、南に寒冷な切離低気圧が形成される( )。このような場合には、上空の切離高気圧の下にある地上の高気圧も、著しく停滞性となり、後続する移動性の高気圧や低気圧の動きを止めてしまう。その結果、晴天の所では、それが長続きして、ときには干魃(かんばつ)になり、逆に雨天の所は長雨となり、さらに南北の気団が大規模に入り乱れるため、異常寒波や異常熱波がおこることが多い。このような現象をブロッキングといい、上空の切離高気圧や、その下の地上高気圧をブロッキング高気圧とよぶ。ブロッキング高気圧は背の高い温暖型の停滞性高気圧である。梅雨期によく現れるオホーツク海高気圧は、その上空が、振幅を増大して停滞性となった偏西風波動の気圧の尾根または切離高気圧となっていることが多く、ブロッキング高気圧の性格が強い。
(5)チベット高気圧 チベット高原上の対流圏上部(8~15キロメートル)に夏季に現れる高気圧を、とくにチベット高気圧という。これはチベット・ヒマラヤ山塊が、夏季、強い日射により熱せられて、上空の空気を暖めることによって形成される。熱せられた気柱は上方に伸張する。そして上空の特定の高度面について考えると、気柱が上方に伸張した区域では、その面より上の大気の全重量が増大することになる。そのときの増加分が、その面のその区域に高気圧を形成するのである。チベット高気圧の消長は、日本の梅雨、夏の干魃、冷害、東南アジアの雨期の形成などに深い関係があると考えられている。
(6)局地高気圧 内陸部の盆地では、夜間、放射冷却によって形成された寒気がたまるため、盆地内の気圧が周囲より高くなり、小さな局地的高気圧ができる。日中は逆に、盆地内の空気がとくに暖められるので、局地的低気圧に変わることが多い。
(7)雷雨高気圧 雷雲の下に形成される寒気の重さによってできる局地的高気圧。雷雲の通過前後に感じる涼風は、この高気圧から吹き出してくる。雷雲の通過した地点の気圧曲線に現れる「雷雨の鼻」とよばれる突起は、雷雨高気圧の通過を示すものである。
[倉嶋 厚・青木 孝]
『福地章著『海洋気象講座』(1994・成山堂書店)』▽『丸山健人・水野量・村松照男著『新版地学教育講座14 大気とその運動』(1995・東海大学出版会)』▽『福谷恒男著『海洋気象のABC』(1997・成山堂書店)』▽『白木正規著『百万人の天気教室』(2007・成山堂書店)』
気圧分布を描くと,周囲よりも気圧の高い領域がいくつか現れる。これらは高圧域と総称される。高気圧と呼ぶものは,次のようにより限定されたものを指す。閉じた等圧線でかこまれ,中心ほど気圧が高い領域では下層大気の気流が周囲に向かって流れ出す。この気流はコリオリの力を受けるので,北半球では時計回り,南半球では反時計回りの循環をもつ風系ができる。このようなある大きさの組織的な構造が2日から10日以上持続するものが高気圧である。高気圧は,(1)停滞性のもの,(2)移動性のもの(移動性高気圧),(3)局所的なもの,の3種に分けられる。高気圧の名のごとく気圧の高い状態を維持する機構は二つある。第1は下層大気内で低温化がおこり密度を大きくする。それには夜間の放射冷却,冷たい海面や氷面に接して下から冷却される,落下する雨滴の蒸発に潜熱を奪われて空気が冷える,あるいは寒冷な気塊の流入などの過程がある。この重い空気の形成あるいは蓄積が主因になっている高気圧は下層が寒冷なので寒冷高気圧と呼ばれる。低温な気層の中では高さによる気圧の減少率が大きいので,周囲よりも気圧が高い状態は上空で失われる。ほとんどの場合,3km以上では高気圧としては認められず,むしろ周囲に比べて気圧は低くなる。第2の機構は力学的なもので,上空で気流が収束して高気圧から流れ出す気流を補っている。上層大気の中で大きく南北にゆれる波動があると,波の峰(気圧が高く北方にせり出している部分)から波の谷(気圧が低く南方へ下がっている部分)の間に気流の収束があり,この質量集積は下降運動と地表の気圧上昇を招く。さらに地球的な大気大循環として赤道地帯で上昇した空気は,上空で北方へ(南半球では南方へ)移動して北緯30°(南緯30°)付近で集積し,ここでも沈降流と地表の気圧増加をもたらす。沈降する気流は断熱圧縮で昇温するので,力学的機構は高気圧の上空を周囲より暖かくする作用があり,温暖高気圧とも呼ばれる状態をつくる。暖かい気層内では高さによる気圧の減少率が小さく,温暖高気圧は上空でも気圧の高い状態を維持している。
先にあげた3種の高気圧のうち,停滞性のもの,移動性のものは,熱的・力学的機構が共に働いている。局所的なものは熱的機構でできるので,下層大気を冷やす作用がなくなればこの高気圧は消滅する。その寿命は一般に短く,水平の大きさも移動も小さい。夜間の放射冷却で内陸地方に冷気がたまってできたものは地形性高気圧とも呼ばれる。移動性高気圧と呼ばれるものは上空の波動に対応する組織で,温帯低気圧の後面に現れる。この高気圧は,前半部は北方からの寒冷な空気から成り,その上に上空の空気が沈降しつつ重なっている。移動性高気圧の後半部は相対的に温暖な空気から成り,上空の波動の峰の部分に接続している(図)。大きさは,半径にして1000~1500kmのものが多い。停滞性のものはいちばん規模が大きい。これは大規模な地形と海陸分布に対応してできる上空の西風の中の停滞性波動に伴う高気圧である。その下層が大陸上の放射冷却で低温度の空気から成るものがある。大陸高気圧と呼ばれる冬のシベリア高気圧や北アメリカ大陸の高気圧がそれである。ここでも地形の効果があって,崑崙,祁連山脈がシベリアでつくられる寒気の南下を阻止するので,シベリア高気圧は南側に障壁のない北アメリカ大陸の高気圧に比べて強大になる。これらの高気圧も上空は沈降する暖かい気流におおわれている。
先にあげた大循環でおこる緯度30°付近の地球的な沈降流と停滞性の西風の波動の峰の部分が接続して亜熱帯をとりまく高気圧帯ができる。北太平洋高気圧,アゾレス高気圧はその一部である。海面上の気温の季節変化は大陸に比べて小さいので,年間持続してこの海上の大高気圧ができている。亜熱帯高気圧にも地上2~3kmのところに沈降性の高温で乾燥した気層が現れる。これは貿易風帯の逆転層(温度の鉛直分布がここで逆になるので)とも呼ばれている。こうして力学的機構でできる高気圧の下では,一般に雨が少なく乾燥した気候がもたらされる。世界の乾燥地域はこの亜熱帯の高圧帯と関係が深い。力学的機構によるもう一つの特殊な現象としてブロッキング高気圧がある。
執筆者:斎藤 直輔
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(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
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