寺社本所領(読み)じしゃほんじょりょう

改訂新版 世界大百科事典 「寺社本所領」の意味・わかりやすい解説

寺社本所領 (じしゃほんじょりょう)

南北朝期になって室町幕府により使用され定着する法律用語武家領に対置される寺社領本所領荘園国衙領を指す。この場合の本所領は具体的には天皇家・摂関家等の公家領のことであるが,本来は寺社領をも包含して使用された用語である。鎌倉幕府法の用例をみても,鎌倉中期までは〈地頭御家人幷本所領家一円地の住人等〉とあるように,本所領家一円地の中には当然寺社領が含まれていると考えられる。この用法が変化し,本所領と寺社領を区別するようになるのは,1288年(正応1)の幕府法に〈地頭御家人幷寺社領本所一円地輩〉とみえるころからであり,以後,建武新政府の法においても,室町幕府法においても区別される。さて,当初室町幕府法では〈寺社幷本所武家輩所領〉という用法にみられるように,荘園・国衙領は寺社領・本所領・武家領の用語でとらえられている。このうち寺社領・本所領に対して守護や地頭御家人による侵略が激しくなると,幕府はその動きに規制を加える法令を出すが,1351年(正平6・観応2)以降の法令では〈寺社本所領〉という用語が使用され,ここに武家領に対置される〈寺社本所領〉という用語が確立する。68年(正平23・応安1)の半済令では,寺社本所領のうち〈寺社一円仏神領〉〈禁裏・仙洞御料所〉〈殿下渡領〉はとくに保護され,半済が免除される。これに対し,他の本所領や領家職が介在する非一円的な寺社領は半済が適用される。このように幕府が寺社本所領を保護するといっても,その対象の性格によって軽重が見られる。幕府による寺社本所領に対する保護法令にもかかわらず,一部の直務支配を行っている一円的な荘園を除いて,他の多くの荘園からの年貢収納はしだいに困難になる。とくに応仁の乱(1467-77)以降,幕府権力が衰退すると,一部の畿内の膝下荘園を残して,他のほとんどの寺社本所領は実体を失ってしまう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「寺社本所領」の意味・わかりやすい解説

寺社本所領
じしゃほんじょりょう

南北朝期から室町期において、寺社または本所を領主とする荘園・公領のこと。南北朝時代以降の室町幕府法には武家領に対置する用語として「寺社本所領」が多くみられるようになる。これは守護や地頭御家人による荘園侵略が激しくなるなかで寺社領や公家(くげ)領を保護しようとする動きとかかわっている。半済(はんぜい)施行に際して禁裏(きんり)御料、仙洞御料所(せんとうごりょうしょ)や殿下渡領(でんかのわたりりょう)、寺社一円仏神領(じしゃいちえんぶっしんりょう)等が免除を受けたのに対して、他の本所領や非一円的な寺社領には半済が施行されており、寺社本所領の保護といっても対象によって軽重があった。応仁・文明の乱以降、畿内(きない)の膝下(しっか)荘園はなお温存されたが、ほとんどの寺社本所領荘園は姿を消していった。

[福田榮次郎]

『永原慶二著『日本中世社会構造の研究』(1973・岩波書店)』『島田次郎著『日本中世の領主制と村落 上』(1985・吉川弘文館)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「寺社本所領」の解説

寺社本所領
じしゃほんじょりょう

南北朝期以後,武家領に対して寺社領および本所領(公家領)の荘園や公領をさす。とくに幕府法の用語として用いられた。守護や地頭による荘園侵略が激しくなると,幕府はしばしばこれを制止する法令を出し,寺社本所領を保護した。ことに他者の所職が存在しない寺社一円領や殿下渡領(でんかのわたりりょう)は手厚く保護され,1368年(応安元・正平23)の半済(はんぜい)令でも適用が除外された。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

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