最新 心理学事典 「対人不安」の解説
たいじんふあん
対人不安
social anxiety
【状態としての対人不安】 状態としての対人不安は,次の二つのカテゴリーに大別できる。一方は人前での失態や他者への迷惑など,社会的苦境social predicament状況に立たされた場合での恥shameや羞恥embarrassmentである。他方は,単に他者との対面状況での不安,たとえば大勢の人前でのあがりaudience anxietyや初対面の人への気後れshyなどである。前者は自己の社会評価や尊厳に対する明確な脅威への反応であるのに対して,後者はそうした脅威にさらされるかもしれないという予期的反応と位置づけられる。状態としての対人不安は自己が社会的に受容されている程度の指標,すなわちソシオメータsociometerの一つと考えられるが,こうした視点から,前者の不安は社会的自己への「赤信号」,後者の不安は〝赤信号への警戒〞という意味で「黄色信号」にたとえることができる。
【特性としての対人不安】 内気shyness,コミュニケーション懸念communication apprehensionなど多様な概念があるが,対人場面で,あるいは対人場面を想像することによって不安感が高まるとともに,社会的行動が抑制される傾向を指す。また,こうした特性が,学校や職場,公衆場面などへの適応に重大な支障をもたらすとき,精神医学の視点からは社会不安障害social anxiety disorder(SAD)と診断される。なお,日本の精神医学においては,社会不安障害に当たる概念として対人恐怖症anthropophobia,taijin kyofusho symptomが使われてきた。これらは,「自己の視線が他者を困惑させる(自己視線恐怖)」「自分の臭いが他者を不快にさせる(自己臭恐怖)」など,自己の特異性が他者をなんらかの形で害するという思い込みを伴っていることから,社会不安障害の文化的亜型として位置づけられている。
対人不安の原因として,自尊感情self-esteemの低さや社会的スキルsocial skillの欠如が指摘されているが,これらは自己呈示モデルにおける「適切な印象管理に成功する主観的確率」の低下要因となる。また,クラークClark,D.M.とウェルズWells,A.(1995)は,社会不安障害の認知行動モデルとして不適切な信念の存在を指摘している。それが,「社会的遂行行動の過度な基準」「社会的評価に関する条件づけられた信念」「自分自身に関する無条件の信念」である。すなわち,「他者に弱点を見せてはならない」と思って完全な自分を演出しようとし,「自分が少しでもミスをすれば,他者は自分を責めるだろう」などと自己の行動と社会的評価との関係を過剰に意識するが,「自分はだめな人間だ」と自尊感情を低く感じている。結果として,対人場面では他者から否定的評価を受けていると思い込み,不安反応を高めるという。 →自尊感情 →シャイネス →不安 →不安関連障害
〔菅原 健介〕
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