一般には、君主や独裁者などの個人、あるいは一階級、一政党、軍部などの幹部からなる小集団が、自分たちの意志にのみ基づき政治を支配する方式。民主主義、議会主義、法の支配などと対立する語。したがってこの専制主義は、近代国家の成立と民主政治の発展によってしだいに否定され清算されていった。「政治の世界」においては、ときに、1人の個人あるいは少数の集団に権力を集中して政治的共同体の安全を保持する必要もある。たとえば、戦時期には、イギリス・アメリカ・フランスのような民主主義国家でも「戦時挙国内閣」を組閣して、一時期、権力を集中する。しかし、この形態は、戦争が終結し平和な状態に戻れば、ふたたび元の議会制民主主義に基づく政治に復帰するから専制主義とは異なる。また市民革命や社会主義革命の時期には、クロムウェル独裁、ジャコバン独裁、プロレタリア独裁というような革命政権に一時期、権力が集中され、新しい政治体制の建設・確立が図られる。そして革命が成功するめどがつくと、憲法を制定し、議会制度や社会主義型政治制度(最高会議(ソビエト)、全国人民代表大会など)が設けられる。したがって、革命期の独裁政権も専制主義とは異なる。
ところで、「専制」と「独裁」という概念を巧みに使い分けて、議会制民主主義を批判して権力集中を図る論理を創出し、事実上、専制主義を是認する政治理論を提起したのがワイマール共和国時代のC・シュミットである(『独裁』1921)。彼は、専制とは暴君ネロや絶対君主の政治のことだと述べ、独裁はそれらの政治とは異なる、なぜなら独裁はローマ共和制の危機を救うために用いられた政治方式だからだ、として次のように説明している。ローマ時代、共和国が危機に陥ると、ローマの元老院(議会)は、1人あるいは複数の独裁官を任命し、彼らに数か月間の期限をつけて全権を委任し危機回避にあたらせる、そして平和と安全が回復されると再び元老院政治に戻るので、独裁は共和国にとってきわめて有益なものであった、というわけである。このように述べることによって、シュミットは、第一次世界大戦後、未曽有(みぞう)の混乱期にあったワイマール共和国において、大統領に権力を集中させ、「強いドイツ」を復興しようともくろんだのであった。しかし、この考え方の根底には、もっと深いものがあった。それは、ロシアに登場した社会主義政権に対する恐怖感であった。彼によれば、労働者階級が急速に台頭してきた時代においては、もはや議会政治によっては対抗できない、ますます激化する階級闘争や急進化する労働運動・社会主義運動を抑え込むには1人の人間に権力を集中させる独裁体制以外に妙案はない、というものであった。こうしてシュミットは、専制主義を否定するようなポーズをとりながら、実は大統領独裁論を提起することによって、結局はヒトラー独裁への道を切り開いたのである。
さて、今日における専制主義をめぐる問題としては、一つは、第三世界にみられる軍部を背景にもつ各種独裁政権の問題、もう一つは、資本主義諸国の指導者たちのなかで、社会主義諸国の政治体制を一方的に専制主義として非難し、それを敵視し、軍事化をますます強化している反動的傾向である。
[田中 浩]
『C・シュミット著、田中浩・原田武雄訳『独裁』(1991・未来社)』▽『田中浩著『カール・シュミット』(1992・未来社)』
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