なんらかの方法で末梢(まっしょう)神経の刺激伝導を可逆的に遮断し、その神経の支配領域の麻酔効果を得る方法である。物理的に神経を圧迫したり、針による電気刺激を加えたり、あるいは冷却する方法(冷凍麻酔)もあるが、局所麻酔薬を用いるのがもっとも一般的である。局所麻酔薬はおもに神経に注射するが、血流を遮断した四肢の静脈内に入れて、その部分を麻酔することもある(静脈内局所麻酔)。
局所麻酔薬には、プロカイン、テトラカイン、ジブカイン、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、クロロプロカイン、ロピバカインなどが市販されており、それぞれ一長一短がある。いずれにしても、組織浸透性があり、効果の発現が速く、十分な麻酔力と持続時間をもち、かつ、その作用は可逆的で神経に障害を残さないもの、全身への毒性が少ないものがよい。
局所麻酔の種類としては、脊椎(せきつい)麻酔(正式には、脊髄(せきずい)くも膜下麻酔とよばれる)、硬膜外麻酔、神経ブロック、浸潤麻酔、および表面麻酔があり、特別なものとしては静脈内局所麻酔がある。局所麻酔の利点としては、(1)実施が簡単である、(2)意識があるので患者の協力が得られる、(3)生体に対する影響が少ない、などがある。その反面、欠点としては、(1)患者に不安を与える、(2)神経ブロックなどは熟練した手技を要する、(3)作用時間に制限がある、(4)局所麻酔薬による中毒をおこす可能性がある、などがあげられる。
[山村秀夫・山田芳嗣]
意識があるまま,痛覚を伝導する末梢神経の一部を可逆的に遮断し,神経支配領域を麻酔することを広義の局所麻酔,あるいは伝達麻酔という。一方,麻酔薬を手術部位そのものに注射浸潤させる局所浸潤麻酔や,麻酔薬を皮膚や粘膜の表面に塗布する表面麻酔は,一般に狭義の局所麻酔と呼ばれている。伝達麻酔は末梢神経の走行あるいは神経叢に直接局所麻酔薬を注射してその支配領域を麻酔するもので,神経遮断(神経ブロック)とも呼ばれる。脊髄腔に局所麻酔薬を注入し,脊髄神経根部を麻痺させる脊椎麻酔や腕神経叢ブロックによる上肢の麻酔は,よい例である。局所麻酔の作用は可逆性であり,毒性が低く,全身性にも副作用がないことが条件である。現在用いられている局所麻酔薬はエステル型(プロカイン),アミド型(リドカイン)がある。局所麻酔薬が麻酔作用を起こす本態については諸説があるが,神経細胞の物理化学的変化によるといわれている。麻酔薬は神経の太さに応じた濃度で用いる必要がある。血中濃度が一定以上になると中毒作用を呈する。
→麻酔
執筆者:田中 亮
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…薬の作用により体の一部あるいは全身の知覚と運動機能を一時的に消失させ,手術のような体に侵害を加える際の痛みや精神的苦痛を取り除くことをいう。薬の作用が局所に限られるものを局所麻酔と呼び,全身的に作用するものを全身麻酔と呼ぶ。全身麻酔は通常意識消失を伴う。…
※「局所麻酔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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