山中平九郎 (やまなかへいくろう)
歌舞伎俳優。元禄期(1688-1704)江戸の実悪の名優山中平九郎に始まり3世まであるが,初世が最も著名。(1)初世(1642-1724・寛永19-享保9) 俳名仙家。若いころは実事をもっぱらとし,さほどの評判はなかったが,元禄初年に時平大臣,ひがみの王子などの公家悪(くげあく)に名をあげ,1700年(元禄13)には江戸実悪の開山と賞されて,以来,没する前年まで実悪巻頭の地位にあった。《曾我》の工藤祐経が一方の当り役であるが,その本分は公家悪にあり,江戸歌舞伎の荒事の悪の表現は平九郎によって様式として成立をみたといえる。また怨霊事を得意とし,鬼女の演出に工夫した隈取(くまどり)を自宅でためしたところ,妻女が見ておそろしさに失神したという逸話があり,彼の創始した般若の隈は〈平九郎隈〉の名で今日に伝わる。(2)2世 生没年不詳。初世の門弟で,1730年(享保15)11月平九郎を襲名。実事を主としたが,一時市村座の頭取をつとめる。(3)3世 生没年不詳。4世沢村長十郎の門弟。宝暦(1751-64)末ごろから敵役として舞台をつとめ,1781年(天明1)11月平九郎を襲名。91年(寛政3)市村座の頭取を兼ね,94年山中仙雫と改めて頭取専業となる。
執筆者:佐藤 恵里
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
山中平九郎(初代)
没年:享保9.5.15(1724.7.5)
生年:寛永19(1642)
江戸前・中期の歌舞伎役者。俳名仙家。初名鈴木平九郎。元禄2(1689)年江戸中村座で演じた時平大臣の大評判をはじめ「参会名古屋」の正親町太宰之丞などの公家悪に定評を得て,「実悪の開山」と称されるに至った。以後,上方の藤川武左衛門,片岡仁左衛門と並び称される江戸実悪の第一人者として活躍しつづけた。落ち着いた仕打ちのこまかな芸風で,もっとも得意とする公家悪,怨霊事のほか,実事,敵役,愁嘆事などにもすぐれており,芸達者であった。実悪として演じる「曾我」の工藤祐経も当たり役のひとつで,江戸歌舞伎の悪の表現様式は平九郎によってつくりあげられたものである。背が高くやせており,歯が抜けているために口跡が悪かったが声は大きく,憎々しい顔付きをしていた。そのため,舞台の上でにらみつけると観客の子供が怖がって泣き出すといわれ,自宅で鬼女の隈取を試みていたところ,それを見た妻が恐ろしさに失神したという逸話もある。実際,面をつけずに生まれつきの顔を彩って鬼と見せる名人とたたえられ,彼の般若の隈取は「平九郎隈」として現在に伝わっている。平九郎の名跡は,江戸中期の3代目までで途絶えている。<参考文献>『歌舞伎評判記集成』1期,『歌舞伎事始』(『日本庶民文化史料集成』6巻)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
山中平九郎
やまなかへいくろう
歌舞伎(かぶき)俳優。3世まであるが初世だけが著名。
[服部幸雄]
(1642―1724)「江戸実悪(じつあく)の開山」と称された名優。1689年(元禄2)に立役(たちやく)から実悪に役柄を転じ、以後元禄(げんろく)年間(1688~1704)における江戸歌舞伎の形成に大きな役割を果たした。初世市川団十郎による荒事(あらごと)の主人公の前に立ちふさがる超人的な悪の創造に専念。公卿悪(くげあく)や怨霊事(おんりょうごと)を得意とした。やせ形で背が高く、きわめて大音の持ち主で、典型的な実悪役者だったという。鬼女の役で創案した隈取(くまどり)は「平九郎隈」の名で現代に伝わる。
[服部幸雄]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
山中平九郎(初代) やまなか-へいくろう
1642-1724 江戸時代前期-中期の歌舞伎役者。
寛永19年生まれ。公家悪(くげあく)を得意とし,江戸実悪(じつあく)の開山(かいさん)といわれる。怨霊事にもすぐれ,研究中の鬼女の隈取(くまどり)をみた妻は失神したという。「平九郎隈」にその名をのこす。享保(きょうほう)9年5月15日死去。83歳。初名は鈴木平九郎。俳名は仙家。
山中平九郎(2代) やまなか-へいくろう
?-? 江戸時代中期の歌舞伎役者。
初代の門人。享保(きょうほう)15年(1730)2代を襲名し,立役(たちやく)で実事を主とした。寛保(かんぽう)のころ江戸市村座の頭取をつとめ,安永年間に没した。前名は山中平四郎。俳名は仙虹。
山中平九郎(3代) やまなか-へいくろう
?-? 江戸時代中期-後期の歌舞伎役者。
4代沢村長十郎の門人で,宝暦の末ごろ敵役で舞台をふむ。天明元年(1781)3代を襲名し,のち江戸市村座の頭取となった。前名は沢村沢蔵。俳名は喜童,仙雫。
出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例