実事(読み)じつごと

デジタル大辞泉の解説

じつ‐ごと【実事】

歌舞伎で、判断力を備え、人格的にすぐれた人物の精神や行動を写実的に表現する演技。また、その演出。→荒事和事
真実であること。真剣であること。
「そなたとわが身は―にて、口舌(くぜつ)などする挨拶か」〈浄・歌念仏〉

じつ‐じ【実事】

本当のこと。実際のこと。事実。
「今聞得たる神託が、若(も)し―にてあらんには」〈竜渓経国美談
(副詞的に用いて)本当に。まことに。
「人目―面目なし」〈盛衰記・三四〉

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百科事典マイペディアの解説

実事【じつごと】

歌舞伎の演出法の一つ。勇武を誇張する荒事(あらごと),優美な恋愛描写を主とする和事(わごと)に対し,最も現実に近いもので,常識円満な人物が中心になって活躍する場面,演出,演技をいう。《忠臣蔵》の由良之助,曾我物の鬼王などが実事の典型的な役で,これらを得意とする俳優を実事師と呼ぶ。
→関連項目片岡仁左衛門沢村宗十郎中村七三郎坂東三津五郎松本幸四郎

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世界大百科事典 第2版の解説

じつごと【実事】

歌舞伎の演技の系統の一つ。力を表現する荒事(あらごと),優しさを表現する和事(わごと)に対して,ごく普通の常識的な男性が悲劇的な状況の中で苦悩するありさまを描写する芸のかたちをいう。実事の〈実〉は写実の実に通じ,ファンタジックなおもしろさをもつ荒事や,ときにコミカルなタッチをもつ和事に対して,実事は《忠臣蔵》の大星由良助の演技などリアルな芸をいう。実事を得意にする俳優を〈実事師(じつごとし)〉という。

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大辞林 第三版の解説

じつごと【実事】

歌舞伎の演技・演出の一。判断力のある常識人を主役とした誠実さを性根とする演技。また、その役柄。 → 和事荒事
本当のこと。まじめなこと。 「そなたとわが身は-にて、口舌などする挨拶か/浄瑠璃・五十年忌

じつじ【実事】

本当のこと。事実。 「彼男の我上を語りし中に、唯だ一つの-あり/即興詩人 鷗外
(副詞的に用いて)まことに。 「公の馬を論じて命を捨てん事、人目-面目なし/盛衰記 34

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

実事
じつごと

歌舞伎(かぶき)演出用語。人間の生活のなかで実際にありうる事件を、なるべく写実的に表現する演技・演出・場面などをいう。豪傑や神仏・妖怪(ようかい)の超人的な力を誇張して演じる「荒事(あらごと)」や、優美な色男をその恋愛描写中心に演じる「和事(わごと)」に対するもので、曽我(そが)兄弟の仇討(あだうち)を扱った「曽我狂言」のなかで忠臣鬼王(おにおう)新左衛門が活躍する「鬼王貧家」などは適例。また、こういう場面で中心になって動く実直で分別に富んだ役柄をさすこともあり、『忠臣蔵』の大星(おおぼし)由良之助、『菅原(すがわら)』の武部源蔵などは代表的な役である。この種の役柄を得意とする俳優を実事師とよぶ。なお、実事の系統のなかで、『石切梶原(いしきりかじわら)』の梶原景時(かげとき)や『布引滝(ぬのびきのたき)』の斎藤実盛(さねもり)など、やわらかみのある役柄を、和事の味を加えた実事という意味で「和実」とよぶこともある。[松井俊諭]

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精選版 日本国語大辞典の解説

じつ‐ごと【実事】

〘名〙 (「実」はまこと、まごころの意)
① 歌舞伎で、分別があり、常識をわきまえた誠実な役柄。また、その演技や演出法。
※評判記・役者大鑑(1692)二「おさまれる実(じつ)事、ぶだうもろ共、大かたにしこなしたまへは」
② まじめなこと。真剣なこと。また、真実みがこもっていること。本当のこと。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸「それは太夫さまともおぼえぬむごき御事と、実事(ジツゴト)を申出せば」

じつ‐じ【実事】

〘名〙
① ほんとうのこと。根拠のあること。実際のこと。
※律(718)逸文「凡告人罪、皆須明注年月、指陳実事
※真如観(鎌倉初)「夢に見る事、実事(ジツジ)にあらざるが如し」 〔韓非子‐外儲説右下〕
② (副詞的に用いて) 実際に。まことに。
※源平盛衰記(14C前)三四「実事(ジツシ)面目なし」
③ 男女のむつびごと。男女がともに寝ること。
※岷江入楚(1598)二「此夜実事ありやいなやの説々あり。或説には貞女の一種なれば実事なしと見るべしと云々」

まめ‐ごと【実事】

〘名〙 実生活や政治に関するまじめなこと。真実なこと。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「あやしく、まめごと聞ゆれば、そらめにおはするかな」

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