襲名(読み)しゅうめい

精選版 日本国語大辞典 「襲名」の意味・読み・例文・類語

しゅう‐めい シフ‥【襲名】

〘名〙 子や弟子が、親または師匠などの名跡を継ぐこと。〔音訓新聞字引(1876)〕
※茶話(1915‐30)〈薄田泣菫〉璃寛襲名「嵐徳三郎が、璃寛を襲名(シウメイ)するについて」

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デジタル大辞泉 「襲名」の意味・読み・例文・類語

しゅう‐めい〔シフ‐〕【襲名】

[名](スル)親や師匠などの名前を受け継いで自分の名とすること。「六代目菊五郎を襲名する」「襲名披露」
[類語]親譲り世襲

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改訂新版 世界大百科事典 「襲名」の意味・わかりやすい解説

襲名 (しゅうめい)

個人名の継承形態の一つ。一般的には家族もしくはこれに類似する集団(芸能の流派など)において,その代々の代表者が以前の代表者の個人名の全部を継承する形態である。したがって襲名の対象となる個人名は原則的に各世代の代表者1人に単系的に継承される。先祖の個人名を子孫が継承する祖名継承法は日本においても活発に行われているが,日本の祖名継承法には単系型と双系型の二つの型があり,襲名は単系型の祖名継承法の一形態である。双系型の祖名継承法が父方と母方の両方の先祖の個人名を継承する形態であるのに対して,単系型は父方の先祖のみから個人名を継承する形態である。単系型の祖名継承法には襲名のほかには父方の先祖の1字のみを継承する一字継承型や,男子全員が名乗頭を継承する名乗頭型がある。襲名はかつて農家や商家ならびに武家や家元でかなり広く行われてきた祖名継承法であり,とくに農家や商家にあっては襲名が家族の重要なシンボルの一つであってこれが苗字をもたない場合でも,家族の類別の機能を果たしていた。襲名を名のるのは家族その他の代表者(家族の場合には家長)の地位についたときであって,それ以前の名を捨てて襲名へと改名が行われた。場合によっては家長についた者が,童名,成人名,襲名,隠居名と一生のうちに地位の変化に応じてたびたび改名することもあった。最近においては個人のそれぞれの名前が重視されるようになり,襲名は衰退しつつあるといえる。
名びろめ
執筆者:

現代の日本にあっては,歌舞伎俳優,邦楽演奏家,落語家など,伝統芸能の創造に携わる人たちの間に襲名の習慣が一般的である。歌舞伎の例によって,襲名の方法とその意義を記す。現在,俳優のほとんどの名前は,その名における何代目かに当たっている。17世中村勘三郎,9世沢村宗十郎,7世尾上菊五郎,6世中村歌右衛門などが,その例である。歌舞伎俳優の襲名は,1人の俳優が年齢や技芸の成長にともない,生涯のうちにいくつもの名前を次々と襲い改名する点に特色がみられる。たとえば17世市村羽左衛門の場合は,最初3世坂東亀三郎を襲名して初舞台を踏み,以後7世坂東薪水(しんすい),7世坂東彦三郎を経て17世市村羽左衛門を襲名した。名跡(みようせき)は,家柄権威や伝統,俳優としての〈格〉などによって,おのずから順位が定まっていて,俳優がある節目を迎えたときにそれぞれ段階の上位にランクされている名前を襲名することになる。襲名は,それを公に披露することにより,当該の俳優の技芸を飛躍的に成長させることが多い。それは,(1)興行者側がその名の〈格〉に応じた待遇をすること,(2)本人の自覚・責任の痛感にもとづく修業と自己暗示,(3)観客側の,名に寄せる幻想と贔屓(ひいき)の心情の働き,などの理由による。俳優が襲名するにあたっては,贔屓の各方面へ配り物を配って挨拶に回ったり,先代の墓前に報告するなど,いろいろな習慣があり,出費も多い。舞台では,ある幕の劇中で,一時劇の進行を中断して襲名の披露をするか,または〈口上〉の一幕を設け,一門の俳優がおおぜい裃(かみしも)姿で並んで,儀式のように重々しく披露する。なお,格別に重んじられる名(市川団十郎尾上菊五郎など)の襲名は,経営不振のばん回策の一つとして,興行者によって計画的に行われ,商業政策の性格をあわせもつ場合が多い。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「襲名」の意味・わかりやすい解説

襲名
しゅうめい

古典芸能や伝統的な特殊技術を要する職業で、先祖、父兄、師匠その他先人の名跡を継ぐこと。能、狂言、歌舞伎(かぶき)、人形浄瑠璃(じょうるり)、邦楽、邦舞、落語、講談などの芸能や、刀鍛冶(かじ)、陶工、細工師などの世界でも行われる。名と家を重んじ、技芸の伝承を神格化する日本人の国民性を表し、古来の家父長的な家族制度や、それに関連して成立した家元制度などとも深い関係をもつ。芸能の世界では、当人に責任をもたせ発奮させる目的のための襲名が多く、直接に技芸を伝承されていない故名人の名を復活して継いだり、他家の名前養子になってその家の芸名を継ぐこともある。もっとも大掛りなのは歌舞伎俳優の名家の襲名で、興行者の商業政策にも影響され、とくに重々しく儀式的に扱い、華やかに披露興行を催し、その公演では披露のための「口上(こうじょう)」を設け、当人は大役を勤める。興行に先だっても、各方面への配り物と挨拶(あいさつ)とか、父祖・先代たちの墓前への報告など、いろいろの行事を行う。

[松井俊諭]

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知恵蔵 「襲名」の解説

襲名

歌舞伎俳優が父や兄、師匠や先代の名前を継ぐこと。まれにその家の名前ではなく、廃絶された故名優の名前を継ぐことや、死後に追贈されることもある。年齢や技芸が上がるにつれて、出世魚のように数段階の名前を継ぐことが多い。襲名により本人の自覚が高まり、配役も名前にふさわしく大きな役を手がけるようになり、観客も新しい名前に期待することから、役者ぶりが大きくなる効用がある。興行会社側には、襲名を機会に景気のてこ入れをしようとするねらいもある。

(山本健一 演劇評論家 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「襲名」の意味・わかりやすい解説

襲名
しゅうめい

先人の由緒ある名跡を継ぐ行事。能楽・文楽・落語家など,さまざまの芸能で行なわれるが,歌舞伎役者のそれが最も豪華で,社会的影響も大きい。当事者はそれまで名乗っていた名より高い名を継ぎ,本人も観客もそれによって芸格の飛躍的向上を期待する。興行的にも話題づくりとして,最良の手段とされている。

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世界大百科事典(旧版)内の襲名の言及

【歌舞伎】より

…芸名は幼名にはじまり,あたかも出世魚のごとく一定の段階を踏んで次々と改められていく例が多い。そのほとんどの名前(名跡(みようせき))は世襲で,実子,養子,兄弟,実力のある高弟などによって襲名される。役者は年齢的にも,芸の実力や人気の面でも成長したと認められたとき,あるいは父の急死によって後継者の成長が待望されるときなどに,一段上の芸名をつぐ。…

【名びろめ(名弘)】より

…名広目,名披露目とも書き,名前を世間に広めることをいうが,とくに芸人・芸妓の改名や襲名また商人の新規開業や祖名襲名にあたり,芸名や屋号などを広く喧伝させるため関係者を集め宴を催したり挨拶回りを行ったりすることを指す。芸妓の新造出しや店出しには姉芸者や芸者の三味線などをもって歩く箱屋が付き添い,出入りの茶屋や芸者屋に挨拶回りをし,名刺代りと称して名入りの手拭などを配った。…

※「襲名」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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