①は農民に豊かな実りを約束する守り神であり、民衆にとって最も近しい土着神(地祇)の代表であった。それだけに、天皇を中心とする神々(天神)の系統からは異端視され、③のように妖怪扱いを受けることもあった。
山神の属性は地域によって異なっていることが多く,一律に論じがたい。大筋において分類しても,(1)山自体を神とみなす場合,(2)特定の山を支配・管掌する神を認める場合,(3)山に住む諸霊を畏怖する例などがある。(1)は自然崇拝の一環としての山岳信仰であるが,アメリカ・インディアン諸族が特異な形をした山や岩を神そのものとみなして信仰の対象としたことや,日本古来の神体山崇拝などがその例である。(2)では,インドのトダToda族が,彼らの神々がそれぞれ周辺の峰々を個別に占めているとして,それぞれ頂上に環状列石(ストーン・サークル)や石塚(ケルン)などを築く事実や,アフリカのマサイMasai族が,彼らの神ヌガイNgaiはキリマンジャロの雪をすみかにしていると信じていることなどがあげられよう。(3)では,山に住むとされる精霊や霊鬼を恐れて,人々が山に近づかないといった場合がある。ニューギニアのコイタKoita族は,山の精霊を恐れて近づかないが,山の近くに生えている木で作った槍を手にすると山に入っても危険ではないという。(1)の性格をもつ山神が(2)に変化することがある。チベットではかつてカンチェンジュンガ山はそれ自体崇拝の対象であったが,後になるとカンチェンジュンガなる神のすみかとみなされるにいたった。
日本の民間信仰における山神は一般に〈山の神〉と称されるが,農民と山民(炭焼き,猟師,きこりなど)とではその性格を異にしている。農民の信奉する山の神は,春先に里に来て田の神となり,秋の収穫後に山に戻って山の神になるといわれる。他方山民が崇拝する山の神は田の神になるとは考えられていない。山の神は地域により男神とされる場合と女神とされる場合とがある。神道では男神の場合は大山祇神(おおやまつみのかみ),女神の場合は木花開耶姫(このはなのさくやびめ)とする。山神の祭日は地方によって異なるが,月の7,9,12日としていることが多い。山の神の日には山に入ることをタブーにしている地方が多い。
→山の神
執筆者:佐々木 宏幹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…唐末に風景という用語もあるが,それは風と光とを意味し,中国人は自然をそこまで非実体化し抽象化することはなかった。《山海経(せんがいきよう)》は山々に神々が住むことをいうが,竜身,蛇身,魚身の神々も多く,山神であると同時に水神でもあろう。神話的世界の神としては洪水神が最も古いが,夏系の鯀(こん)や禹が魚身から熊に変じて治水を行ったとか,竜身の共工という洪水神をもつ羌(きよう)族は嵩(すう)岳を祖神とするといったように山神・水神は対をなしているようで,苗系の女媧(じよか)・伏羲(ふくぎ)の説話のように破壊と復活を意味し,山水は神と帝,聖と俗といった観念でとらえられていたかもしれない。…
…律令国家も〈雑令〉国内条で〈山川藪沢の利は,公私共にせよ〉と規定しただけで,山地は一般に官・民の共同利用に任せ,国家的用途と民業を妨げない範囲で,王臣,社寺,豪民らの私的な占取と用益を認めていた。そのうち聖地として占取された山陵,墓山,神山,寺山は排他的な独占性が強く,入山,狩猟,伐木が禁じられていた。また朝廷も官採の鉱山など公用の山地を〈禁処〉とした。…
※「山神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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