野獣を多数の人が協力して包囲し,〈とりまく〉ことによって捕獲することからの呼称。組織的で多人数を動員し多額の経費を要するので,古くは一国の大社の祭儀もしくは将軍・諸大名のような権力者が催す狩猟法であった。富士の巻狩は源頼朝が将軍の権力によって,下野那須野,上野三原,富士山麓で催したうちの一つであるが,偶然曾我兄弟の仇討が行われたので有名になった。巻狩の本来の目的は山の神の意志をうかがうための一種の祭儀の意味をもったらしい。定例的な祭儀としての巻狩は諏訪明神の御射山(みさやま)祭,阿蘇神社の下野の狩りなどが名高い。近世には徳川将軍が不定期に行った小金ヶ原の鹿狩などが知られる。またぎも個人猟のほか5,6人から7,8人が熊などを包囲し,セコがこれを追ってあらかじめ配置した射手の直前に追い込み射撃させる方式があって,これをマキガリと呼んでいる。これには雪のとけはじめる時期と地形とが綿密にえらばれ,種々の微妙な生態的配慮と技法とが備わらなくては成功しない。土地により細部に多少の差異がある。
→狩猟
執筆者:千葉 徳爾
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遊興と軍事訓練を兼ね,鹿や猪などが生息する狩場を多人数で四方から取り囲み,囲いを縮めながら獲物を追いつめて射とめる大規模な狩猟。多くの勢子(せこ)や追出犬が動員された。中世の武士の間では,鹿や猪などの獲物を争う狩競(かりくら)と称される競技があったが,巻狩もその一種。源頼朝が行った富士の巻狩が有名。
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…山中で人に向かってくるのをやりで突くと熊がつかんで引き寄せるためみずから深く貫いて倒れるとも伝える。近世後期には銃が普及して,包囲した勢子が声をかけつつ山頂に待つ銃手の前に追い込んで射撃させる〈巻狩り〉がくふうされ,今日まで応用されている。これは地形を利用するから場所がほぼ一定し,巻倉などという地名となっている場合もある。…
…そして鹿踊が鎮魂の意味で興行されたらしいことは,空也らの聖(ひじり)が鹿の角をつけた杖をもち鹿の皮ごろもをまとう装束をしていたこととかかわるように思われる。 鹿は農作物を荒らす害獣でもあったので,その防除は領主にとっても重要であり,その駆除のための大規模な巻狩は,それが戦闘武技の訓練ともなったので,近世まで武家の行事となっていた場合もまれでない。その獲物は武具の一部ともなったのである。…
…狩猟に際して野獣を追い出したり包囲して一方に誘導する人々をさす言葉。勢子を多数用いて野獣をとりまき捕獲する猟法を一般に巻狩と呼ぶ。近世・中世に領主が多数の農民を使役した巻狩では,勢子は数百人を超えることがまれではなかった。…
※「巻狩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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