巾着網(読み)キンチャクアミ(英語表記)purse seine

翻訳|purse seine

デジタル大辞泉 「巾着網」の意味・読み・例文・類語

きんちゃく‐あみ【巾着網】

巻き網の一。大きな帯状の網のすそに締め綱を通してあり、魚群を取り巻いたあと、巾着のように下方を締めて捕る。イワシサバカツオなどに用いる。

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精選版 日本国語大辞典 「巾着網」の意味・読み・例文・類語

きんちゃく‐あみ【巾着網】

  1. 〘 名詞 〙 漁業用網の一つ。揚繰網(あぐりあみ)を改良したもので、すそに金属製の環を付け、その環に一本の綱を通した網を船で円形に張り、この綱を引き締めると、巾着の口のように底をくくって魚が脱出できないようにしたもの。イワシ、サバ、カツオ、マグロなどの回游魚を捕獲するのに用いる。パースセイン。
    1. [初出の実例]「偶ま加拿陀地方にて使用なし居る巾着網こそ、我が国の漁業に適当すべしと思ひ立ち」(出典:大阪毎日新聞‐明治二二年(1889)七月七日)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「巾着網」の意味・わかりやすい解説

巾着網
きんちゃくあみ
purse seine

網漁具一種で、巻網(旋(まき)網)類の無袋(無嚢(むのう))網類に属す。1枚の長方形状の網で、上辺浮子(あば)方)には浮子綱と浮子、下辺(沈子(ちんし)方)には沈子綱と沈子が付着していて、網端部には側綱が取り付けられ、これらに手綱が結着されている。沈子綱には多数の環吊綱(かんつりづな)(ブライドル)が結着され、その先端に鉄製の環(かん)(リング)が取り付けられている。これは魚群が網裾(あみすそ)から逃避するのを防止するためのもので、環に通された環綱を締めて魚群の逃路を絶つために用いられる。

 昼間操業するものと夜間に集魚灯を利用して操業するものとがある。また、使用する漁船は、1艘(そう)によるものと2艘によって操業するものとがあるが、使用する漁船は網船と魚群探索船(または灯船(ひぶね))および運搬船からなる複数の漁船をもって一操業体としている。巾着網の魚捕部は一艘巻では網端に、二艘巻では網の中央部に位置している。

 昼間操業する場合は、魚群の水平的な動きが速いので、魚群をすみやかに包囲するために、浮子綱の長さに比較して網丈(あみたけ)は浅い。夜間操業する場合には、集魚灯によって浮上させた魚群を漁獲対象とするため、網の長さは集魚灯に集められた魚群を包囲するだけで十分であるが、水面近くまで浮上した魚群でも大部分はかなり深い層に滞留していることが多いため、網丈は比較的深めに仕立てられるのが普通である。また1960年代からは、網船は省力化のため一艘巻で操業する場合が多く、2艘の網船で操業することは少ない。

 規模的には数トンの小型船による小規模なものから、500~3000トン級の中・大型船を用いた大規模なものまである。漁獲対象は、濃密な大魚群を有するイワシ類、サバ類、アジ類をはじめカツオ・マグロなど多種多様である。

 巾着網はアメリカで発達し、第二次世界大戦後にアメリカから日本に導入された漁具である。古来日本で操業されていた揚繰(あぐり)網とよく似ているが、以下の点が異なる。揚繰網は網の中央部に袋(嚢(ふくろ))とよばれるふくらみをもつのに対し、巾着網では網の中心部は左右ともに同一寸法の長方形をなす。また、構造的な大きな相異点は環および環綱の有無である。これらが装備された巾着網の移入後、揚繰網が改良され、現在では両者の明瞭(めいりょう)な区別はなくなった。

[添田秀男]


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改訂新版 世界大百科事典 「巾着網」の意味・わかりやすい解説

きんちゃく(巾着)網 (きんちゃくあみ)

規模の大きい代表的な巻網類の一種。現在でも広く使用されている。魚群をまいたのち網裾を巾着のように締めて捕獲する構造のものである。アメリカで開発されたこのきんちゃく網を,最初に日本に紹介したのは関沢明清であった。彼はその梗概をアメリカの漁業報告から訳出し,1881年(明治14)2月《中外水産雑誌》に掲載したのをはじめ,紹介記事の発表や講演を行った。時あたかも沖合操業のできる高能率漁網が求められているときであったから,そのような漁網としてきんちゃく網が着目されたのであった。その技術導入について,関沢に次いで功績があったと思われるのは,北海道の技師伊藤一隆である。彼は1886年水産事情取調べのためアメリカに出張した際,きんちゃく網についても調査をし,88年に復命書で報告し,またきんちゃく網の試作と試験操業を行った。その試験は成功しなかったが,その後もきんちゃく網の導入普及に彼の尽力は大きかった。

 日本におけるきんちゃく網導入の成功は,岩手県宮古湾岸鍬ヶ崎の大越作右衛門によってかちとられた。彼は1888年《農商工公報》に掲載された関沢明清のきんちゃく網についての説明を読み,それが優良な漁網であることを確信して試作したという。初め失敗を繰り返し,その網で操業してくれる漁夫もない状態であったが,それに屈せず努力を重ね90年にはサケきんちゃく網,91年にはイワシきんちゃく網の操業に成功した。それまで南部方面ではイワシ小舌網という大規模な有囊の巻網が盛んに使用されていたが,きんちゃく網のほうが優れていることが明らかとなったので,この地方できんちゃく網がまず普及し,さらにまもなく全国的に普及していった。千葉県で開発された改良揚繰(あぐり)網より2~3年おくれてのことである。両者は同類の巻網類であり,網の規模はきんちゃく網のほうが大きかったし,網の構造上でも差があったとはいえ,その後の日本漁業にもった意味はともに大きかった。
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百科事典マイペディア 「巾着網」の意味・わかりやすい解説

巾着網【きんちゃくあみ】

表層性の魚をとる網漁具で,巻網の一種。1枚の大きな網で,上端に浮子(あば),下端の沈子(いわ)綱に金属環をつけ,この環に締綱を通す。魚群を網で取り巻き,巾着の口を締めるように締綱を引き絞る。揚繰(あぐり)網と似ているので農林水産省の統計では揚繰網と分類。巾着網漁業は日本の漁業中重要なものであった。
→関連項目漁船関沢明清

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「巾着網」の意味・わかりやすい解説

巾着網
きんちゃくあみ

漁網の一種。主としていわし,あじ,さばなどをとる。巻網に属する揚繰 (あぐり) 網の改良型で,最も一般的に使われている。2艘の船で行うものと,1艘で行うものとがある。上部に浮子 (あば) をつけ,下部に沈子 (いわ) をつけた幅広の長い網で魚群を囲み,網をたぐり寄せて魚を捕獲するが,そのとき下部に環をつけておき,絞るようにして魚の逃げるのを防ぐところから,巾着になぞらえてこの名がある。

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世界大百科事典(旧版)内の巾着網の言及

【漁具】より

…漁獲,すなわち水産動植物を採捕するのに用いられる道具。漁獲の方法を漁法というが,漁法は漁具の運用方法ということもできる。水産動植物の採捕は対象生物の生態・習性・行動などに応じて,最も適当な方法をとるわけで,漁具と漁法は密接に関連して選ばれる。
【分類】
 漁獲は水中に生活する動植物を陸上生物である人間が採捕するのであるから,水から魚介類を分けることが最終的には必ず行われる。したがって,生物体を直接,なんらかの方法(引っ掛ける,突く,挟むなど)で保持して水から揚げるか,水と生物をこし分けるかのどちらかが必要になる。…

※「巾着網」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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