漁業の網漁具の一種で、網漁具の分類上、巻網(旋網(まきあみ))類に属し、無袋(むたい)(無嚢(むのう))網類に分類される。漁獲対象となるのは、イワシ、アジ、サバ、カツオなどのように濃密な大群を形成し、かつ相当な移動力を有する俊敏な性質をもつ魚であり、漁場は沿岸から沖合に広がる。揚繰網は、規模が相当長大であることが必要で、また魚群を包囲する場合には漁具の展開を敏速にしなければならない。揚繰網の形状は大別すると、以下の3種がある。
(1)網の各部の幅がおよそ同一のもの。
(2)中央部が広く、両袖(そで)(両翼)網部にいくに従って狭くなっているもの。
(3)両袖網部の端近くが深くなっているもの。
いずれも中央部を中心として左右対称であるが、(1)は第二次世界大戦後アメリカから導入されたいわゆるアメリカ式巾着(きんちゃく)網で、(2)はそのアメリカ式巾着網を日本式に改良した巾着網、(3)は古来日本で存在していた揚繰網の網型である。
巻網類の操業方法は、魚群の存在を確認した後、これを網で包囲し、徐々に包囲形を縮小して漁獲を完了する。この種の漁具は、形状は長方形で中央部を中心に両側に袖網を有していて、網の上縁に浮子(あば)(浮き)を、下縁に沈子(ちんし)(おもり)を備えている。また、魚捕部に魚を取り入れるための袋(嚢)を有しているか否かによって、有袋巻網類と無袋巻網類に区別している。有袋巻網類は、タイ縛(しば)り網、縫切(ぬいき)り網、小舌網(こじたあみ)、八坂(やさか)網、シイラ巻網などがあるが、あまり普遍的なものでない。無袋巻網類は、網の構造や漁獲方法の違いによって揚繰網と巾着網に分けられる。揚繰網は、魚群を包囲した後、網の両端から船内に繰り込むと同時に網裾(あみすそ)についている引手綱を引いて網の下辺をすばやく引き寄せ、魚が下方に逃避するのを防止して漁獲を完了するものである。巾着網は、魚群を包囲してから網裾の環括綱(かんしめづな)を締め、巾着の口をふさぐようにして漁獲を完了するものである。
揚繰網には、従来は環、環括綱、分銅(ふんどう)などはなかったが、しだいに巾着網の機動力の源である環括綱を用いるようになり、揚繰網と巾着網の区別が困難になっている。ただし、揚繰網は網を胴の間(和船の中央の間)または舷側(げんそく)に積載し脇打ちにより投網するが、巾着網は網を船尾に搭載して艫(とも)打ちによって投網する。この操業方法の違いによって両者を分類・区別することができる。
[添田秀男・吉原喜好]
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…タイなどをとる縛網(しばりあみ)は囊網をもつ有囊巻網類で,桂縄(かつらなわ),鵜縄(うなわ)などで追った魚群を巻いた後,網の両端を交差させ縛るようにして漁獲するのでこの名がある。巻網としては,囊網をもたない無囊巻網の方が一般で,揚繰(あぐり)網,きんちゃく網,アメリカ式きんちゃく網などがある。1枚の横長の長方形の網で,中央部に囊網の代りにやや細かい網目の魚捕部がある。…
…前者にはサクラエビ巻網,ボラ巻網,シイラ巻網,タイ縛(しばり)網,縫切網といったものがあるが,どれも小規模で,地域的に使われているものしかない。最近の巻網漁業の漁獲量のほとんどは揚繰(あぐり)網,きんちゃく網といった無囊巻網によるものである。 魚群を巻く漁法は地引網をはじめいろいろあるが,どれも浅いところで水底を一つの障壁として用いており,網で遮るのは魚群の側面だけである。…
※「揚繰網」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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