日本の代表的ホテル。東京都千代田区内幸町,日比谷公園に面してあり,1890年開業という古い歴史をもつ。ホテルの建設は,当時の外務大臣井上馨が首都東京に外国からの賓客をもてなす本格的ホテルがないのは国の恥だとして,渋沢栄一,大倉喜八郎といった実業界の実力者にホテル建設を勧めたことが契機となった。何回かの新増改築を経たが,とくに1923年のF.L.ライト設計による荘重な建物,また欧米で高級ホテルの経営を学んだ犬丸徹三(1887-1981)の活躍などにより,その名声は世界的なものとなった。
執筆者:岡本 伸之
1890年竣工の最初の建物は渡辺譲の設計で,木骨煉瓦造三階建て,客室60,工費23万円の破格な豪華ホテルであった(1922焼失)。その後,明治末以来の外国客激増に伴って新館の建設が計画され,設計をアメリカの著名建築家ライトに委嘱した。この建設には国賓宿泊の関係から宮内省と大蔵省が協力した。全館(鉄筋コンクリート造,地上5階地下1階,客室300)竣工は1923年8月,工期・工費とも当初の3倍に達する難事業であった。建築は来日したライトが心血を注ぎ,とくに内部は稠密な幾何学模様が彫刻された大谷石と煉瓦の構成で類のない濃密な空間となっていた。第2次大戦中一部が類焼,戦後米軍の接収により破損し,また23年の落成披露当日の関東大震災以来の損傷が限界に達して,67年取り壊された。70年,地上17階地下3階,収容客数2400人の近代的ホテルに改築され,ライト設計の旧館の一部が愛知県明治村に保存されている。
執筆者:丸山 茂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ホテル業界の名門。鹿鳴館(ろくめいかん)時代に欧米諸国との交流が盛んになるにつれ、首都に本格的ホテルの必要性が痛感され、外務大臣井上馨(かおる)の発案で、渋沢栄一、大倉喜八郎を中心に1887年(明治20)設立。1890年ルネサンス式煉瓦(れんが)造、3階建、60余室の建物が完成し、開業。大正期になると来日外国人数が急増したため、アメリカ人建築家ライトの設計による鉄筋コンクリート造、地上5階、地下1階、客室数300の本館が1923年(大正12)開業した。1933年(昭和8)長野県に上高地帝国ホテルを開業し、第二次世界大戦中には東南アジア主要都市でホテルを受託経営した。
戦後は1952年(昭和27)占領軍からの接収を解除され、営業を再開。1954年に170室の第一新館、1958年に450室の第二新館が完成し、大型化を実現した。1967年にはライト設計の本館を撤去(一部を愛知県犬山市の「明治村」に移築)、跡地に地上17階、地下3階、772室の新本館を建設、日本万国博覧会(大阪)開催目前の1970年に完成した。さらに1983年にホテル客室、オフィス街、ショッピング街、レストラン街の機能を備えた地上31階、地下1階の「インペリアルタワー」がオープンした。1996年(平成8)には帝国ホテル大阪を開業している。創立以来、外国人の利用が多く、日本を代表する高級ホテルとの名声が高い。資本金15億円(2008)、売上高575億円(2007)。
[中村青志]
『株式会社帝国ホテル編・刊『帝国ホテル百年史』(1990)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
東京都千代田区内幸町にあるホテル。1890年(明治23)国賓の宿泊に対応するため建築竣工,木骨煉瓦造3階建,60室。渋沢栄一・大倉喜八郎らの発起により有限責任会社として設立。1923年(大正12)F.L.ライトの設計による新屋を完成。関東大震災にも耐えたが,67年(昭和42)取り壊され,正面ロビーなどは愛知県の明治村に移築・保存。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…また石垣,門塀,擁壁その他土木建築用として全国に広い販路をもっている。F.L.ライトの設計した旧帝国ホテル本館は,この石材を用いた代表的建築で,これが関東大震災にも健在であったことが,大谷石の声価を高めた。【矢橋 謙一郎】。…
…またこの期に,ラーキン・ビル(1904)で事務所建築のあり方を,ユニティ教会(1906)で威厳と静寂を求める教会堂建築を探り,独自の提案をなしている。 36年までは個人的な不幸もあり逆境の時代で,作品数も少ないが,その中で帝国ホテル(1915‐22),山邑邸(1918),自由学園(1921)など彼の国外での作品のほとんどが日本に建てられた。帝国ホテルはとくに,日本の近代建築に大きな影響を与え,同行の弟子A.レーモンドはこれを機に日本にとどまって活動を続けた。…
※「帝国ホテル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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