正月を中心とした行事の主役を演ずる男。若男(わかおとこ),節男(せちおとこ)ともいう。家長を原則として,長男,奉公人があたるが,東日本の諸地域がとくに厳重で,西日本には女性が主役となる地域もある。役目は正月迎えの準備としての松迎えやしめ縄づくり,神棚飾,元旦の若水くみ,年神の供え物づくり,節料理づくりなど年神祭に関係するものが多く,その期間は三が日の間とも7日間という所もある。しかし小正月の成木責めや庭田植をおこなったり,節分の豆まきを年男の役とする所もある。西日本で年男の役を女性が演ずる点については,十分に説明がなされていないが,家長の公的権威が家の内部に拡大されて,本来は女性の任務であった家の神の祭祀を男性がつかさどるようになったとする説が有力である。神社や寺院では,厄年(やくどし)にあたる者を年男,年女(としおんな)と呼んで行事に参加させているが,正月行事に厄年の者が特定の役割をはたす民俗は各地にある。
執筆者:坪井 洋文
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家の正月の祭りの司祭者。栃木県那須(なす)郡、山形県最上(もがみ)郡、三重県旧一志(いちし)郡(現津(つ)市、松阪(まつさか)市の一部)では若男(わかおとこ)、静岡県賀茂(かも)郡では節男(せちおとこ)といっている。年末に山から門松を切ってきたり、注連(しめ)飾りをこしらえたり、年取りの夜の祭事、元朝(がんちょう)の若水くみ、正月3日間の雑煮をつくることなど、年神に関することいっさいを勤め、とくに神供の世話はたいせつな役目である。東日本では正月三が日の食事の支度を女にさせることを忌む所が多い。一般にはその家の主人が年男をすることが多く、年とっている場合は息子がかわるが、地方によっては奉公人頭、作男(さくおとこ)あるいはできるだけ若い者にやらせる。今日では節分の豆撒(ま)きをする、その年の干支(えと)にあたる男子を年男とよぶが、古い暦法では、節分も正月に付随した行事であったための名残(なごり)である。また、厄年(やくどし)にあたる者を年男として寺社の行事に参加させる習俗もある。
[丸山久子]
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… 正月行事には,村落社会の構成単位である〈家〉が表現されている。一家の主人が年男と称して行事を主宰し,門松取り,すす払いなどのしたくから,元日の若水汲み,雑煮の炊事など神事をすべてつかさどる。大晦日に,家中そろって寝ずに元日を迎えるのもお籠りの形で,12時になると村の鎮守に参る準備である。…
…年神の神格については,正月の守り神,作神さま,社日さまと同じ神様であるとか,タガミ(田神)さまが年神さまになるなどと伝える地方があるように,作神としての性格が顕著である。年神の司祭者である年男は,家長とする地方が多いが,主婦の任務としている所もある。 年神のトシは米を意味しており,さらに年神を老人の姿とする所が多く,先祖の霊とも考えられている。…
…鹿児島県奄美群島には,若水といっしょに小石を3個取ってきて,火の神に供えた村もある。一般に新年の行事を主宰する年男がくむが,西日本には,女性がくむ地方もある。平安時代,朝廷では若水は立春の日の行事で,恵方(えほう)の井戸からくんだ水を,朝食のとき天皇に供えた。…
※「年男」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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