日本大百科全書(ニッポニカ) 「広告倫理」の意味・わかりやすい解説
広告倫理
こうこくりんり
広告活動に関して、社会的規範の観点から自主的に守るべき基準。広告は一般に、自己の供給する商品や役務について、その存在、品質、性能、価格、利便などを一般消費者へ知らせ、購買へ誘引する経済活動であるが、熱心に売ろうとすればするほど、そのセールス・トークに誇張が生じ、虚偽や誇大となるおそれも強い。こうした弊害を防ぐためには、まず消費者自身が賢くならなければならないが、度の過ぎた悪質広告に対しては、ある程度、法による規制もやむをえないと考えられる。しかし、法規制にも限度があり、脱法行為を防ぐために法の網をさらに細かくすれば、広告における表現の自由が奪われかねない。このようにみてくると、広告を正しく機能させ、消費者や社会全体の利益へ貢献させるには、どうしても広告人自らが自戒自粛し、強い倫理観をもって行動することが要請されてくる。倫理に裏打ちされた自主規制がなければ、悪質広告を追放して広告批判に対処することも、法規制の強化に反対して、これを防ぐこともできない。
[豊田 彰]
広告倫理綱領
以上のような広告界の認識を土台にして生まれたのが広告倫理綱領である。1950年(昭和25)に日本広告会が「広告浄化要綱」を制定したのがこの嚆矢(こうし)で、現在、全日本広告連盟の「広告綱領」、日本アドバタイザーズ協会(旧日本広告主協会)の「倫理綱領」、日本広告業協会の「広告倫理綱領」「クリエイティブ・コード」、全日本シーエム放送連盟(ACC)の「ACC・CM倫理綱領」、日本商工会議所の「広告向上のための指針」、日本新聞協会の「新聞広告倫理綱領」、日本民間放送連盟の「放送基準」、日本雑誌広告協会の「雑誌広告倫理綱領」、全日本屋外広告業団体連合会の「屋外広告倫理要綱」などがある。これらは、いずれも法の遵守を基本に据えたうえで、法では一律に規制しがたい倫理・道徳面の高揚をうたい、品位、良風美俗、美などを強調している。このうち、日本広告業協会の「広告倫理綱領」(1971年5月制定、2004年改訂)を次に掲げる。
一、広告は、真実を示し、社会の信頼にこたえるものでなければならない。
一、広告は、関係法令や倫理規範を遵守するとともに、人権を尊重し、公正な表現を行うものでなければならない。
一、広告は、健全な社会秩序や善良な習慣をそこなうものであってはならない。
一、広告は、品位を重んじ、明るく、すこやかな生活づくりに貢献するものでなければならない。
一、広告は、生活者利益を優先する情報を提供するものでなければならない。
一、広告は、効果的で、効率的なコミュニケーションを通じて、最適なソリューションに貢献するものでなければならない。
以上の倫理綱領は、広告人の心構えをうたった、いわば「訓示規定」で、拘束力はない。しかし、たとえば日本の各新聞社では、「新聞広告倫理綱領」に基づいて、それぞれ独自の「新聞広告掲載基準」を作成し、それに準拠して申し込まれた広告原稿を考査し、掲載の可否を決めるので、倫理綱領が単なるお題目でないことはもちろんである。
なお、広告の自主規制機関として、1974年設立の日本広告審査機構(JARO=ジャロ)があり、消費者から広告について寄せられた苦情の処理にあたっている。
[豊田 彰]