弥次(読み)やじ

精選版 日本国語大辞典 「弥次」の意味・読み・例文・類語

や‐じ【彌次・野次】

  1. 〘 名詞 〙
  2. やじうま(彌次馬)」の略。
    1. [初出の実例]「ワッショワッショと騒ぎ廻る野次連(ヤジれん)も有る」(出典:東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉(一月暦))
  3. やじること。また、その文句
    1. [初出の実例]「加ふるに両校は堅く彌次の喧囂を禁じ居れば」(出典:毎日新聞‐明治三七年(1904)六月二日)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「弥次」の意味・わかりやすい解説

弥(野)次 (やじ)

議場,舞台,競技場などにおいて,公式の発言者や登場人物の言説ないし所作を対象に,対立する陣営や観客席(外野席)から発せられるひやかし,あざけり,非難の言葉を指す。政治の世界,とりわけ公開の演説会場,国会の各種委員会や本会議においては,通例,その演説の内容や所作,賛成・反対の討論に対して弥次と怒号がとびかう。その最も劇的な場面がいわゆる強行採決である。弥次は対抗ないし応援の表現行為の一部であるが,他面では一種の即興的な批評行為でもある。それは反対意思や対立感情の表出をともなうことで,妨害・攪乱の攻撃機能をもち,また,ときに興奮の異常化と緊張とを緩和する笑いの批評機能をもつ。議員席からの弥次とその応酬は議事録上は〈不規則発言〉とされるにすぎないので,弥次の効果はその攻撃性や即興性の内容と時機にかかることになる。それは相手をやじり倒し滑稽(こつけい)さをかもしだすことを目的とする一種の技芸であるが,反面,相手の弱点をつくものであるゆえに,人格面や身体上の欠陥の攻撃に及ぶ低劣化の危険性をもっている。ここに弥次の巧拙や興・不興の分かれめがある。弥次は相互に応酬される以上,それに反応し反撃する術を習得することが,優れた雄弁家政治家条件といえよう。野党マスコミの存在機能の一端も,弥次を許容する体制や弥次の文化を構成することにある。言語による笑いの仕掛人たる道化jester foolの存在形態や役割機能は,政治文化の成熟度の一目安となろう。
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