近世初期遊里遊楽図の一。彦根藩井伊家に伝わったためこの名がある(六曲一隻。国宝)。全面金地上に遊里に遊ぶ15人の人物が描かれている。もの憂い表情をしたこれらの人物は互いに線対称や面対称に基づく微妙な呼応関係によって組み合わされ,演劇的な構成を示す。画面左端には室町末期の様式を示す六曲一隻の水墨山水図屛風が描かれている。この画中画および三絃,双六,艶書などの風俗描写には〈琴棋書画〉見立てという表現形式もみられる。描かれた風俗事象は単に表面的に時世粧を写したというものではない。当時の京都の遊里の置かれた歴史的位置を,すなわち島原に移転する以前の,中世文化のなごりをとどめた寛永期(1624-44)六条柳町遊里のありさま,雰囲気をとらえたものとして興味深い。
執筆者:奥平 俊六
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江戸初期の風俗画の名作。国宝。彦根藩主の井伊家に伝来したゆえの愛称で、正式名称は『風俗図』。もと六曲一隻の屏風であったが、現在は保存に便利な六面の額装に改装。遊里の一室にくつろぎ遊ぶ男女15人の姿を、全面金箔(きんぱく)地の画面に描いた遊楽風俗画で、寛永(かんえい)年間(1624~44)前半の町絵師の作と推定される。漢画の伝統的な画題である「琴棋書画(きんきしょが)」が意識されて、本来は士大夫(したいふ)がたしなむべき四つの芸を、琉球(りゅうきゅう)渡来の新しい楽器である三味線、中国から伝わって当時流行の双六(すごろく)、遊女が書き遊客が読む手紙、人物の背後に飾られる室内調度の屏風絵に、それぞれあてている。華やかな色彩による細密描写と理知的な画面構成を特色とする。
[小林 忠]
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遊女・禿(かむろ)・若衆といった遊里にかかわる人々の生活模様を描いた近世の風俗屏風。彦根藩主井伊家に伝わったためこの名がある。15人の男女が,遊里の室内で遊芸を楽しんだり,最新流行のいでたちで往来を行くさまを金地の背景でつないで一つにまとめている。画中の三味線,双六(すごろく),恋文,山水図屏風によって,琴棋(きんき)書画図の見立てともなっている。計算された構図や官能的で退廃的な雰囲気から,江戸初期の寛永年間前半の作とみなされる。筆者は不明。縦94.6cm,横274.8cm。国宝。井伊家史料保存会蔵。
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