胸痛、
神経質な人や、子どもから手が離れ、暇な時間ができたために自分の体の状態が気になるようになった女性、親しい人を心臓病で亡くして心臓病に対して不安感を抱いている人などによくみられる病気です。
心臓神経症の原因としては、ストレス、過労、心臓病に対する極度の不安などが考えられます。ストレス、過労、不安感などは心臓のはたらきを活発にする交感神経を刺激します。すると、心拍数が増え、動悸を強く感じたりします。一度こうした症状を感じると、「自分は心臓病ではないか?」という不安が生まれ、その不安が徐々に大きくなるにつれて、胸痛、呼吸困難、めまいなどのより大きな症状を感じるようになってしまうのです。
胸痛、動悸、息切れ、呼吸困難、めまいなどの症状を示します。このうち胸痛はほとんどの患者さんが訴えるものですが、その痛みは一見、
心臓神経症で感じる胸痛は「ズキズキ」とか「チクチク」と表現されるような痛みで、痛む部分が左胸のごく狭い範囲に限られており、手で圧迫すると痛みが強くなるという点が特徴です。この痛みは運動したり、興奮したりしている時ではなく、たいていは一人で静かにしている時に現れ、長い時は1日中続くこともあります。
まず一般的な心臓病の検査を行い、心臓の病気の有無を判断します。さらに胸膜の病気や食道けいれんなど胸痛の原因となる病気の有無について調べ、それらが除外されて初めて心臓神経症と診断されます。胸痛発作を強く訴える患者さんで、狭心症との区別が難しい場合にはニトログリセリン舌下錠を処方して、胸痛発作が起きた時に服用してもらい、その時の薬の効き具合をみることで診断する場合もあります。
心臓神経症の原因は“こころ”の問題なので、症状が起こる仕組みをよく説明して納得してもらうと同時に、患者さんの症状を引き起こしている原因が何であるのかを調べ、それに対するアドバイスをします。
症状が強い場合には、心臓のはたらきを抑える
これらの治療を行っても症状が続く場合には、心療内科や精神神経科の医師の診察が必要になります。
前嶋 康浩
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
心臓ノイローゼ,神経循環無力症ともいう。神経症のうち,一定の器官の機能障害を訴えるものを器官神経症というが,そのなかで心臓症状を主訴とするものをいう。呼吸困難,疲れやすさ,胸痛,動悸,不安など一群の不定愁訴を特徴とする症候群で,患者の訴えがしばしば狭心症,心筋梗塞(こうそく)の胸痛発作に似ていることから,ときに鑑別が困難であるという点で重要視される。しかし心臓神経症の症状にはいくつかの特徴がある。胸痛は痛みとして訴え,手の指で患部をさし示すことが可能である。持続時間も数時間から一日中と長く,とくに誘因と思われるものが見当たらない。同時に深いため息をよくつき,空気が足りない感じがする。普通の人よりも体を動かすことがおっくうで,労作や精神的緊張に疲れやすい。心臓が悪いのではないかと絶えず不安感をもち,ひどくなると床につくときに死の危機感を訴えるまでに至る。これらの症状は単独で起こることもあるし,いくつかの症状が重なって起こることもある。心臓神経症は以上のような多彩な訴えをもつが,身体的には一過性の不整脈の発見や腱反射の亢進,脊柱や肋骨の叩打痛,圧痛がある程度にとどまる。精神症状は代表的なものとして先に述べた不安神経症のほか,恐怖症,心気症,ヒステリー症状などがある。
心臓神経症については,歴史的に二つのいくぶん違った考え方の流れがある。一つは一般的にドイツ学派と呼ばれる流れで,これは心臓疾患,呼吸器疾患,神経疾患といった明らかな器質的な疾患がないときに初めて神経症と診断することを基本としており,その原因は自律神経系の機能異常としてとらえる。これに対して,いま一つの流れはアメリカやイギリス学派と呼ばれるもので,器質的疾患があっても心臓神経症としての症状が強く現れれば積極的に診断する立場にある。したがって後者は精神活動や心理的側面の異常がその原因として重視されている。この考えの発端となったのはアメリカ市民戦争の〈戦闘組合員の過敏な心臓irritable heart of soldiers〉(ダ・コスタda Costa J.M.,1871)と呼ばれるもので,数ヵ月戦闘に加わった人がなんらかの原因で入院した後,再び戦闘に加わると身体的に異常がないにもかかわらず,めまい,胸痛,動悸などに悩まされ再入院を余儀なくされた例が多かった,という報告である。またオッペンハイマーB.S.Oppenheimerらは第1次大戦時に兵士に現れた神経症状を神経循環無力症neurocirculatory astheniaと呼んだ(1918)。これらの兵士に現れた症状はまったく健康な一般市民にもみられ,初期症状として労作に伴って起こることが知られてきて,一般的病名となった。原因が自律神経の機能異常であるにしろ,自律神経が関与する不安神経症を基調にするにしろ,その発生機序は十分に理解されていない。したがって治療法も確立されていないが,心臓症状の強いものに対して心臓血管系に異常のないことを説明するのみでは不十分であり,薬物療法,精神療法が必要となる。予後は一般的に良好であり,早死にするとか器質的心疾患に進展するということはない。しかし心臓神経症と診断される患者では数年間生活が制限される例が多い。
執筆者:柳沼 淑夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
精神的原因によって心臓および循環器の器質的疾患と類似の症状を呈する症候群であり、別に類似の概念として神経循環無力症neurocirculatory asthenia(NCA)がある。発症年齢は各年齢層に及ぶが、20~40歳代にもっとも多く、女性にやや多い。前胸部痛と呼吸困難の2症状がほとんどの場合に必発し、ほかに動悸(どうき)(心悸亢進(こうしん))、めまい、頭痛、振戦(ふるえ)などが比較的高頻度で認められる。これらの多彩な自覚症状に比べ、心電図などの各種心血管系検査における所見に乏しいことが特徴である。治療は、患者の精神的ストレスや不安感を除去することが基本であり、トランキライザー(精神安定剤)が適宜用いられる。それぞれの精神状態に応じた治療が行われ、予後は一般に良好である。
[井上通敏]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…痛みの性質は,圧迫されるような,胸焼けのような,板をはりつけられるような,といったぼんやりした苦しみとして表現されることが多いが,針や焼火ばしを刺されるような鋭い強い痛みと表現されることもある。しかし,ちくちく,ずきずきといった表在的で,一定の範囲を明確に指し示すことはまれで,このような痛みは心臓神経症に多い。狭心症では痛みとともに,動悸や息苦しさを感じたり,冷や汗・脂汗・めまいなどを伴うこともある。…
※「心臓神経症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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