心臓腫瘍

内科学 第10版の解説

心臓腫瘍(心膜疾患)

(1)心臓腫瘍の発生率・種類・臨床症状
 心臓の腫瘍はまれな疾患であるが,近年の画像検査の発展により検出率が増加してきている.心臓の腫瘍は,原発性腫瘍(良性・悪性),および転移性腫瘍に分類される.剖検による検討では原発性腫瘍の発生頻度は約0.02%であり,その3/4が良性,1/4が悪性である.一方,転移性腫瘍の発生頻度はその20~40倍との報告があり,全悪性腫瘍患者の10%以上に認められ, なかでも黒色腫(melanoma)患者では約50%と高率である.原発性良性腫瘍の約50%が粘液腫(myxoma)であり,ほかに横紋筋腫,脂肪腫,血管腫,房室結節中皮腫,乳頭線維腫,奇形腫などがあげられる.原発性悪性腫瘍のほとんどは肉腫であり,次にはリンパ腫があげられる.心臓腫瘍は無症状の症例も多く,症状の出現は腫瘍の解剖学的部位や大きさに依存する.胸痛(狭心痛を含む),失神,心不全,心雑音,不整脈,伝導障害や心膜液貯留といった心症状のほかに,塞栓症状や全身症状(発熱,悪寒,倦怠感,不快感,体重減少)など多彩である.心臓腫瘍については経胸壁・経食道心エコーにより90%以上の検出が可能であり,積極的に検査を行うことが診断に重要である(表5-13-5).
(2)原発性腫瘍
a.心臓粘液腫(cardiac myxoma)
 すべての心臓腫瘍の1/3〜1/2を占め,外科的治療症例の約3/4を占める.あらゆる年齢層にみられるが30~50歳代が好発で,約2/3が女性,90%が散発性で10%が家族性である.Carney症候群は常染色体優性遺伝を示す家族性の症候群で,①粘液腫(心臓,皮膚,乳腺),②ほくろ,色素性母斑,および③内分泌機能亢進(副腎皮質機能亢進(Cushing症候群),精巣腫瘍,下垂体腺腫,甲状腺腫など)を伴う.原因にPRKAR1A(protein kinase A, regulatory subunit 1A)およびMYH8 (non-PKA phosphorylated perinatal myosin isoform)の変異が関与することが知られている.粘液腫は病理学的にはゼラチン様構造で,グリコサミノグリカンに富んだ基質の中に粘液腫細胞が存在する.大部分は有茎性で茎は血管結合組織からなり,直径は平均4~8 cmである.好発部位は卵円窩付近であるが,家族性では心室から発生するものもあり,再発率が高い(左房83%,右房13%,心室4~5%).
 粘液腫は多くの場会閉塞による症状を呈し,腫瘍の僧帽弁口逸脱による狭窄や,弁障害による閉鎖不全を起こす.心室粘液腫では大動脈弁下部や肺動脈弁下部の狭窄症状を起こすこともあり,突然死の原因にもなる.姿勢により位置を変えることにより症状が変化し,僧帽弁開放音(opening snap)に類似したtumor plopや拡張期ランブル音,収縮期雑音が聴取されることもある.塞栓症の頻度も高く(40~50%),粘液腫の表面が不規則なもの,乳頭様・葉状のものが起こしやすい.脳は心源性塞栓症の部位として最も頻度が高く,腎,四肢,冠動脈,網膜中心動脈にも起こり,細菌性心内膜炎が否定された心源性塞栓症の鑑別にあげられる.感染性粘液腫として,血液培養陽性例もある. 体重減少,倦怠感,発熱,貧血,赤沈亢進,炎症反応,血漿免疫グロブリン濃度上昇,ばち指などの症状を訴えることもあり,これはおもに腫瘍のインターロイキン6産生によると考えられる.エリスロポエチン産生による多血症も報告されている.Raynoud症状陽性例もあり,膠原病や血管炎に類似する症例もある.
 胸部X線,心電図では特異的所見は乏しいが,左房拡大や心拡大,肺高血圧に注意が必要である.経胸壁・経食道心エコーが最も有用であるが,腫瘍の範囲を定めるために,造影CT,MRI,PETも有用である(図5-13-34).心臓カテーテル検査は従来ルーチンに行われてきたが,侵襲に伴う塞栓のリスクもあり,適切な非侵襲的方法で情報が得られ,ほかの心疾患の合併がないと考えられるときには必須ではない.患者が若年で多発性の場合は兄弟姉妹を含む近親者の心エコースクリーニングも考慮する.
 人工心肺下の外科的手術で腫瘍の大きさにかかわらず根治が期待できる.粘液腫の再発は,孤発性は1
~2%,家族性は12~22%見込まれ,術後の心エコー検査による経過観察を要する.
b.その他の良性腫瘍
 鑑別は組織診であり,より低侵襲の方法が望まれる.心膜液穿刺や胸水穿刺による細胞診やエコーガイド下の心膜・心筋生検が行われるが,最終診断に縦隔鏡下生検や開胸生検が必要な場合もある.心臓脂肪腫や脂肪腫様肥大では血行動態への悪影響や不整脈・刺激伝導系への障害がなければ外科的摘出の適応とはならない.乳頭状弾性線維腫は弁膜の腫瘍としては最も多く,たいていは無症状である.しかし,弁機能障害や塞栓症の基礎疾患となりうるために無症候性でも外科的切除を考慮する.横紋筋腫・線維腫は小児期の心臓腫瘍として頻度は高く,おもに心室に発生して拘束性の血行動態障害や弁狭窄,うっ血性心不全を引き起こす.横紋筋腫は多くは多発性で結節性硬化症にも合併し,過誤腫と考えられている.退縮する症例もあり,血行動態への悪影響により手術が考慮される.線維腫は多くは孤発性でしばしば石灰化を伴い,拡大することが多く手術を考慮すべきである.血管腫や中皮腫は一般に小さく心筋層内に発症するが,房室伝導障害や若年生突然死の原因になりうる.
c.原発性悪性腫瘍
 ほぼすべての心臓原発悪性腫瘍は肉腫であり,多くは血管肉腫である.通常は右房,心膜から発症して一部は心腔内を占め,右心不全や血性心膜液による心タンポナーデを併発する.2番目に多いのが横紋筋肉腫であり,あらゆる場所から発症して少なくとも1つの弁口の閉塞症候を呈する.ほかにも線維肉腫や粘液肉腫の報告があり,いずれも進行が速くて手術不適例が多く予後不良である. 心臓原発性リンパ腫はまれであるが,心肺移植時にEbsteim-Barrウイルス感染に合併して発症することもある.症状は多彩で,心不全,不整脈,心タンポナーデなどを引き起こす.肉腫と比較して,放射線・化学療法に良好に反応する症例が多い.
d.転移性腫瘍
 心臓への転移が他臓器より少ないのは,その拍動性運動,代謝特性,速い冠血流,およびリンパによる排泄が関与していると考えられるが,近年患者の生命予後が改善するに従い頻度が増えている.絶対数は肺癌と乳癌が多く,頻度としては次に黒色腫,白血病,リンパ腫が多く,注意が必要である.症状は良性腫瘍と同様に多彩であり,腫瘍の進展により変化する.心エコーは腫瘍の進展と心膜液貯留の評価に有用であり,CT,ガリウム・タリウムシンチも有用である.MRIはすぐれた画質で質的診断も可能であり,良性との鑑別に有用なこともある.心臓転移が見つかる症例は一般に悪性腫瘍が進行しており,対症療法が中心となるが,腫瘍の種類によっては放射線療法・化学療法が著効する場合もある.照射が20~40 Gyをこえた場合には心筋障害に注意する.心膜液貯留は速やかに再発するために,治療的心囊穿刺が必要なことも多く,硬化剤投与や心膜開窓術も考慮される.
e.心膜腫瘍
 心膜では中皮囊腫が最も発生頻度が高く,30~40歳代が好発で,右肋膜・横隔膜角に発見される.奇形腫は新生児,特に女子に多く,胎児心エコーで診断可能である.中皮腫は心臓・心膜悪性腫瘍では第3位であり男女比は2:1,30~50歳代が好発である.摘除不能な症例が多く,放射線治療や薬物治療がなされるが,予後不良である.[足立 健]
■文献
Awtry EH, Colucci WS: Tumors and trauma of the heart. In: Harrison’s Principle of Internal Medicine 17th ed (Fauci AS, Braunwald E, et al), pp1495-1498, 2008.
Bruke A. Virmani R: Atlas of tumor pathology. In : Tumors of the Heart and Great Vessels. p231, Armed Forces Institute of Pathology, Washington DC, 1996.
Meng Q, et al: Echocardiographic and pathologic characteristics of primary cardiac tumors: a study of 149 cases. International Journal of Cardiology, 84: 69-75, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科の解説

心臓腫瘍
しんぞうしゅよう
Cardiac tumor
(循環器の病気)

どんな病気か

 心臓に発生する腫瘍で、心臓自身から発生するもの(原発性心臓腫瘍)とほかのがんが心臓に転移するもの(転移性心臓腫瘍)とがあります。原発性心臓腫瘍の頻度を表21に示しました。最も多い心臓腫瘍は粘液腫(ねんえきしゅ)で、左心房(さしんぼう)内が好発部位です。

症状の現れ方

 腫瘍の大きさや発生部位によって、症状の現れ方が異なります。ほかの病気の検査を行っている時に偶然見つかる場合もあります。粘液腫ではしばしば、貧血、発熱、()疲労感などの全身症状を伴います。腫瘍が大きくなって血液の流れを妨げるようになると、浮腫(ふしゅ)や呼吸困難などの心不全症状がみられます。

 腫瘍が弁にはまり込み失神や突然死を起こしたり、腫瘍の一部がちぎれて脳梗塞(のうこうそく)を生じ、片麻痺(かたまひ)などが出現することもあります。

検査と診断

 心エコー検査で腫瘍の存在部位や大きさを同定できます。CTやMRI検査を行うと、腫瘍の性質や周囲との関連がさらに詳しくわかります。ガリウムシンチグラフィーやPET検査を行い、腫瘍の鑑別診断を行うこともあります。

 粘液腫では、しばしば血液検査で貧血、赤血球沈降速度の亢進、ガンマグロブリン上昇など、慢性の炎症所見が認められます。

治療の方法

 一般的には腫瘍の摘出を考慮しますが、発生部位によっては切除不能な場合もあり、悪性腫瘍では抗がん薬の点滴が行われることもあります。

病気に気づいたらどうする

 心臓腫瘍と診断されたら、循環器内科医や心臓血管外科医を受診し、治療方針を検討します。

矢崎 善一


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館の解説

しんぞうしゅよう【心臓腫瘍 Cardiac Tumors】

[どんな病気か]
 心臓腫瘍は、心臓病全体の0.1%と少なく、腫瘍全体の約80%が良性腫瘍で、悪性腫瘍は20%にすぎないのですが、たとえ良性腫瘍でも生命にかかわることが多い点が問題です。
 良性腫瘍は、心臓そのものから発生したもので(原発性(げんぱつせい)心臓腫瘍)、もっとも多いのは粘液腫(ねんえきしゅ)(30~50%)と横紋筋腫(おうもんきんしゅ)(20%)ですが、そのほかに線維腫(せんいしゅ)、脂肪腫(しぼうしゅ)、血管腫(けっかんしゅ)などがあります。
 悪性腫瘍は、原発(げんぱつ)性のものもありますが、多くは他の部位から転移してくるがんによるものです。
 近年、がんにかかる人の増加や延命率が向上したことにより、転移性心臓腫瘍が以前より増えてきています。
 肺がんからの転移がもっとも多く、ついで胃がん、胆道(たんどう)がん、大腸(だいちょう)がん、腎(じん)がん、膵臓(すいぞう)がんの順になります。
 転移する部位は心膜(しんまく)が多く、リンパ行性(リンパ液の流れにのってきたもの)か、直接組織に入り込むものがほとんどです。
[症状]
 心臓腫瘍の症状は、医師もくびをかしげたくなるようなおかしな症状のことが多く、これがあれば心臓腫瘍とわかるような、特有な症状はみられません。
 心臓腫瘍のなかでもっとも多い粘液腫の場合には、腫瘍が弁膜(べんまく)の間にはさまって血液の流れを止めてしまい、失神(しっしん)(気絶)したり、急死したりすることがあります。失神をてんかん発作(ほっさ)とまちがわれ、どうもおかしいとようすをみているうちに急死し、解剖(かいぼう)して初めて心臓腫瘍とわかったという例もあります。
 また、やわらかい粘液腫の一部がちぎれ、脳まで流れていってつまり、脳梗塞(のうこうそく)の症状をおこすこともあれば、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)、とくに僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう)によく似た症状が現われることもあります。
 そのほか、粘液腫があると、発熱、関節痛、血沈(けっちん)の亢進(こうしん)などの関節リウマチによく似た症状が現われ、リウマチ性の心筋炎(しんきんえん)とまちがわれることもあります。
 横紋筋腫は、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)と同じように筋肉(心筋)の中に発生してくる良性腫瘍で、乳幼児に多く、たちの悪い不整脈(ふせいみゃく)をおこしてきたりします。
 しかし、腫瘍があっても目立った症状が現われず、気づかずに一生を過ごすこともあって、必ず重症になるとはかぎりません。
[検査と診断]
 最近では、心臓超音波検査や、胸部CTスキャン、MRIなどの画像診断の発達により、早期の診断ができるようになりました。
[治療]
 良性の心臓腫瘍、とくに粘液腫の場合は、手術で腫瘍を摘出(てきしゅつ)すると劇的に症状が消えます。
 悪性腫瘍の場合は、一般に予後はよくありませんが、一部分のみの腫瘍であれば摘出手術が可能です。それ以外では、放射線療法や化学療法を行ないます。ただし、転移性の悪性腫瘍には特別な治療法はありません。もととなる腫瘍の、心臓に転移する前の治療が重要です。

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