忌み詞(読み)いみことば

精選版 日本国語大辞典 「忌み詞」の意味・読み・例文・類語

いみ‐ことば【忌詞・忌言葉】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 忌み慎んで言わないことば。宗教上の理由、または不吉な意味を連想させる発音によって、使うのをきらうことば。斎宮での「仏」「経」「僧」、婚礼の時の「去る」「帰る」、正月三が日の「坊主」「箒(ほうき)」「ねずみ」などの類。
    1. [初出の実例]「それぞれに忌(イミ)こと葉(バ)のあるぞかし」(出典咄本・軽口露がはなし(1691)二)
  3. の代わりに用いることば。斎宮での「仏」を「中子(なかご)」といい、民間での「剃(そ)る」「葦(あし)」「梨(なし)」を「あたる」「よし」「ありの実」などという類。いみこと。〔延喜式(927)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「忌み詞」の意味・わかりやすい解説

忌言葉/忌詞 (いみことば)

特定の時や場所で口にしてはならない言葉やその代りに用いる言葉をいう。忌言葉山言葉沖言葉,正月言葉,夜言葉,縁起言葉などに分けられる。忌言葉は,宗教儀礼における〈忌〉の一つの形式で,神や神聖な場所に近づく際には不浄なものや行為を避けるだけでなく,それを言葉に出していうことも忌み,代用語を用いていい表したことから生まれたと考えられている。山言葉は猟師などが山中で使うのを忌む言葉であり,沖言葉は船乗り漁師海上で口にするのを忌む言葉をいう。沖言葉は山言葉ほど多くはないが,両者には共通する言葉もみられる。山と海は,この世とは異なった世界と考えられ,出産や死の穢れ(けがれ)を嫌うなど,清浄であるべきだとされたのであり,縁起の悪い言葉や日常の言葉を避けたのである。正月言葉や夜言葉も同様に,正月や夜という神聖な時に使用を忌む言葉であり,正月には寝ることを〈稲積む〉,猫を〈皮袋〉,ネズミを〈嫁の君〉といい,夜には塩を〈波の花〉などという。主に婚礼で用いられる縁起言葉もこの延長上にあると考えられ,終りを〈お開き〉といったり,切るという言葉を避けたりする。ふだんでも,するめを〈あたりめ〉,梨を〈ありのみ〉,ひげをそるを〈ひげをあたる〉などというが,これは忌言葉の観念が日常生活全般にまで拡大されたものといえる。一方宗像大社の鎮座する福岡県の沖島を〈御言わずの島〉,出羽三山を〈あなた山〉,また神木を〈名なしの木〉という例のように,神聖なものを直接口にするのを忌む場合もある。ほうきをナデといったり,特定の木を〈なんじゃもんじゃの木〉という例も,神の宿る呪具や木の名前を口にするのを避けたためであろう。忌言葉には,不浄なものや縁起の悪い言葉を避ける面と,神聖なものを避ける面の二つの側面がみられ,忌み意識に基本的に含まれる清浄と穢れという二つの観念に由来すると考えられる。
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百科事典マイペディア 「忌み詞」の意味・わかりやすい解説

忌言葉【いみことば】

ある言葉の使用をきらい,その代りに用いる語。古く斎宮忌詞・斎院忌詞などがあり,仏を中子(なかこ),経を染紙(そめがみ),僧を髪長,死ぬを奈保留(なほる),病を夜須美(やすみ),血を阿世(あせ)などといった。年神を迎える正月言葉では寝るを稲積む,ネズミを嫁が君といい,夜言葉では塩を浪(なみ)の花,糊(のり)をお姫様という。また猟師の山言葉,漁民の沖言葉などがある。
→関連項目禁忌(民俗)

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世界大百科事典(旧版)内の忌み詞の言及

【言霊】より

…ことばに宿る霊の意。古代の日本人は,ことばに霊が宿っており,その霊のもつ力がはたらいて,ことばにあらわすことを現実に実現する,と考えていた。言霊という語は,《万葉集》の歌に,3例だけある。山上憶良の長歌に,〈そらみつ 倭(やまと)の国は 皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国 言霊の 幸(さき)はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり〉(巻五)とうたわれ,《柿本人麻呂歌集》にも収める歌には,〈言霊の八十(やそ)の衢(ちまた)に夕占(ゆうけ)問ふ占(うら)正(まさ)に告(の)る妹(いも)はあひ寄らむ〉〈磯城島(しきしま)の日本(やまと)の国は言霊の幸(さきは)ふ国ぞま幸(さき)くありこそ〉とうたわれている。…

【サル(猿)】より

…ヒトにもっとも近縁な動物で,ヒトとともに哺乳綱霊長目をなす。もともとニホンザルを指すことばであったが,現在ではヒト以外の霊長類の総称として用いられ,狭義には,真猿類のオマキザル科とオナガザル科の種を指す。英語では,尾の長いサルをmonkey,尾のないサルをape,原猿類をlemur,またはprosimianといっている。 いわゆるサルということばから連想するイメージは,賢そうな顔つきや目つきをもち,木登りがうまく,手先が器用で,果実や木の実を好み,群れをなして森の中でくらしている動物といったものであろう。…

【狩猟伝承】より

…狩猟に従事する人々が仲間の慣行あるいは習俗として前世代の指導者から受け継ぎ,あるいは自己の世代の体験や知識として次代の青年たちに教えこんできた行為,信条,知識などの総称。現代の狩猟免許法は,この種の知識の有無にかかわらず一定の技術水準に達していればだれでも狩猟することを認めており,またそれらの人々はこれらの伝承をおしなべて迷信としてしりぞける風潮が強くなってきたので,その大半は急速に消滅に向かいつつある。…

【山言葉】より

…海上で用いられる沖言葉に対して山中で使用する忌言葉の一種。山中を俗界である里(さと)と区別するための特殊な用語で,食事,食物,食具,鳥獣,狩猟用具,性などに関する語が主要なものである。地方によって表現法や使用場所に若干のちがいがあるが,山言葉を有する地域は南は沖縄から北は下北半島に及び,狩猟者,伐木業者などの間では現在もこれが守られる場合がある。とくに猿,蛇,猫などの動物名をそれぞれ〈キムラ〉〈ナガムシ〉〈マガリ〉などと呼びかえる点は漁民にも共通し,両者の信仰に共通なもののあったことを考えさせる。…

※「忌み詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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