思春期医学(読み)ししゅんきいがく

改訂新版 世界大百科事典 「思春期医学」の意味・わかりやすい解説

思春期医学 (ししゅんきいがく)

思春期の健康管理疾病などについて扱う医学の一分野。従来の医学は,年齢的に15歳(中学生)までは小児科にかかり,16歳以上は成人として内科や外科にかかって治療をするように区分されていた。最近,老化や老人社会が問題化するに及んで老人(病)科が独立するようになったが,同時に子どもから大人への移り変りの時期の重要性が注目されるようになった。思春期の定義は,医学のなかでも男女,小児科,婦人科,精神科,社会医学など領域によって一定していないが,およそ次のとおりである。〈性器以外の男女の特徴の違い,すなわち二次性徴が出現しはじめた時期から,それらが完成し,同時に性機能(生殖能力)が確立するまでの期間で,広い意味では身体的ならびに精神的に完成した成人となるまでの期間〉である。このように生殖能力の発育過程と考える立場と人間が個体として完成する過程と考える立場とで多少意味が異なる。ここでは狭いほうの前者の解釈で述べることにする。

ホルモンの面からみると,女性は男性よりも早く,7~8歳ごろから性ホルモン分泌が開始し,9~10歳ごろから乳房発育や腋毛や陰毛の発生が徐々に進行し,12~14歳ごろに初潮(初経)がみられ,しだいに月経周期が順調になるようになって,およそ18歳ごろにほぼ完成をみる。一方,男性はやや遅く,9~10歳ごろから性ホルモンの分泌が始まり,12歳ごろから陰茎発育や腋毛,陰毛,ひげなどの発生がみられるようになって,14~15歳ごろに夢精を経験し,生殖能力を獲得するが,完成するのは女性よりも遅く,20歳ごろまで要する場合もある。このように男女とも12~14歳ごろには一応の生殖能力を備えるようになるが,精神的に未熟なために,一人前の成人として扱うことはできない。

 この思春期は身体的にも精神的にも発育過程にあるために,きわめて不安定な時期で,この間の健康管理は正常な能力を発揮しうる成人を育成するためにきわめてたいせつで,とくに思春期医学とよばれる理由である。この時期に医学的に注意すべき問題点としては次のようなものがある。

(1)性機能の正常な発育は身体的ならびに精神的発育と並行する関係にあるから,定期的な管理による異常の早期発見がたいせつである。心身の発育が停止してしまってから治療してもすでに手遅れの場合が多い。

(2)病気の治療に当たっては,単に病気を治せばよいのではなく,心身の発育を障害しないような配慮が必要である。

(3)発育期の不安定性に原因した病気があり,とくに精神的不安定が特徴であるから,診療や周囲の看護面での注意が必要である。

(4)このような管理と治療を行うためには思春期発現の機構と実態とをよく理解しておかねばならない。

(5)思春期は学童期の後半に始まり,高校時代に及ぶ長期間にわたるので,家庭はもちろんであるが,学校での健康管理がきわめて重要であり,そのなかでも性機能に関するチェックを恥ずかしがったり,汚いものという目でみないで,積極的に医師に相談する必要がある。

(6)性機能はいちおう完成するが,精神的には未熟であるという理由で,正しい性知識を与える性教育がたいせつである。

次に頻度の高い病気やとくに注意しなければならない異常を簡単に述べる。

(1)思春期早発症性早熟症) 8~9歳以前に二次性徴が出現し,女性では月経をみるものがある。この病気は初めは身体発育が早いが,まもなく停止して,結果的には低身長に止まる。性ホルモンの早期分泌が原因なので,それを抑制するような治療を少なくとも10歳ごろまで続けなければならない。

(2)脳下垂体性小人症 脳下垂体からの成長ホルモン分泌不良による病気である。発育が止まってからでは手遅れなので,早期発見治療が必要であるが,なかなか困難である。

(3)性分化異常 性染色体異常や性腺睾丸卵巣)形成不全症とよばれる一種の先天異常。治療の方法はないが,早期発見により,その子どもの将来計画をたてるとともに,周囲から差別されないような,また卑屈感を与えないような教育と配慮がたいせつである。

(4)潜伏睾丸 睾丸が鼠径(そけい)管内にあって,陰囊内に下垂していないものをいう。そのままでは男性ホルモン分泌も悪く,精子形成も不良なので,ホルモン療法や手術により睾丸を下げる治療を行う。

(5)月経異常とくに遅発月経 通常月経は12~14歳ごろに始まるので,15歳になっても月経をみない女子は,種々の検査をして原因を調べ,月経を発来させるような治療をする。18歳になっても月経のないものを原発無月経というが,そのなかには上述の性分化異常も多く含まれているが,そうでなくてもあまり遅くなると卵巣や子宮が治療に反応しなくなってしまう。一方,月経不順は長期の無月経でないかぎりあまり心配はない。機能性子宮出血とよばれる月経様出血の長引くものは貧血に注意して治療する。この時期の月経困難症は排卵を伴う証拠なので,鎮痛剤を服用するくらいで心配はない。
月経
(6)神経性無食欲症 神経性食思不振症などともいう。やせたいために食事を制限しているうちにまったくの拒食となり,極度にやせる病気で,女子に多く無月経となる。幼時に自閉症や登校拒否などのあった子どもに多く,一種の成熟拒否症と考えられている。むしろ精神科的治療がよいとされている。

(7)その他 この時期には,肥満とやせ,登校拒否,非行など心身ともに異常が発生しやすい。これらの原因には上述の身体発育のアンバランスのほかに,成人に対する反発,成人化することに対する拒否などさまざまな精神的不安定性があるから,精神衛生的な総合的管理が必要で,社会的な対策も忘れてはならない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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