悪霊(霊的存在)(読み)あくりょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「悪霊(霊的存在)」の意味・わかりやすい解説

悪霊(霊的存在)
あくりょう

人間災禍、不幸をもたらす邪悪な霊的存在のこと。ただし悪魔、悪鬼、精霊死霊などとの区別はあいまいである。また善霊との境界も明らかでなく、同一の霊的存在が善悪両面をもつ場合が少なくない。日本では祟(たた)りをなす霊魂を御霊(ごりょう)とよんで恐れた。御霊はこの世に恨みを残して死んだ高貴な人の霊魂で、神として祀(まつ)り上げることによってその怒りや恨みを鎮める。民間でも無縁仏非業(ひごう)の死を遂げた者の霊が人々に危害を与えるという信仰が各地にみられる。また疫病(えきびょう)や虫、鳥、獣などの農作物に対する害は悪霊のためであるとして村の外へ送り出す行事もある。キツネヘビ、犬神、生霊などの憑(つ)き物もしばしば悪霊とよばれる。諸外国でも悪霊信仰は多く、とくに妖術(ようじゅつ)信仰や精霊憑依(ひょうい)信仰との結び付きが強い。

 悪霊はさまざまな面で善、神に対するもの、あらゆる意味で邪悪なもの、あるいは周辺的なものとイメージされる。すなわち、薄暗い所に潜み、夜に活動し、醜悪な姿、性的に異常、貪欲(どんよく)、人肉嗜好(しこう)、不幸を喜ぶ、気まぐれ、といった反社会的、反文化的性格を備え、その出自も他民族、他部族、他村などに求めることが多い。このような悪霊信仰は、人間が幸福を願い、そして現実には多くの不幸がある限り、その説明原理として、善霊や神の対立物として、道徳的、社会的秩序の対立物として、あるいは人間の心や社会に潜む悪の告白として必要であるともいえる。

[板橋作美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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