改訂新版 世界大百科事典 「所有権留保」の意味・わかりやすい解説
所有権留保 (しょゆうけんりゅうほ)
Eigentumsvorbehalt[ドイツ]
AがBに何かある物を売る際に,Bに引き渡された物の所有権が,代金完済までは売主Aに留保されること。民法に直接の規定はないが,代金の支払を確実にさせる一種の担保として特約で行われる。もともと,売った品物の先渡しをし,所有権まで移しても,Bが代金を支払わないときには,Aは,債務名義に基づいてBの財産に対し強制執行をかけることができるし,また,支払を督促したうえで契約を解除して,その物を取り戻せる。しかし,強制執行は手間がかかり,督促つき解除もめんどうである。さらに,Bの債権者やBから転売を受けた者が出てきたときは,Aとの優劣が問題となってやっかいである。所有権留保の特約を失権約款とともに用いておけば,これらの問題もかなり片づく。そこで,割賦払いで商品を販売する場合には,この方法がひろく利用され,割賦販売法7条も,政令で指定した耐久商品の割賦販売では,代金全部の支払があるまで商品の所有権は販売業者に留保されたものと推定している。もっとも,不動産の割賦販売を宅建業者が行うときには,所有権留保は制限されていて(宅地建物取引業法43条参照),不動産に関してはあまり大きな機能を有していない。
所有権留保は,代金債権の回収を安全にするための〈担保〉という意味をもつから,対象となる物が抵当権の設定を許す場合には,どちらの方法も使える。たとえば自動車の割賦販売では,自動車抵当法(1951公布)により,売買と同時に所有権をBに移して,Aはそれを抵当にとることもできるし,代金完済まで所有権をAに留保することもできる。ただし,実際には後者が多いであろう。
所有権留保売買が行われた場合,品物は買主Bに引き渡されているから,Bはもちろんそれを利用できる。しかし,所有権は代金完済まで売主Aにあるから,Bはその物を他人Cに転売してはならないし,Bの債権者がその物を差し押さえてきたときには,Aは所有者としてそれを排斥できる(民事執行法38条)。もっとも,Bが転売してしまった場合に,Cの側で所有権留保つきであるのを注意してもわからなかったときは,Cが即時取得によって所有権を取得でき,所有権留保をした意味はかなり減殺される(これを防止するためには,品物に付けるネーム・プレートが有効である)。つぎに,Bが代金の支払をとどこおった場合には,Aは売買契約を解除して品物を引き上げることができるが,割賦販売法では買い手にとってあまり酷なことにならぬよう配慮している(5,6条)。なお,自動車販売において,ディーラーAがサブディーラーBとの間で所有権留保の特約をしていたところ,Bの不払があったために契約を解除し,すでに代金を完済したユーザーから自動車を取り戻そうとするのは,権利濫用になって許されない,という最高裁判所の判例がある。
執筆者:椿 寿夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報