手首を拘束して両腕の自由を奪う鉄製瓢簞(ひようたん)形の腕輪で,江戸時代に庶民に対する軽い刑罰や未決勾留の方法として使用された。幕府法上,刑罰としての手鎖(御咎(おとがめ)手鎖,過怠(かたい)手鎖)には100日,50日,30日の3等級があり,100日の場合は隔日,50日以下の場合は5日目ごとに奉行所に出頭させて封印(中央のくびれた部分に紙をはって押印してある)を改める。過料と相互に代替することが可能で,また過料に併科(二重御仕置)する場合もあった。未決勾留は,軽微な犯罪ではなるべく入牢させず,公事宿(くじやど)や親類,町村役人に預けて監禁する宿預(やどあずけ)や村預等の方法が行われ,手鎖も併用された(吟味中手鎖)。このほか金銀出入り(金公事(かねくじ))で敗訴した債務者が弁済に応じない場合に,督促する手段としても用いることがあった。手鎖を外した者は,過怠手鎖であれば定めの日数の2倍,吟味中手鎖であれば100日の手鎖がそれぞれ科される。明治以後はもっぱら戒具として使用され,刑罰としては消滅した。
執筆者:神保 文夫
おもに戒具として,逮捕等に伴う身体の拘束および引致のための手段として使用される場合と,監獄,少年院,留置場等の紀律および秩序の維持のための手段として使用される場合とがある。前者の場合には金属製,後者の場合には金属製および革製のものが用いられている。使用の要件および手続については,前者の場合,法律で規定されておらず,警察官等の司法警察職員や検察官等は,逮捕等のために必要かつ合理的な限度において使用することができるものと解されており,そのうち警察官については,国家公安委員会規則たる犯罪捜査規範の127条が,逮捕の際における手錠の使用に当たっては,過酷にわたらず,衆目に触れないように努めなければならないこと等を定めている。後者の場合については,監獄法19条,少年院法14条の2等が,被拘禁(収容)者が逃亡・暴行または自殺をするおそれがある場合等に使用することができること等を定めており,留置場についても,国家公安委員会規則たる被疑者留置規則の20条がほぼ同様の規制をしている。
また,これら二つの場合のほか,まれに自己または他人に危害を加えるおそれのある泥酔者等を警察官が保護するに際して,ほかに手段がないときに手錠を使用することもある(警察官職務執行法3条)。なお,手錠を施されたまま取調べを受けた被疑者の供述の証拠能力が問題となることがあるが,そのような供述の任意性については,反証のないかぎり一応の疑いをさしはさむべきであるとする最高裁の判例がある。
執筆者:片桐 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
江戸時代に庶民にだけ科せられた刑罰。罪人の両手に手鎖をかけ、これに封印する。手鎖には、裁判中に被疑者に施す吟味中手鎖と、刑罰としての過怠(かたい)手鎖とがある。公事方御定書(くじかたおさだめがき)によれば、過怠手鎖は、過料を出すべき者に財産がなく、過料が払えないときに科したのである。過怠手鎖には、罪の軽重によって、30日、50日、100日の別があるが、百日手鎖の者については隔日にその封印(美濃(みの)紙をはって役人が押印)を調べ、五十日手鎖の者については5日目ごとに調べることにしている。手鎖を外したり、これを助けた者の刑は古くは非常に重く、死刑が科せられたが、公事方御定書では軽くなり、過怠手鎖をかってに外した者には、定めの日数の2倍の日数の手鎖を、手鎖を外してやった者は過料刑に処すべきものとしている。
[石井良助]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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