〘自カ下一〙 ぬ・く 〘自カ下二〙
[一] 突き破って
向こう側へ出る。また、ある位置や標準の上に出る。
① こちら側からあちら側へつらぬき通る。比喩的に、道が通じる、あるものの間を通って向こうへ行くなどの意にも用いる。
※俳諧・
続猿蓑(1698)上「
春風に普請のつもりいたす也〈惟然〉 藪から村へぬけるうら道〈支考〉」
※倫敦塔(1905)〈
夏目漱石〉「建物の下を潜って向へ抜ける」
② 他より優れる。ひいでる。ぬけでる。
※
源氏(1001‐14頃)藤裏葉「心いられせですぐされたるなん、すこし人にぬけたりける御心とおぼえける」
③ 優れたものとして選び出される。
※洒落本・美地の蛎殻(1779)「
江の島も跡を出す気の汐干潟といふ句がぬけたのサ」
④ 他より先に進む。また、出世する。
⑤ 城などが、攻められて落ちる。
※
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「其の容易に抜けざるを察して攻撃を止めければ」
⑥ 一定の金額以上になる。また、利益をあげる。
※
滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「浮世風呂もこれで三編。板元の金設
(かねもうけ)、又ずっしりとぬけました」
[二] はまっているもの、付いているものがとれてなくなる。
① はまっていたものが、そこから離れとれる。
※平家(13C前)四「
太刀をぬいて戦ふに〈略〉目ぬきのもとよりちゃうど折れ、くっとぬけて」
※
内地雑居未来之夢(1886)〈
坪内逍遙〉七「flask
(フラスコ)の栓などが抜
(ヌケ)たるにあらずや」
② 特に、からだについている、毛、歯などがとれる。
※枕(10C終)七五「毛のよくぬくるしろがねの毛抜き」
③ 勢いや力などがなくなる。また、ある習慣、性質や熱、味、香などが消える。また、備わっていたもの、あるべきものがなくなる。「かぜが抜ける」
※義経記(室町中か)五「腰やぬけたりけん、
高這(たかばひ)にして
三方へ逃げ散る」
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉八「兎角に内地のみを目当にして、取引したる癖は今尚ぬけず」
※いさなとり(1891)〈
幸田露伴〉六七「次第次第力衰へ勢抜くるを見るよりも」
④ ある場所から逃げ去る。のがれ出る。ぬけだす。また、抜け参りをする。
※
平治(1220頃か)中「ここにあってはあしかりなんと思ひ給ひて、足にまかせてぬけ給ふ程に」
※俳諧・続猿蓑(1698)夏「いそがしき中をぬけたる涼かな〈游刀〉」
⑤ うまい言いわけをして
追及をのがれる。言いぬける。
※咄本・軽口御前男(1703)二「『
八卦に問はれよ』といふ。山伏聞て『されば八卦で見たれば、その方に問ふてゆけとあるほどに、それで問ひます』とぬけられた」
※にごりえ(1895)〈樋口一葉〉二「左様ぬけてはいけぬ、真実の処を話して聞かせよ」
⑥ 仲間からはずれる。また、あるべきものが脱落したり、すべきことを忘れたりする。もれる。「五字抜けている」
※新撰大阪詞大全(1841)「ぬけるとは、わするること」
※咄本・当世軽口咄揃(1679)二「少ぬけたるおとこ」
※女難(1903)〈
国木田独歩〉五「人のよい、悪く言へば少し抜
(ぬ)けて居るやうな処が見えて」
⑧ 取引市場で、利益を得た買い玉を転売して逃げ退く。