(読み)バツ

デジタル大辞泉 「抜」の意味・読み・例文・類語

ばつ【抜〔拔〕】[漢字項目]

常用漢字] [音]バツ(呉) [訓]ぬく ぬける ぬかす ぬかる
引きぬく。「抜歯抜刀抜本不抜
多くのものの中からそのものだけを選び取る。「抜粋抜擢ばってき簡抜
他のものより特にぬけ出ている。「抜群奇抜警抜秀抜卓抜

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「抜」の意味・読み・例文・類語

ぬ・ける【抜】

〘自カ下一〙 ぬ・く 〘自カ下二〙
[一] 突き破って向こう側へ出る。また、ある位置や標準の上に出る。
① こちら側からあちら側へつらぬき通る。比喩的に、道が通じる、あるものの間を通って向こうへ行くなどの意にも用いる。
※俳諧・続猿蓑(1698)上「春風に普請のつもりいたす也〈惟然〉 藪から村へぬけるうら道〈支考〉」
※倫敦塔(1905)〈夏目漱石〉「建物の下を潜って向へ抜ける」
② 他より優れる。ひいでる。ぬけでる。
源氏(1001‐14頃)藤裏葉「心いられせですぐされたるなん、すこし人にぬけたりける御心とおぼえける」
愚管抄(1220)六「ぬけたる器量の人なり」
③ 優れたものとして選び出される。
※洒落本・美地の蛎殻(1779)「江の島も跡を出す気の汐干潟といふ句がぬけたのサ」
④ 他より先に進む。また、出世する。
平家(13C前)八「群にぬけて追うてゆく」
⑤ 城などが、攻められて落ちる。
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「其の容易に抜けざるを察して攻撃を止めければ」
⑥ 一定の金額以上になる。また、利益をあげる。
滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「浮世風呂もこれで三編。板元の金設(かねもうけ)、又ずっしりとぬけました」
[二] はまっているもの、付いているものがとれてなくなる。
① はまっていたものが、そこから離れとれる。
※平家(13C前)四「太刀をぬいて戦ふに〈略〉目ぬきのもとよりちゃうど折れ、くっとぬけて」
内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉七「flask(フラスコ)の栓などが抜(ヌケ)たるにあらずや」
② 特に、からだについている、毛、歯などがとれる。
※枕(10C終)七五「毛のよくぬくるしろがねの毛抜き」
③ 勢いや力などがなくなる。また、ある習慣、性質や熱、味、香などが消える。また、備わっていたもの、あるべきものがなくなる。「かぜが抜ける」
※義経記(室町中か)五「腰やぬけたりけん、高這(たかばひ)にして三方へ逃げ散る」
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉八「兎角に内地のみを目当にして、取引したる癖は今尚ぬけず」
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉六七「次第次第力衰へ勢抜くるを見るよりも」
④ ある場所から逃げ去る。のがれ出る。ぬけだす。また、抜け参りをする。
平治(1220頃か)中「ここにあってはあしかりなんと思ひ給ひて、足にまかせてぬけ給ふ程に」
※俳諧・続猿蓑(1698)夏「いそがしき中をぬけたる涼かな〈游刀〉」
⑤ うまい言いわけをして追及をのがれる。言いぬける。
※咄本・軽口御前男(1703)二「『八卦に問はれよ』といふ。山伏聞て『されば八卦で見たれば、その方に問ふてゆけとあるほどに、それで問ひます』とぬけられた」
※にごりえ(1895)〈樋口一葉〉二「左様ぬけてはいけぬ、真実の処を話して聞かせよ」
⑥ 仲間からはずれる。また、あるべきものが脱落したり、すべきことを忘れたりする。もれる。「五字抜けている」
※新撰大阪詞大全(1841)「ぬけるとは、わするること」
知恵がたりないさまである。間抜けである。
※咄本・当世軽口咄揃(1679)二「少ぬけたるおとこ」
※女難(1903)〈国木田独歩〉五「人のよい、悪く言へば少し抜(ぬ)けて居るやうな処が見えて」
⑧ 取引市場で、利益を得た買い玉を転売して逃げ退く。

ぬき【抜】

〘名〙 (動詞「ぬく(抜)」の連用形名詞化)
① 除き去ること。省くこと。
※にごりえ(1895)〈樋口一葉〉三「串談(じょうだん)はぬきにして」
※まじょりか皿(1909)〈寺田寅彦〉「昼飯を抜きにする事があるが」
② 泥鰌(どじょう)などの骨を取り去ること。また、その骨を取った泥鰌やその料理。
※歌舞伎・勧善懲悪覗機関(村井長庵)(1862)三幕「やあ骨抜鰌鍋(ヌキ)だな、こいつあごうぎだ」
③ 他人の小刀、こうがいなどを抜き取る盗人。
※随筆・老人雑話(1713)乾「其比はぬすびとの刀かうがい小刀抔を抜取ことをしたり、是故に盗人をぬきと云し、今のすりと云が如し」
④ 食べ物で普通入れてあるものを除いたもの。餠を入れない汁粉、わさびを付けないにぎり鮨の類。また、天ぷらそばなどで、そばを入れないものもいう。
※歌舞伎・天衣紛上野初花(河内山)(1881)六幕「『入谷ぢゃあ、喰物見世は蕎麦屋ばかり』『天か玉子のぬきで呑むのもしみったれなはなしだから』」
※洒落本・猫謝羅子(1799)「此あいだ、あのべらぼう判者めが、かなちげへの句をぬきにしたとよ」
⑥ ごまかすこと。からくり
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下「女どもぬかるな。指にぬきがあるぞ」
⑦ (「せんぬき(栓抜)」の略) びんなどの栓を取りはずす道具。
※童謡(1935)〈川端康成〉「『馬鹿ねえ、お勝ねえさんのぬきよ』『ぬき?』『ビール栓抜きの鈴よ』」
⑧ 一対一で行なう試合で、対戦相手を続けて負かすこと。「五人抜き」
※おあんさま(1965)〈大原富枝〉「三番抜き、五番抜きの賞には大枚の金子や米が賭けられるという」
⑨ 多くかけ持ちしたり、何度も興行したりする場合に、一か所、または一回休演することをいう、寄席芸人仲間の語。

ぬけ【抜】

〘名〙 (動詞「ぬける(抜)」の連用形の名詞化)
① あるべきであるのに、もれているもの。「書類に一部抜けがある」
② 知恵のたりないこと。また、その人。
③ (「ずぬける」意から) やたらに多いこと。「ぬけに」の形で用いる。
※雑俳・川柳評万句合‐宝暦一三(1763)義四「行平へうらみつらみをぬけに言い」
④ (「あるものを抜いている」の意から) それより勝っていること。以上。
※歌舞伎・玉藻前御園公服(1821)三立「どう見ても菊五郎をぬけといふ男で」
※狂歌・雅筵酔狂集(1731)雑「観音の化身のこぞりかしこしとぬけをいふべき顔つきよ喝」
⑥ 俳諧で、主題を句の表面にあらわさないで、なぞめいた余意によってそれと暗示させる手法。談林俳諧で流行したもの。たとえば「鹿を追ふ猟師か今朝の八重霞〈舟中〉」では「鹿を追ふ猟師山を見ず」の諺から「山を見ず」という詞が「ぬけ」になっている。ぬけがら。
※俳諧・近来俳諧風躰抄(1679)「一、当時なぞなぞの躰、ぬけの句躰とて、はやりのやうにおもへども」
⑦ 江戸時代、大坂堂島の米相場で使われた語。持合(もちあい)値段より上に出ることをいう。
※稲の穂(1842‐幕末頃)「相場弐匁五分て持合て居る時、三匁以上に成るを三匁抜けと云、弐匁以下に成たを割れると云、上をぬけと言、下をわれと言」
⑧ 花札で、手役の点数の少ない者が勝負中に、標準点(八八点)以上の得点をすること。
⑨ 落ち度。欠点。
※黒住教教書(1909‐20)文集「しかし、此方先方之ぬけをとがめず」
⑩ 数の八をいう、荒物商、畳商、履物商などの符牒。

ぬか・る【抜】

〘自ラ五(四)〙
① うっかりして失敗する。油断する。
※羅葡日辞書(1595)「Catus〈略〉カシコキ モノ、nucarazaru(ヌカラザル) モノ、ワダカマリタル モノ」
※滑稽本・東海道中膝栗毛‐発端(1814)「『序に酒もかってくればいい』『それをぬかるものか』」
② ぐずぐずして時機を失する。また、だらしなくなる。
※京大二十冊本毛詩抄(1535頃)二「国へ入うと思はれい。何とてぬかってはいらるるぞ」
③ 有効に働かないことばを用いて一句を仕立てる。
※俳諧・初本結(1662)八「よる波のうつぼ舟社(こそ)哀なれ〈略〉五もじ、あらなみのうつぼ舟社とあらまほしき也。さればよるといふ詞用にたたぬゆへ一句ぬかる也」

ぬかり【抜】

〘名〙 (動詞「ぬかる(抜)」の連用形の名詞化) すべきことをうっかりしてしないでいること。また、そのため失敗すること。手落ち。手ぬかり。油断。
※虎明本狂言・文山立(室町末‐近世初)「是は何事ぞ。ぬかりはせまひぞ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android