中国,元代の郭守敬,王恂,許衡らによって制定された暦法。太陰太陽暦。《書経》尭典の〈敬授民時〉によって命名され,1281年(至元18)から実施された。明の大統暦も基本的に授時暦と変わるところがなく,両者を合わせると中国史上最長の364年間にわたって用いられ,中国天文学を集大成した最もすぐれた暦法であった。基本定数のうち1回帰年の値は南宋の楊忠輔の統天暦(1199)と同じ365.2425日(グレゴリオ暦の値と等しい)を採用し,1朔望月の値は29.530593日であり,近点月・交点月は金の重修大明暦,耶律楚材の征庚午元暦の値を採用した。これら天文定数は多くの儀器を作って観測を遂行した郭守敬が確定した。授時暦では弧矢割円術を用いて黄経と赤経・赤緯の交換などを行い,招差法(三次差補間法)を用いて太陽・月・惑星の運行を推算した。数値の取扱いで注目すべき点は,すべての定数の端数部分の共通分母を1万とする小数法(万分法)を採用し,統天暦と同じく上元積年の法に代わって近い過去に起算のエポックを取る近距の法を用いたことである。また統天暦に見える1年の長さが変化するという考え方を採り入れ,回帰年の長さが100年ごとに0.0002日不連続的に減少するとした歳実消長法を用いた。授時暦は江戸期の日本でさかんに研究され,建部賢弘の《授時暦諺解》が有名である。渋川春海は授時暦によって貞享暦(1685)を作り,麻田剛立は消長法を一般化させた。
執筆者:橋本 敬造
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中国の暦法の一つ。元(げん)朝の郭守敬(かくしゅけい)がつくった暦法で、1281年から施行された。明(みん)朝では、授時暦から消長法の部分を取り去って「大統暦」と名をかえて、明の滅亡まで長期間施行された。暦計算法に著しい改良が加えられた中国の優れた暦法の一つとされる。太陽年を365.2425日、朔望月(さくぼうげつ)を29.530593日とし、これに歳実消長法を加味したものである。授時暦の歳実消長法は、太陽年が時とともに変化し、100年につき1万分の1日ずつ短くなっていくというものである。日本にも伝来し、その研究者も多く、江戸時代の暦学に大きな影響を与えた。授時暦に関する研究書も多く刊行されたが、直接施行されることはなかった。渋川春海(しぶかわはるみ)(保井(やすい)春海)のつくった「貞享(じょうきょう)暦」は授時暦に範をとったものである。
[渡辺敏夫]
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…河南省洛陽告成鎮)。新暦は80年に完成して授時暦の名が与えられ,翌年からこの暦法体系によって暦が配布された。この編暦における郭守敬の考え方は,〈暦の本は測験にあり,而して測験の器は儀表に先だつものはなし〉という理論と実際の観測を結びつけた点にあった。…
…徳川幕府の基盤も安定し,学問が盛んになってようやく日本にも天文暦学者が現れた。中国暦法の最高の傑作といわれる元の授時(じゆじ)暦の研究が盛んになるとともに,漢訳ながらも西洋天文学を伝える《天経或問(てんけいわくもん)》という本ももたらされた。これらの研究を進めるとともにみずからも観測を行い,初めて自国の暦法貞享(じようきよう)暦を作るのに成功したのが渋川春海であった。…
…これを表現するのに1辰刻を初,正に二分し,おのおのに初刻,1刻,2刻,3刻,4刻があったが,初刻だけが古刻という短い時間であった。授時(じゆじ)暦では1日を96刻,1辰刻を8刻としてわかりやすい時法を採用している。 また民間では不定時法が使用され,夜明けの明,日暮れの昏の2刻半を除いて昼は朝,禺,中,晡,夕に分け,夜は甲,乙,丙,丁,戊に分けて使用していた。…
…楊輝もそうした数学書を書いている。元の郭守敬によって造られたとされる〈授時暦〉にはピタゴラスの定理を応用して球面三角形の問題を解いている。また元の時代にはイスラム諸国を通じてアラビア数字が伝わったこともある。…
※「授時暦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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