スチレンやアクリロニトリルなどモノマー(単量体)にγ線や電子線などの高エネルギー放射線を照射すると,二重結合への付加反応が連鎖的に起こり,高分子量の重合体(ポリマー)が得られる。このように放射線によって誘起される重合反応を放射線重合という。放射線はラジカルによる重合反応ばかりでなく,イオンによる重合反応の誘起も可能であり,場合によっては両機構が共存することもある。放射線が関与するのは連鎖反応の引金となる開始反応のみであり成長反応や連鎖の停止反応には関与しない。放射線重合は開始反応に熱活性を必要としないので-100℃以下のような低温での反応が可能であり,開始剤を使用しないので生成重合体中にその切片が含まれることがなく,純粋なものが得られるという特徴がある。また放射線は気相,液相,固相のいずれにおいても重合を開始しうることがもう一つの大きな特徴である。とくに固相における重合反応は開始剤を用いて開始することがほとんど不可能であり,放射線のみによって行いうる特異反応である。
放射線による固相での重合反応には種々の形式のものがある。アクリルアミドやアクリル酸金属塩の結晶に室温付近で放射線を照射すると,ラジカル機構によって重合が進む。反応は格子欠陥や結晶粒界の表面などモノマー結晶の乱れた部分において進行するものと考えられている。アクリロニトリルやホルムアルデヒドなどを液体窒素(-196℃)や液体ヘリウム(-269℃)で冷却し,放射線を照射すると重合体が得られる。この反応については,極低温で真に反応が起こっているかどうか,放射線によって生成し,凍結状態にあった活性な化学種が昇温時に反応を開始するものではないかなど,種々議論がある。環状モノマーであるトリオキサンやテトラオキサンの単結晶に放射線を照射すると,開環反応が連鎖的に起こり,単結晶の配向したポリオキシメチレンが得られる。これはモノマー単結晶中である定まった方向にのみ重合が進行するためと考えられており,トポタクティック重合と呼ぶこともある。尿素やチオ尿素は,アクリロニトリルや塩化ビニルなどと包接化合物を形成するが,これに放射線を照射して重合を行うと重合体の側鎖が立体的に規則正しく配置する立体規則性重合が起こる。
モノマーをその重合体とは異なったポリマーの共存下で放射線照射したり,あらかじめ放射線照射したポリマーに他のモノマーを接触させると,ポリマー上に生成したラジカルやイオンが開始点となって重合が起こり,ある幹ポリマーに別のポリマーを接木した形のグラフト共重合体が得られる。放射線によって誘起されるこのような反応を放射線グラフト共重合と呼び放射線重合に含めることがある。
執筆者:石榑 顕吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
高エネルギー放射線であるX線,α線,β線,γ線,中性子線などを単量体に照射して重合を行わせること.固相重合も可能である.重合の開始機構は複雑であるが,放射線を単量体に照射することにより,イオンあるいはラジカル(遊離基)が生成し,これらによって重合が進行するものと考えられる.
M → M+ + e
M → M* → M・
ラジカルの生成効率は,吸収されたエネルギー100 eV 当たりに生成するラジカル数(GR 値)で示される.したがって,GR 値の大きな溶媒は,一種の増感剤となりうる.重合体の共存下で単量体に放射線を照射すると,重合体ラジカルあるいは重合体ペルオキシドが生成し,グラフト共重合が進行する.エテン-テトラフルオロエテン,プロペン-テトラフルオロエテン,スチレン-アクリロニトリルなど多数の共重合反応も知られている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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