浄土真宗の開祖親鸞の主著。くわしくは《顕浄土真実教行証文類》。教・行・信・証・真仏土・化身土の6巻で構成されている。釈尊の経典やインド,中国,日本の高僧たちの著書から,浄土に生まれる教えとその修行法を明らかにした部分をぬきだして類別したもので,著述年時は不明。第6巻目の末法年時計算の基準に元仁元年(1224。親鸞52歳)をおくところから,これを著述の年にあてる説もある。本書は親鸞が東国伝道のとき,身辺に持ち,たえず訂正を加えていたようで,その一応の完成は京都に帰って以後,1247年(宝治1)ごろであろう。現在,自筆本は坂東本(国宝)と称し東本願寺に,写本は西本願寺,高田派専修寺(三重県)等に所蔵される。
教巻には,数多い釈尊の経典中,とくに《大無量寿経》が浄土往生を説く代表作であるとし,法蔵菩薩が人々を救おうと48の願をたて,永い修行の末に阿弥陀仏となり浄土を建設したいきさつを述べ,この阿弥陀仏を信ずる人は浄土に生まれると説く。行巻には,浄土に生まれる行は,阿弥陀仏の名号であると説く。名号には法蔵菩薩が人々に代わっておこなった行が含まれているので,これをとなえる人は,行を修さなくとも,名号の力で仏になれるという。信巻には,名号は人々を救うためのものではあるが,これを信じなければ救われない。浄土に生まれるか否かは,信ずるか否かによると説く。これを信心正因と称する。真仏土巻には,阿弥陀仏のさとりの世界である真仏真土を説く。阿弥陀仏およびその国土(浄土)は,仏の前身法蔵菩薩が願をたて修行した因に報いて出現した報仏報土である。しかしまた,その因願に真実と方便があり,その結果である浄土にも真実と方便がある。真実の因願より生ずるのが真仏真土,方便の因願に応ずるのが化身化土である。この化身化土について述べたのが,最後の第6巻である。本書6巻のうち,第3の信巻がその中心をなす。親鸞の師法然は仏教の中から専修念仏をえらび,親鸞はそのもっぱら念仏を修するなかに,信心正因・称名報恩という立場を析出した。本書第2の行巻の〈正信偈(しようしんげ)〉に,阿弥陀仏の本願を信ずるとき,浄土に生まれることができる。浄土往生がきまった人は,つねによく名号をとなえ,救ってくださる仏の恩を感謝すべきであると,真宗念仏者の立場を明示する。真宗念仏者が,朝夕の仏前礼拝にとなえるのが,この〈正信偈〉である。
執筆者:千葉 乗隆
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鎌倉初期の仏教書。親鸞(しんらん)の著。1224年(元仁1)成立とする説など多くの説があるが、弟子尊蓮(そんれん)の書写をいちおうのめどとすれば、1247年(宝治1)にはできあがっていたとみられる。この書は、教、行、信、証、真仏土(しんぶつど)、化身土(けしんど)の6巻からなる。初めに総序を置いて阿弥陀仏(あみだぶつ)の絶対他力を論じ、信巻にも序を設けて信の重要性を示し、最後の結びに後序を記して法然(ほうねん)(源空)門下の罪科に処せられたことや、師法然より受けた恩恕(おんじょ)などに触れている。彼はこの書においてまず浄土(じょうど)に往生(おうじょう)する往相(おうそう)も、浄土よりこの土に帰って世の人に救いを与える還相(げんそう)も、ともに仏の本願力の回向(えこう)によると断じた。したがって、教えも念仏も信心も悟りもすべて仏よりの回向によることを経典や論疏(ろんしょ)などに証拠を求めて論証しているが、とくに疑心の混じらない真実の信心によって、これを浄土往来の正因(しょういん)とした。ついで、さとりの果(か)としての真実の仏とその浄土を説明し、さらに、これに真、化があるとして、その化身土にも仏の救いがあることを示した。この書は親鸞鏤骨(るこつ)の書で、親鸞の宗教の骨髄であるから、浄土真宗においては立教開宗の書とされるのも当然である。
[石田瑞麿]
『『日本思想大系11 親鸞』(1971・岩波書店)』▽『石田瑞麿著『注訳親鸞全集 教行信証』上下(1976、79・春秋社)』
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親鸞撰の書で,浄土真宗の立教開宗および教義に関する根本聖典。正称は「顕浄土真実教行証文類」。教・行・信・証・真仏土・化身土の6巻からなり,広く経論釈を引用し解説を加えている。親鸞が関東在住時代にまとめたが,帰洛後も補訂を死ぬまで続けたと考えられている。教・行・信・証の4巻では「大無量寿経」を根本聖典とした念仏の行・悟り・往生のことを説き,真仏土・化身土の2巻では念仏の結果得られる真実の仏身・仏土や浄土真宗の位置などを論じている。写本・注釈書も多いが,坂東本とよばれる東本願寺蔵の真筆本は国宝。「日本思想大系」「定本親鸞聖人全集」所収。
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…そしてまた法然の,現世を過ごすには念仏の妨げとなるものはすべて捨てさるべきであり,聖であって念仏ができなければ妻帯し,妻帯して念仏ができないなれば聖になって念仏せよとの意向によるものでもあった。流罪に関して,親鸞は後年《教行信証(きようぎようしんしよう)》に〈真宗興隆の大祖源空法師ならびに門徒数輩,罪科を考えず猥しく死罪に坐す。或は僧儀を改め姓名を賜うて流罪に処す。…
※「教行信証」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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